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第九章:葛藤と加護と脅威
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雪村さんと永井くんは、エッグ時代同じステージに立つことが多かったけど、正直一緒に居ることはほとんどなかった。昔から永井くんは佐久間さんにしか懐いていない。何かの因縁があるのかどうかは知らないけど、犬猿の仲と言ってもいいくらい、二人は一緒に居ることを避けているように思う。その理由を、僕は知らない。
だけど、永井くんはきっと表舞台で光しか浴びていない雪村さんが嫌いなんだ。その点、佐久間さんは所謂 ”裏ボス” 。光の当たらない場所で幅を利かせている。どちらに付くのが利口か、きっちり見分け、見定めた結果なのだろうと思う。
「行くぞ」
永井くんは踵を返し、パーティーメンバーを引きつれて、宴会場の人ごみへと姿を消した。
……雪村さんが、助けに来てくれた。予想外だ。絶対に怒らせたと思ったから。
「話の途中で逃げるとはいい度胸してんな、お前」
いや、やっぱり怒っていた。そりゃそうだよね。怒りに来たんだよね。けど今なら素直に怒られるよ。どんな酷い言葉を言われても耐える。命の恩人みたいな人なんだから。
雪村さんは僕を宴会場から連れ出し、廊下に置かれてあったソファに座るように促した。
廊下にはちらほらと人が居たが、有難いことにパーティーの利用者は一人もいない。うちのパーティーメンバーもさすがに僕らの監視には出てきていないようだった。雪村さんを前にそんな事出来ないんだろう。
「おっかしぃよなぁ。さっきまで俺が落ち込んでたんだけど」
わざとらしくそう言って天井を仰いだ雪村さんだけど、何も言えない僕に小さくため息を吐くと、優しい声で話しかけてくれた。
「……さっきは悪かったよ。言いすぎた。けどおかげで分かった。お前、好きでエッチしてるわけじゃないんだな?」
何も知らないはずの雪村さん。パーティーのことも、永井くんのことも、もちろん佐久間さんのことだって何も知らないはずなんだ。なのに……僕のこと分かってくれた。
ポロっと涙が零れて落ちた。こんなこと、誰にも言って貰ったことがない。見抜いてくれる人なんていなかったのに……。
慌てて涙を拭ったけど、それは次々溢れて落ちた。
この人は……、やっぱりいつも真実だけを見てる。見抜く目を持ってる。神様みたいに扱われてるのは伊達じゃないんだ。強さと優しさと正しさ。それをいつもちゃんと持ってる人だ。
「せんぱ……、永井くんを……止めてください……っ」
だから、絶対に頼んじゃいけないことだって分かってたのに、僕は雪村さんに助けを求めてしまったんだ──。
だけど、永井くんはきっと表舞台で光しか浴びていない雪村さんが嫌いなんだ。その点、佐久間さんは所謂 ”裏ボス” 。光の当たらない場所で幅を利かせている。どちらに付くのが利口か、きっちり見分け、見定めた結果なのだろうと思う。
「行くぞ」
永井くんは踵を返し、パーティーメンバーを引きつれて、宴会場の人ごみへと姿を消した。
……雪村さんが、助けに来てくれた。予想外だ。絶対に怒らせたと思ったから。
「話の途中で逃げるとはいい度胸してんな、お前」
いや、やっぱり怒っていた。そりゃそうだよね。怒りに来たんだよね。けど今なら素直に怒られるよ。どんな酷い言葉を言われても耐える。命の恩人みたいな人なんだから。
雪村さんは僕を宴会場から連れ出し、廊下に置かれてあったソファに座るように促した。
廊下にはちらほらと人が居たが、有難いことにパーティーの利用者は一人もいない。うちのパーティーメンバーもさすがに僕らの監視には出てきていないようだった。雪村さんを前にそんな事出来ないんだろう。
「おっかしぃよなぁ。さっきまで俺が落ち込んでたんだけど」
わざとらしくそう言って天井を仰いだ雪村さんだけど、何も言えない僕に小さくため息を吐くと、優しい声で話しかけてくれた。
「……さっきは悪かったよ。言いすぎた。けどおかげで分かった。お前、好きでエッチしてるわけじゃないんだな?」
何も知らないはずの雪村さん。パーティーのことも、永井くんのことも、もちろん佐久間さんのことだって何も知らないはずなんだ。なのに……僕のこと分かってくれた。
ポロっと涙が零れて落ちた。こんなこと、誰にも言って貰ったことがない。見抜いてくれる人なんていなかったのに……。
慌てて涙を拭ったけど、それは次々溢れて落ちた。
この人は……、やっぱりいつも真実だけを見てる。見抜く目を持ってる。神様みたいに扱われてるのは伊達じゃないんだ。強さと優しさと正しさ。それをいつもちゃんと持ってる人だ。
「せんぱ……、永井くんを……止めてください……っ」
だから、絶対に頼んじゃいけないことだって分かってたのに、僕は雪村さんに助けを求めてしまったんだ──。
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