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第九章:葛藤と加護と脅威
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四月。毎年行われる事務所の一大イベント、ANNADOLスプリングスーパーフェスタ。カウントダウン同様、すべての所属タレントが一堂に会するお祭りだ。カウコンよりももっともっと規模の大きなお祭り。エッグも総出だ。
歌って踊ってだけじゃないのがこのイベントで、ファンと触れ合ったり、一緒にゲームしたり、トークショーがあったりと、とにかく盛りだくさんのイベントだ。
どうしたって永井くん達と会わなければいけない。避けては通れない。どうやって逃げる? どうやって隠れる? 刻一刻と近付く春フェス。眠ることも怖くて、朝日が永遠に昇らなければいいと、一体何度願っただろうか。
怖い、怖い……怖い。
心を支配するのは、恐怖心のみだ。わざと骨折してみようかとか、階段から転げ落ちてみようかとか、あの車にひかれてみたらどうなるのかな……とか。思考はそこにまで達していて、気が狂いそうな毎日を過ごす。
フェス三日前。
それは突然――、悪魔が訪問をしてきた。
夜。
鳴り響く玄関チャイム。何度も何度もしつこく鳴り響くそれは、まるでサイレンのようにこだまし、耳と脳を支配していく。怖くて、このチャイム音を聞きたくなくて必死に耳を塞ぐけど、それは止むことなく、ついにはドンドンと激しく扉が叩かれ始めた。
マンション内にどうやって入って来たのか。やくざの取り立てよりしつこいんじゃないかと思うほどチャイムを鳴らされ続け、激しくドアが叩かれる。
いつの間に部屋番号まで知られていた? これじゃ逃げられない。最悪の事態だ。どうすればいい……っ!
「おい、颯太! いるんだろ! 知ってんぞ、コラ! 開けろぉ!」
ドンドンっと殴るように叩かれる玄関ドア。
やばい。どうしよう……、どうしよう。
恐怖の中、最初に浮かんだのは西くんだった。
震える手で西くんに助けを求めそうになって、だけどコールする寸前。はっと我に返った。
西くんはダメだ。あの人を巻き込んじゃいけない。殴り合いの喧嘩になる。そんなのこのフェス前にあってはならない。こんなことで西くんが謹慎でも食らえば僕の望むところじゃない。違うんだ。西くんを守りたいから、今の今まで必死になっていたんじゃないか。
「……先……輩」
殴らずとも、喧嘩せずとも、事態を収拾できる人物。
そんなの、一人しかいない。
「先輩……っ、お願い……、出て!」
震える手で雪村さんに電話をした。
だけど何度かけても、何度かけても出てはくれなかった。
きっと仕事をしているんだ。春フェス前は深夜まで仕事をしていてもおかしな時期じゃない。グループが違えば他のタレントのスケジュールなんかさっぱり分からないけど、春フェス三日前だ。しかも今雪村さんの居るグループは新ユニットの発表を数日前に行ったたばかりで、このフェスが初めてのステージになる。きっとその限定ユニットのダンスレッスン等に時間を使っているはずだ。
だめだ……。これだけ電話して出てもらえないとなると……。
「いつまで篭ってるつもりだ! ドア蹴破ってほしいのか!? あぁ!? さっさと開けろボケ!」
ドカドカとドアを蹴る音が大きく響く。
やっぱり……西くんに電話する?
歌って踊ってだけじゃないのがこのイベントで、ファンと触れ合ったり、一緒にゲームしたり、トークショーがあったりと、とにかく盛りだくさんのイベントだ。
どうしたって永井くん達と会わなければいけない。避けては通れない。どうやって逃げる? どうやって隠れる? 刻一刻と近付く春フェス。眠ることも怖くて、朝日が永遠に昇らなければいいと、一体何度願っただろうか。
怖い、怖い……怖い。
心を支配するのは、恐怖心のみだ。わざと骨折してみようかとか、階段から転げ落ちてみようかとか、あの車にひかれてみたらどうなるのかな……とか。思考はそこにまで達していて、気が狂いそうな毎日を過ごす。
フェス三日前。
それは突然――、悪魔が訪問をしてきた。
夜。
鳴り響く玄関チャイム。何度も何度もしつこく鳴り響くそれは、まるでサイレンのようにこだまし、耳と脳を支配していく。怖くて、このチャイム音を聞きたくなくて必死に耳を塞ぐけど、それは止むことなく、ついにはドンドンと激しく扉が叩かれ始めた。
マンション内にどうやって入って来たのか。やくざの取り立てよりしつこいんじゃないかと思うほどチャイムを鳴らされ続け、激しくドアが叩かれる。
いつの間に部屋番号まで知られていた? これじゃ逃げられない。最悪の事態だ。どうすればいい……っ!
「おい、颯太! いるんだろ! 知ってんぞ、コラ! 開けろぉ!」
ドンドンっと殴るように叩かれる玄関ドア。
やばい。どうしよう……、どうしよう。
恐怖の中、最初に浮かんだのは西くんだった。
震える手で西くんに助けを求めそうになって、だけどコールする寸前。はっと我に返った。
西くんはダメだ。あの人を巻き込んじゃいけない。殴り合いの喧嘩になる。そんなのこのフェス前にあってはならない。こんなことで西くんが謹慎でも食らえば僕の望むところじゃない。違うんだ。西くんを守りたいから、今の今まで必死になっていたんじゃないか。
「……先……輩」
殴らずとも、喧嘩せずとも、事態を収拾できる人物。
そんなの、一人しかいない。
「先輩……っ、お願い……、出て!」
震える手で雪村さんに電話をした。
だけど何度かけても、何度かけても出てはくれなかった。
きっと仕事をしているんだ。春フェス前は深夜まで仕事をしていてもおかしな時期じゃない。グループが違えば他のタレントのスケジュールなんかさっぱり分からないけど、春フェス三日前だ。しかも今雪村さんの居るグループは新ユニットの発表を数日前に行ったたばかりで、このフェスが初めてのステージになる。きっとその限定ユニットのダンスレッスン等に時間を使っているはずだ。
だめだ……。これだけ電話して出てもらえないとなると……。
「いつまで篭ってるつもりだ! ドア蹴破ってほしいのか!? あぁ!? さっさと開けろボケ!」
ドカドカとドアを蹴る音が大きく響く。
やっぱり……西くんに電話する?
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