98 / 198
第十二章:菊池章太と初期パーティー
9
しおりを挟む
だから余計に、神谷くんが “ボス” なんじゃないかって思ったりもした。
「神谷くんは……はい。優しかったです、確かに。すごく特別な依頼者でした」
「うん、そう」
優しくて、穏やかな返事だった。
でも、それ以上は僕も菊池先輩も言葉が出て来なくて、話題はするりと切り替えられてしまった。
「そうだ、ねぇ。番号交換しようか」
そう言って菊池先輩は自身の携帯電話を取り出した。だけど、僕は今……。
「あの……」
「佐久間から使用禁止命令が出てるんでしょ?」
知ってるよ、と言いながら、菊池先輩は僕の奥にある鞄を引っ掴むと、勝手に中から携帯電話を取り出した。
「おやまぁ、ひどいもの持たされて」
取り出した僕の携帯電話。
それは春フェス当日、いきなりマネージャーから渡された。
うちのマネージャーは二人居るが、そのうちの一人から呼び出され、このガラケーを渡された。そして、今まで二台持ちしていた携帯は二つとも没収されたのだ。
事件のことを知っているとマネージャーに言われ、僕は押し黙るしかなかった。パーティー本部と会社からの命令だと言われ、僕は二台の携帯と引き換えに、このガラケーを持たされることになったのだ。
メモリーはマネージャーの番号と、事務所の番号。そして浅野先輩の電話番号と、気休めに家族の電話番号が入っているだけだ。
メールもできなければ、ネットにもつながらない、電話機能しかない携帯電話。
今まで使っていたものは水没させたことにしておけと言われ、その場で二台の携帯電話は電源が落とされた。
「不便でしょ」
「……はい」
今頃僕の携帯は色々と探られているのだろうか。神谷くんとのやり取りも、雪村さんとのやり取りも、そして……西くんとやり取りした、大事なメールも全部……。
「これから、俺が毎晩電話してあげる。そしたら健吾の相手しなくて済むでしょ」
またそうやって浅野先輩を弄り、僕の携帯に勝手に自分の番号を打ち込みながら、菊池先輩はぼそりと呟いた。
「俺が引き取りたかったのになぁ」
……と。
ビックリして菊池先輩を見たけど、彼は入力し終えた自分の番号に電話を掛け、僕の携帯番号を記録させた。
「はい。これで完了。佐久間がうだうだ文句言って来たら、教えてね。殴りに行くから」
安心して、と言い出しそうな顔でニッコリ微笑むと、「今夜泊って行きなよ」と言いながらキッチンへ向かった。
「いや……でも、佐久間さんから外泊も禁止されているので」
「大丈夫だよ。佐久間はボスじゃない。別に居るって言ったでしょ?」
いや、そのボス命令が佐久間さんに下りてきてるんじゃないのかとそう思ったけど、菊池先輩は続けて言った。
「ボスの両脇を固めているのは佐久間だけじゃない。俺がボスの右腕だ。佐久間の命令は俺の命令に等しい」
そしてキッチンカウンターで僕を振り返った菊池先輩は、優しい口調で命令を下した。
「“今夜、泊ってけよ”」
「神谷くんは……はい。優しかったです、確かに。すごく特別な依頼者でした」
「うん、そう」
優しくて、穏やかな返事だった。
でも、それ以上は僕も菊池先輩も言葉が出て来なくて、話題はするりと切り替えられてしまった。
「そうだ、ねぇ。番号交換しようか」
そう言って菊池先輩は自身の携帯電話を取り出した。だけど、僕は今……。
「あの……」
「佐久間から使用禁止命令が出てるんでしょ?」
知ってるよ、と言いながら、菊池先輩は僕の奥にある鞄を引っ掴むと、勝手に中から携帯電話を取り出した。
「おやまぁ、ひどいもの持たされて」
取り出した僕の携帯電話。
それは春フェス当日、いきなりマネージャーから渡された。
うちのマネージャーは二人居るが、そのうちの一人から呼び出され、このガラケーを渡された。そして、今まで二台持ちしていた携帯は二つとも没収されたのだ。
事件のことを知っているとマネージャーに言われ、僕は押し黙るしかなかった。パーティー本部と会社からの命令だと言われ、僕は二台の携帯と引き換えに、このガラケーを持たされることになったのだ。
メモリーはマネージャーの番号と、事務所の番号。そして浅野先輩の電話番号と、気休めに家族の電話番号が入っているだけだ。
メールもできなければ、ネットにもつながらない、電話機能しかない携帯電話。
今まで使っていたものは水没させたことにしておけと言われ、その場で二台の携帯電話は電源が落とされた。
「不便でしょ」
「……はい」
今頃僕の携帯は色々と探られているのだろうか。神谷くんとのやり取りも、雪村さんとのやり取りも、そして……西くんとやり取りした、大事なメールも全部……。
「これから、俺が毎晩電話してあげる。そしたら健吾の相手しなくて済むでしょ」
またそうやって浅野先輩を弄り、僕の携帯に勝手に自分の番号を打ち込みながら、菊池先輩はぼそりと呟いた。
「俺が引き取りたかったのになぁ」
……と。
ビックリして菊池先輩を見たけど、彼は入力し終えた自分の番号に電話を掛け、僕の携帯番号を記録させた。
「はい。これで完了。佐久間がうだうだ文句言って来たら、教えてね。殴りに行くから」
安心して、と言い出しそうな顔でニッコリ微笑むと、「今夜泊って行きなよ」と言いながらキッチンへ向かった。
「いや……でも、佐久間さんから外泊も禁止されているので」
「大丈夫だよ。佐久間はボスじゃない。別に居るって言ったでしょ?」
いや、そのボス命令が佐久間さんに下りてきてるんじゃないのかとそう思ったけど、菊池先輩は続けて言った。
「ボスの両脇を固めているのは佐久間だけじゃない。俺がボスの右腕だ。佐久間の命令は俺の命令に等しい」
そしてキッチンカウンターで僕を振り返った菊池先輩は、優しい口調で命令を下した。
「“今夜、泊ってけよ”」
10
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説




いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる