83 / 198
第十一章:春フェス
2
しおりを挟む
ゴールデンウィーク直前の温かい陽射しの中、美しいピアノの音色が鳴りやむと、浅野先輩は僕の前に腰を下ろした。
「嘘はつかないで、素直に話してね。じゃないと、僕も佐久間も、君を守り切れない」
……守る。それは、佐久間さんから僕を守るという意味ではなく、永井くん達から僕を守るという意味だった。
「ユキとは寝たの?」
単刀直入に問われ、僕は頷いた。今更つく嘘なんて無いと思ったから。
「君が誘ったの?」
続けて尋ねられ、引っ越した日のことを思い出す。あの日、どうしてあんなことになったんだろうか。僕が……誘ったんだろうか。
「よく……分かりません」
「思い出して」
この人、優しい顔して結構スパルタかもしれない。だから事実だけを話す。誘ったかどうかなんて分からない。
「断ったんですけど、雪村さんにお酒を飲まされました。一杯だけ。だけど僕その時まだ未成年で……一度も飲んだことなくて、すぐ酔っぱらっちゃって……」
もちろん今もアルコールに免疫はない。二週間ほど前に二十歳の誕生日を迎えたばかりだ。
「酔った勢いで寝たってこと?」
けどそんな事を言われて心外だと思った。人聞きの悪い言い方だ。
ムッとしてしまったのは仕方ない。
「……そうかもしれませんね」
だから吐き捨てるように言ってしまった。先輩に向けるような態度ではなかっただろう。だけどそんな僕に浅野先輩は優しく「怒らないで」と言った。
「事実を知りたいだけなんだ。違うんだったら、否定してくれればいい」
「じゃあ、違います」
否定すると同時に、僕は悔しさと悲しさと情けなさと、そして潰されそうなほどの申し訳なさに……涙が込み上げた。
僕と雪村さんの関係は、そんな単純じゃないんだ。お互いの寂しさと、優しさを分け合いながら一緒に居た。足りないものを埋めるように。どうしたって綺麗に埋め合わせることは出来ないのに、それでもどうにか空いた穴を埋めようとしてたんだよ、お互いに。
「同意の上でした。先輩から距離を詰めて来たんです。向かい合わせで座っていたはずなのに、いつの間にか隣に……先輩がいて。僕は誘ってません。たまたま同じマンションに引っ越したから挨拶に行っただけです。まさか家に上げてもらえるなんて……っ、露ほども思ってなかった……!」
お近づきになりたいとは思った。先輩に気に入られて、永井くん達の壁になってもらおうって、確かにそういう魂胆はあった。認めるよ。だけど誘ってない。そんなつもりはなかった。
雪村さんの方が先に、僕へ手を伸ばしたんだ……っ。
「そう。ありがとう、教えてくれて」
ソファに座る僕の頭を優しく撫でた浅野先輩は、膝の上で拳を作る僕の手をそっと包んだ。
「それでいいんだよ。真実を教えてくれればいい。僕は君を責めるつもりも、ユキを庇うつもりも、ましてや永井達の味方でもない。佐久間が暴走しようとするなら、ちゃんと止める。君を守るし、ユキも守る」
そう言うと、浅野先輩は僕の手を離し、「佐久間、怖いでしょ?」と笑った。
「嘘はつかないで、素直に話してね。じゃないと、僕も佐久間も、君を守り切れない」
……守る。それは、佐久間さんから僕を守るという意味ではなく、永井くん達から僕を守るという意味だった。
「ユキとは寝たの?」
単刀直入に問われ、僕は頷いた。今更つく嘘なんて無いと思ったから。
「君が誘ったの?」
続けて尋ねられ、引っ越した日のことを思い出す。あの日、どうしてあんなことになったんだろうか。僕が……誘ったんだろうか。
「よく……分かりません」
「思い出して」
この人、優しい顔して結構スパルタかもしれない。だから事実だけを話す。誘ったかどうかなんて分からない。
「断ったんですけど、雪村さんにお酒を飲まされました。一杯だけ。だけど僕その時まだ未成年で……一度も飲んだことなくて、すぐ酔っぱらっちゃって……」
もちろん今もアルコールに免疫はない。二週間ほど前に二十歳の誕生日を迎えたばかりだ。
「酔った勢いで寝たってこと?」
けどそんな事を言われて心外だと思った。人聞きの悪い言い方だ。
ムッとしてしまったのは仕方ない。
「……そうかもしれませんね」
だから吐き捨てるように言ってしまった。先輩に向けるような態度ではなかっただろう。だけどそんな僕に浅野先輩は優しく「怒らないで」と言った。
「事実を知りたいだけなんだ。違うんだったら、否定してくれればいい」
「じゃあ、違います」
否定すると同時に、僕は悔しさと悲しさと情けなさと、そして潰されそうなほどの申し訳なさに……涙が込み上げた。
僕と雪村さんの関係は、そんな単純じゃないんだ。お互いの寂しさと、優しさを分け合いながら一緒に居た。足りないものを埋めるように。どうしたって綺麗に埋め合わせることは出来ないのに、それでもどうにか空いた穴を埋めようとしてたんだよ、お互いに。
「同意の上でした。先輩から距離を詰めて来たんです。向かい合わせで座っていたはずなのに、いつの間にか隣に……先輩がいて。僕は誘ってません。たまたま同じマンションに引っ越したから挨拶に行っただけです。まさか家に上げてもらえるなんて……っ、露ほども思ってなかった……!」
お近づきになりたいとは思った。先輩に気に入られて、永井くん達の壁になってもらおうって、確かにそういう魂胆はあった。認めるよ。だけど誘ってない。そんなつもりはなかった。
雪村さんの方が先に、僕へ手を伸ばしたんだ……っ。
「そう。ありがとう、教えてくれて」
ソファに座る僕の頭を優しく撫でた浅野先輩は、膝の上で拳を作る僕の手をそっと包んだ。
「それでいいんだよ。真実を教えてくれればいい。僕は君を責めるつもりも、ユキを庇うつもりも、ましてや永井達の味方でもない。佐久間が暴走しようとするなら、ちゃんと止める。君を守るし、ユキも守る」
そう言うと、浅野先輩は僕の手を離し、「佐久間、怖いでしょ?」と笑った。
10
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説




いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる