二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第十二章:菊池章太と初期パーティー

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 吹き出す僕に、菊池先輩はやっと笑ったって顔をして、僕の頭を優しく撫でると、「大丈夫だよ」って優しく言ってくれた。

 正直……、こんな人だとは思ってなかった。
 少し怖くて、少し冷たくて、少し神経質そうで、少し取っ付きにくくて、いつも割と辛口。そういうイメージだった。でも思ってる以上に冗談を言う人で、イメージ通り淡々と喋る感じなんだけど、温かい声を持ってる人だと思った。

「今度俺がデートに連れてってあげよう」

 そう言われた。春フェス、初日に。

「健吾のピアノじゃしんみりしちゃって、元気出るどころか、気持ち沈んじゃうでしょ? っていうか眠くなるのが先か?」

 またそんな冗談を言って軽く笑い飛ばす。
 そして今日。約束通り僕は、菊池先輩にデートに連れて行ってもらった。

 朝、映画を一本見てからランチを食べに行き、昼からは「体動かそうよ」と言われ、初めてのボルタリングに挑戦した。菊池先輩はよく来るのかするすると登っていくから僕だけずっと置いてけぼりだった。上から僕を見下ろし、「筋力つけろ、三木~」って笑う菊池先輩は、事件の事なんかまるでなかったみたいにキラキラ輝いてて、あぁ、すごく綺麗な顔をしている人だなって改めて思った。

 一汗かくと、少し気分が晴れたような気がして、頭を動かしているより体を動かしている方がよほど気持ちが晴れることを知った。

 楽しかったと素直に伝えると、菊池先輩は「だろ~?」って笑い、「あとはそう、知ってるか?」と僕を指さすと、満面の笑みで言った。

「馬鹿ほど金使え。気持ちいいから」

 と、とんでもないことを言い出すと、僕を買い物へと誘った。「女に金を使うのはお前にはバカらしいだろうから、買い物しよう」なんて言ってさ。

 沢山買い物をした。欲しいもの全部買えって言われて、菊池先輩が似合うって言ってくれた服、全部買った。あの事件で汚されてしまったお気に入りのラグも、思い切って買い替えることにした。同時にそれは、浅野先輩の家から出ることを意味するものでもあった。

「引っ越し……しようと思います」

 買ったラグを実家に送る手続きをしながら、僕はしなくてもいい報告を呟いていた。
 菊池先輩は「いいんじゃない」と頷き、「健吾と暮らしてたらケチくさくなるからね」と、ここでもまた浅野さんいじりをぶっかましてくれた。

 クスクス笑ってしまう僕に、菊池先輩も優しく微笑み、低く落ち着いたトーンで、僕にだけ聞こえる小さな声で、「この後、ウチくる?」って誘ってくれた。

 断るなんて不可能だと思った。ウチくる?の意味が何なのか、半分分かって、半分分からなかった。でも、半分分かった上で、僕は頷いたんだ。
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