92 / 198
第十二章:菊池章太と初期パーティー
3
しおりを挟む
吹き出す僕に、菊池先輩はやっと笑ったって顔をして、僕の頭を優しく撫でると、「大丈夫だよ」って優しく言ってくれた。
正直……、こんな人だとは思ってなかった。
少し怖くて、少し冷たくて、少し神経質そうで、少し取っ付きにくくて、いつも割と辛口。そういうイメージだった。でも思ってる以上に冗談を言う人で、イメージ通り淡々と喋る感じなんだけど、温かい声を持ってる人だと思った。
「今度俺がデートに連れてってあげよう」
そう言われた。春フェス、初日に。
「健吾のピアノじゃしんみりしちゃって、元気出るどころか、気持ち沈んじゃうでしょ? っていうか眠くなるのが先か?」
またそんな冗談を言って軽く笑い飛ばす。
そして今日。約束通り僕は、菊池先輩にデートに連れて行ってもらった。
朝、映画を一本見てからランチを食べに行き、昼からは「体動かそうよ」と言われ、初めてのボルタリングに挑戦した。菊池先輩はよく来るのかするすると登っていくから僕だけずっと置いてけぼりだった。上から僕を見下ろし、「筋力つけろ、三木~」って笑う菊池先輩は、事件の事なんかまるでなかったみたいにキラキラ輝いてて、あぁ、すごく綺麗な顔をしている人だなって改めて思った。
一汗かくと、少し気分が晴れたような気がして、頭を動かしているより体を動かしている方がよほど気持ちが晴れることを知った。
楽しかったと素直に伝えると、菊池先輩は「だろ~?」って笑い、「あとはそう、知ってるか?」と僕を指さすと、満面の笑みで言った。
「馬鹿ほど金使え。気持ちいいから」
と、とんでもないことを言い出すと、僕を買い物へと誘った。「女に金を使うのはお前にはバカらしいだろうから、買い物しよう」なんて言ってさ。
沢山買い物をした。欲しいもの全部買えって言われて、菊池先輩が似合うって言ってくれた服、全部買った。あの事件で汚されてしまったお気に入りのラグも、思い切って買い替えることにした。同時にそれは、浅野先輩の家から出ることを意味するものでもあった。
「引っ越し……しようと思います」
買ったラグを実家に送る手続きをしながら、僕はしなくてもいい報告を呟いていた。
菊池先輩は「いいんじゃない」と頷き、「健吾と暮らしてたらケチくさくなるからね」と、ここでもまた浅野さんいじりをぶっかましてくれた。
クスクス笑ってしまう僕に、菊池先輩も優しく微笑み、低く落ち着いたトーンで、僕にだけ聞こえる小さな声で、「この後、ウチくる?」って誘ってくれた。
断るなんて不可能だと思った。ウチくる?の意味が何なのか、半分分かって、半分分からなかった。でも、半分分かった上で、僕は頷いたんだ。
正直……、こんな人だとは思ってなかった。
少し怖くて、少し冷たくて、少し神経質そうで、少し取っ付きにくくて、いつも割と辛口。そういうイメージだった。でも思ってる以上に冗談を言う人で、イメージ通り淡々と喋る感じなんだけど、温かい声を持ってる人だと思った。
「今度俺がデートに連れてってあげよう」
そう言われた。春フェス、初日に。
「健吾のピアノじゃしんみりしちゃって、元気出るどころか、気持ち沈んじゃうでしょ? っていうか眠くなるのが先か?」
またそんな冗談を言って軽く笑い飛ばす。
そして今日。約束通り僕は、菊池先輩にデートに連れて行ってもらった。
朝、映画を一本見てからランチを食べに行き、昼からは「体動かそうよ」と言われ、初めてのボルタリングに挑戦した。菊池先輩はよく来るのかするすると登っていくから僕だけずっと置いてけぼりだった。上から僕を見下ろし、「筋力つけろ、三木~」って笑う菊池先輩は、事件の事なんかまるでなかったみたいにキラキラ輝いてて、あぁ、すごく綺麗な顔をしている人だなって改めて思った。
一汗かくと、少し気分が晴れたような気がして、頭を動かしているより体を動かしている方がよほど気持ちが晴れることを知った。
楽しかったと素直に伝えると、菊池先輩は「だろ~?」って笑い、「あとはそう、知ってるか?」と僕を指さすと、満面の笑みで言った。
「馬鹿ほど金使え。気持ちいいから」
と、とんでもないことを言い出すと、僕を買い物へと誘った。「女に金を使うのはお前にはバカらしいだろうから、買い物しよう」なんて言ってさ。
沢山買い物をした。欲しいもの全部買えって言われて、菊池先輩が似合うって言ってくれた服、全部買った。あの事件で汚されてしまったお気に入りのラグも、思い切って買い替えることにした。同時にそれは、浅野先輩の家から出ることを意味するものでもあった。
「引っ越し……しようと思います」
買ったラグを実家に送る手続きをしながら、僕はしなくてもいい報告を呟いていた。
菊池先輩は「いいんじゃない」と頷き、「健吾と暮らしてたらケチくさくなるからね」と、ここでもまた浅野さんいじりをぶっかましてくれた。
クスクス笑ってしまう僕に、菊池先輩も優しく微笑み、低く落ち着いたトーンで、僕にだけ聞こえる小さな声で、「この後、ウチくる?」って誘ってくれた。
断るなんて不可能だと思った。ウチくる?の意味が何なのか、半分分かって、半分分からなかった。でも、半分分かった上で、僕は頷いたんだ。
10
お気に入りに追加
30
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。


男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる