二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第九章:葛藤と加護と脅威

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 三月下旬。
 雪村さんが女性とのデート現場を写真に撮られた。週刊誌に結婚間近か?とまで書かれて、世間も事務所も大騒ぎしたが、「学友だ」と彼はすべてを一蹴した。キスも、手すらも繋いだ試しはないと言う雪村さんとセックスをしている僕。不思議な感覚がする。だって、一番恋人に近い存在は、僕だと言うんだ。
 本当に僕だけなのかと念を押して聞くと、やっぱり雪村さんは頷いた。

「あぁ、お前だけだ」

 正月に何度も聞かれた「優越か?」という質問が、今になって僕を浮足立たせる。

 あぁ……正直、とても優越だ。西くんと会えば罪悪感に苛まれるけど、雪村さんとこうしている時は、もう……それしかない。優越が僕を満たす。なんて人とエッチしてるんだと、舞い上がる。綺麗でカッコ良くて、強くて優しい。理想過ぎる彼氏像だ。

 だけど、幸せではない。
 おかしいけど、幸せではないんだ。優越は感じるのに幸せじゃない。そのくせ、西くんとの夜は、罪悪感に潰れそうなのに、幸せなんだよ。「あぁ……好きだ」と心の底からそう思う。

 心はあまりにちぐはぐだ。

「先輩が恋人なら良かったのに……」

 そしたら誰一人、手も足も出せず、僕も……雪村さんでさえ、こんなに悲しいエッチしなくていいでしょう?
 分かるんだよ。雪村さんが違う誰かを思って僕を抱いていること。相手は何となく分かっている。だけどその確証はない。けど、僕じゃない誰かを思っているから、優越こそ感じるが幸せを感じないんだ。

 あなたは……僕じゃない誰かを愛している。
 ねぇ、先輩。この意味のない行為を繰り返すのは、何故なのかな? やっぱり……どういうつもりで先輩が僕を訪ねて来るのかが分からない。何か目的があるんだろうか? 先輩は本当は……何か……別の……。

 いや、だけど……そうじゃない。そんなの僕には関係ないことだ。今は【雪村さんの隣にいること】、これを最優先する。目的は雪村さんの好きな人を暴くことじゃない。自分の身を守ること。それだけだ。

 雪村さんは何もしなくていい。僕の隣に居てくれるだけでいい。それだけで大丈夫。助けてもらおうなんて思ってない。ただの “張りぼて”。でもそれがどれだけすごい威力かを知ってるから。

 雪村さんの上に跨り、腰を振る。僕に興奮する雪村さんの硬いソレを体に埋め込み、内壁にこすりつける。ねちゃねちゃとローションの粘っこい音がする。けどそれよりも気になるのは鳴りやまない携帯のバイブレーション。

 淫猥な音と震える携帯の音。
 永井くんやパーティーメンバーから、毎日ひっきりなしに電話が掛かってくる。そろそろ限界だ。このマンションもきっと特定される。この三か月間良く逃げたと思う。

 毎日、毎日、恐くて仕方ない。永井くんに謝って許してもらえるならそうした方がいいのかもしれないなんて思う日もある。けど、もう絶対に許してはもらえない。それも分かっている。

「三木。ちゃんと永井と話し合えよ。まさか殺されりなんかしないから」

 鳴りやまない携帯のバイブ音を聞きながら、雪村さんは僕を諭した。でも、それが出来ていれば、今こんな状況に追い込まれてないよ。次に永井くんと会うときは、僕の処刑日だ。

 仕事に復帰できないくらいこの体を痛めつけてくるだろう。僕は、本当に殺されるかもしれない。
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