二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第十一章:春フェス

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 ゴールデンウィーク直前の温かい陽射しの中、美しいピアノの音色が鳴りやむと、浅野先輩は僕の前に腰を下ろした。

「嘘はつかないで、素直に話してね。じゃないと、僕も佐久間も、君を守り切れない」

 ……守る。それは、佐久間さんから僕を守るという意味ではなく、永井くん達から僕を守るという意味だった。

「ユキとは寝たの?」

 単刀直入に問われ、僕は頷いた。今更つく嘘なんて無いと思ったから。

「君が誘ったの?」

 続けて尋ねられ、引っ越した日のことを思い出す。あの日、どうしてあんなことになったんだろうか。僕が……誘ったんだろうか。

「よく……分かりません」
「思い出して」

 この人、優しい顔して結構スパルタかもしれない。だから事実だけを話す。誘ったかどうかなんて分からない。

「断ったんですけど、雪村さんにお酒を飲まされました。一杯だけ。だけど僕その時まだ未成年で……一度も飲んだことなくて、すぐ酔っぱらっちゃって……」

 もちろん今もアルコールに免疫はない。二週間ほど前に二十歳の誕生日を迎えたばかりだ。

「酔った勢いで寝たってこと?」

 けどそんな事を言われて心外だと思った。人聞きの悪い言い方だ。
 ムッとしてしまったのは仕方ない。

「……そうかもしれませんね」

 だから吐き捨てるように言ってしまった。先輩に向けるような態度ではなかっただろう。だけどそんな僕に浅野先輩は優しく「怒らないで」と言った。

「事実を知りたいだけなんだ。違うんだったら、否定してくれればいい」
「じゃあ、違います」

 否定すると同時に、僕は悔しさと悲しさと情けなさと、そして潰されそうなほどの申し訳なさに……涙が込み上げた。

 僕と雪村さんの関係は、そんな単純じゃないんだ。お互いの寂しさと、優しさを分け合いながら一緒に居た。足りないものを埋めるように。どうしたって綺麗に埋め合わせることは出来ないのに、それでもどうにか空いた穴を埋めようとしてたんだよ、お互いに。

「同意の上でした。先輩から距離を詰めて来たんです。向かい合わせで座っていたはずなのに、いつの間にか隣に……先輩がいて。僕は誘ってません。たまたま同じマンションに引っ越したから挨拶に行っただけです。まさか家に上げてもらえるなんて……っ、露ほども思ってなかった……!」

 お近づきになりたいとは思った。先輩に気に入られて、永井くん達の壁になってもらおうって、確かにそういう魂胆はあった。認めるよ。だけど誘ってない。そんなつもりはなかった。
 雪村さんの方が先に、僕へ手を伸ばしたんだ……っ。

「そう。ありがとう、教えてくれて」

 ソファに座る僕の頭を優しく撫でた浅野先輩は、膝の上で拳を作る僕の手をそっと包んだ。

「それでいいんだよ。真実を教えてくれればいい。僕は君を責めるつもりも、ユキを庇うつもりも、ましてや永井達の味方でもない。佐久間が暴走しようとするなら、ちゃんと止める。君を守るし、ユキも守る」

 そう言うと、浅野先輩は僕の手を離し、「佐久間、怖いでしょ?」と笑った。
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