二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第十二章:菊池章太と初期パーティー

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 だから余計に、神谷くんが “ボス” なんじゃないかって思ったりもした。

「神谷くんは……はい。優しかったです、確かに。すごく特別な依頼者でした」
「うん、そう」

 優しくて、穏やかな返事だった。
 でも、それ以上は僕も菊池先輩も言葉が出て来なくて、話題はするりと切り替えられてしまった。

「そうだ、ねぇ。番号交換しようか」

 そう言って菊池先輩は自身の携帯電話を取り出した。だけど、僕は今……。

「あの……」
使んでしょ?」

 知ってるよ、と言いながら、菊池先輩は僕の奥にある鞄を引っ掴むと、勝手に中から携帯電話を取り出した。

「おやまぁ、ひどいもの持たされて」

 取り出した僕の携帯電話。
 それは春フェス当日、いきなりマネージャーから渡された。
 うちのマネージャーは二人居るが、そのうちの一人から呼び出され、このガラケーを渡された。そして、今まで二台持ちしていた携帯は二つとも没収されたのだ。

 事件のことを知っているとマネージャーに言われ、僕は押し黙るしかなかった。パーティー本部と会社からの命令だと言われ、僕は二台の携帯と引き換えに、このガラケーを持たされることになったのだ。

 メモリーはマネージャーの番号と、事務所の番号。そして浅野先輩の電話番号と、気休めに家族の電話番号が入っているだけだ。

 メールもできなければ、ネットにもつながらない、電話機能しかない携帯電話。

 今まで使っていたものは水没させたことにしておけと言われ、その場で二台の携帯電話は電源が落とされた。

「不便でしょ」
「……はい」

 今頃僕の携帯は色々と探られているのだろうか。神谷くんとのやり取りも、雪村さんとのやり取りも、そして……西くんとやり取りした、大事なメールも全部……。

「これから、俺が毎晩電話してあげる。そしたら健吾の相手しなくて済むでしょ」

 またそうやって浅野先輩を弄り、僕の携帯に勝手に自分の番号を打ち込みながら、菊池先輩はぼそりと呟いた。

「俺が引き取りたかったのになぁ」

 ……と。

 ビックリして菊池先輩を見たけど、彼は入力し終えた自分の番号に電話を掛け、僕の携帯番号を記録させた。

「はい。これで完了。佐久間がうだうだ文句言って来たら、教えてね。殴りに行くから」

 安心して、と言い出しそうな顔でニッコリ微笑むと、「今夜泊って行きなよ」と言いながらキッチンへ向かった。

「いや……でも、佐久間さんから外泊も禁止されているので」
「大丈夫だよ。佐久間はボスじゃない。別に居るって言ったでしょ?」

 いや、そのボス命令が佐久間さんに下りてきてるんじゃないのかとそう思ったけど、菊池先輩は続けて言った。

「ボスの両脇を固めているのは佐久間だけじゃない。俺がボスの右腕だ。佐久間の命令は俺の命令に等しい」

 そしてキッチンカウンターで僕を振り返った菊池先輩は、優しい口調で命令を下した。

「“今夜、泊ってけよ”」

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