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第九章:葛藤と加護と脅威
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永井くんが疑いの眼差しで僕を見る。しかし、返答する前に、僕を捕獲したパーティーメンバーが先に答えた。
「トイレです。たぶん腹でも壊してんじゃないですか? こいつだけさっさと出てきましたし」
ナイスだ。僕の味方でもないくせにナイスなフォローを入れてくれるじゃないか。
僕はそれに便乗するようにコクコク頷く。
「そう、気分が悪いって言うから」
けど、永井くんはまだ納得いかなそうに首を傾げ、両隣に居るNIAのメンバーに目配せをした。
「悪いが信用は出来ない。大人しくパーティーに戻ってくるか、カップルを潰すかしろ。じゃなきゃお前の疑いは一生晴れない。逃げられると思うなよ?」
ヒタヒタとグラスで頬を叩かれる。
僕はやっぱりパーティーから……永井くんから逃げられないのか? 一生、このままなんだろうか。好きでもない男と体を重ねて、永井くんに怯えながら生きていかなきゃいけないのかな?
誰か……助けて。
「さぁ、いい子だから俺のところに戻っておいで。今なら全部許してやる」
そう言ってぐっと腕を掴まれた。
それは僕の腕を潰すほどの力だった。痛みで眉が寄る。けど、逆らえばこんな痛みじゃ足りないほどの仕置きをされるだろう。
「そうだなぁ……どうだ、俺の部屋に住むか? 押し入れくらいなら一室用意してやるよ」
冗談なのだろうけど、全然笑えない。けどパーティーメンバーはおかしそうに笑った。バカじゃないか?
「なぁ、そうしよう? 決めたよ。飯くらい食わせてやるから。な?」
その飯だって、ろくなもんじゃないだろ、どうせ。僕は家畜以下にしか扱われないに決まってる。絶対にそうだ。
痛いほどに掴まれている腕。出会った頃の永井くんはこんなんじゃなかったのに。もっと優しくて、もっと僕のこと優しく見つめてくれていたのに……! なんで……どうして。いつからこんな冷たい男になったんだよ。何が永井くんをこんな風にしちゃったんだよ!
込み上げてくる涙は、恐怖や惨めさからじゃない。永井くんが変わってしまったから。それがとても……悲しいから。
「さぁ、返事をするんだ、颯……、っ!?」
言葉の最中。永井くんの肩を誰かが引っ張り、現場はハッとしてその人物に視線を送った。
注目の集まった永井くんの背後。そこに居たのは、鋭い瞳をした雪村さんだった。
そっと解放された僕の腕。……やはり雪村さんはすごい。
「悪いな、永井。ちょっと三木と話があんだよ。貸してくんね?」
雪村さんの申し出に、永井くんは逃げ切れると思うなよと釘をさすような瞳で僕を睨みつけた。その後で、僕の背中をぐっと雪村さんの方へと押しやる。
「どうぞ」
その力の強さによろめいたが雪村さんが瞬時に受け止め、そっと僕を背中へと隠してくれた。
「どうも」
「トイレです。たぶん腹でも壊してんじゃないですか? こいつだけさっさと出てきましたし」
ナイスだ。僕の味方でもないくせにナイスなフォローを入れてくれるじゃないか。
僕はそれに便乗するようにコクコク頷く。
「そう、気分が悪いって言うから」
けど、永井くんはまだ納得いかなそうに首を傾げ、両隣に居るNIAのメンバーに目配せをした。
「悪いが信用は出来ない。大人しくパーティーに戻ってくるか、カップルを潰すかしろ。じゃなきゃお前の疑いは一生晴れない。逃げられると思うなよ?」
ヒタヒタとグラスで頬を叩かれる。
僕はやっぱりパーティーから……永井くんから逃げられないのか? 一生、このままなんだろうか。好きでもない男と体を重ねて、永井くんに怯えながら生きていかなきゃいけないのかな?
誰か……助けて。
「さぁ、いい子だから俺のところに戻っておいで。今なら全部許してやる」
そう言ってぐっと腕を掴まれた。
それは僕の腕を潰すほどの力だった。痛みで眉が寄る。けど、逆らえばこんな痛みじゃ足りないほどの仕置きをされるだろう。
「そうだなぁ……どうだ、俺の部屋に住むか? 押し入れくらいなら一室用意してやるよ」
冗談なのだろうけど、全然笑えない。けどパーティーメンバーはおかしそうに笑った。バカじゃないか?
「なぁ、そうしよう? 決めたよ。飯くらい食わせてやるから。な?」
その飯だって、ろくなもんじゃないだろ、どうせ。僕は家畜以下にしか扱われないに決まってる。絶対にそうだ。
痛いほどに掴まれている腕。出会った頃の永井くんはこんなんじゃなかったのに。もっと優しくて、もっと僕のこと優しく見つめてくれていたのに……! なんで……どうして。いつからこんな冷たい男になったんだよ。何が永井くんをこんな風にしちゃったんだよ!
込み上げてくる涙は、恐怖や惨めさからじゃない。永井くんが変わってしまったから。それがとても……悲しいから。
「さぁ、返事をするんだ、颯……、っ!?」
言葉の最中。永井くんの肩を誰かが引っ張り、現場はハッとしてその人物に視線を送った。
注目の集まった永井くんの背後。そこに居たのは、鋭い瞳をした雪村さんだった。
そっと解放された僕の腕。……やはり雪村さんはすごい。
「悪いな、永井。ちょっと三木と話があんだよ。貸してくんね?」
雪村さんの申し出に、永井くんは逃げ切れると思うなよと釘をさすような瞳で僕を睨みつけた。その後で、僕の背中をぐっと雪村さんの方へと押しやる。
「どうぞ」
その力の強さによろめいたが雪村さんが瞬時に受け止め、そっと僕を背中へと隠してくれた。
「どうも」
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