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第九章:葛藤と加護と脅威
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雪村さんに啖呵切ってトイレを飛び出したが、その瞬間パーティーメンバーに捕獲された。情けない。最悪。終わった。日中ずっと西くんに守ってもらっていたから、もしかして今彼が大勢の人達に捕まっているのは、永井くんの根回しあってのことなのかもしれない。もしもそうなら、西くんに見つけてもらえることは不可能に近いだろう。
もう……終わった。殴られるだろうか。監禁されるだろうか。拷問が目に見える。
どこかに連れていかれるかもしれないと身構えたのだが、予想外に宴会場へと連れ戻された。雪村さんが僕を簡単に見つけ出せないように、あえて宴会場内に連れ戻したのかもしれない。
けど、残念。もう雪村さんは僕を追いかけてはこない。このまま宴会場に居る方が僕の安全が守られるってわけだ。これだけの人数が揃ってる新年会で、まさか手荒な真似はしないだろう。だから僕は一歩たりともここを出たりしないぞ。そのうち西くんが僕を見つけてくれる。きっとだ。
……きっと。
だけど、永井くんの前まで連れてこられた僕は、彼の冷たい瞳に、全身凍り付いたみたいになって、体がカタカタと勝手に震え始めた。
「颯太。お前、パーティーを抜けるための条件覚えてんのか?」
冷や汗が滲む。
覚えて……ます。カップルを潰すこと。
「全部潰せたのか? だから部屋解約したのか?」
静かな声。だけど、その声は聞いたことないくらい静かで冷たく、重い。相当怒っているのが分かって、僕は俯いたままただただ震えるしかできなかった。
「電話もしたんだが? 折り返さない理由はなんだ?」
足元から体が凍り付いてくる。答える言葉も、謝罪の言葉さえも、永井くんの冷えきった声が奪い去っていくみたいだ。
この空気は、さっきの雪村さんの比じゃない。僕は明日にも……殺されるかもしれない。
「おい。何か言えよ、颯太。俺をこれ以上怒らせるな」
永井くんの右手にあるシャンパングラスがゆらりと揺れ、僕の目の前に差し出される。
「浴びたいか? ん?」
こんなもの頭から浴びれば注目の的だ。悪目立ちした後、佐久間さんへと突き出されるのがオチだろう。ここはひとまず大人しく謝って……。いや、だけど……。
「雪村涼といつの間に仲良くなったんだ? まさかタブーを犯しちゃいないだろうな?」
「ま…っ、まさか……!」
咄嗟に首を振る。
「だったら、なんであの男と一緒に居た?」
「違うよ。雪村さんはうちの加藤と仲がいいから! だから、この前一緒にお話しさせてもらう機会があって……、ただそれだけだよ!」
我ながらもっともらしい嘘を吐けたと思う。けど、シャンパングラスはヒタっと僕の頬へ触れた。
「ほぉ。それで、俺達から逃げるために利用したわけか?」
「り……」
利用なんてとんでもない、と言いかけてまったくもってその通りだと思った。寸分の狂いもない。けど、僕は小さく首を振った。
「違……う、よ。皆もコンサートの前、見たでしょ? 雪村さん……今あんまり体調良くないんだよ。だから……だから」
体調が良くないわけじゃない。精神的に参っているんだ。けどそんなことを永井くん達には言えない。言えばきっと雪村さんは付け込まれるに違いないから。
「さっきも一人で蹲ってたから、看病しようと思って」
「ほぉ。看病か? で、今そいつはどこに居るんだよ」
もう……終わった。殴られるだろうか。監禁されるだろうか。拷問が目に見える。
どこかに連れていかれるかもしれないと身構えたのだが、予想外に宴会場へと連れ戻された。雪村さんが僕を簡単に見つけ出せないように、あえて宴会場内に連れ戻したのかもしれない。
けど、残念。もう雪村さんは僕を追いかけてはこない。このまま宴会場に居る方が僕の安全が守られるってわけだ。これだけの人数が揃ってる新年会で、まさか手荒な真似はしないだろう。だから僕は一歩たりともここを出たりしないぞ。そのうち西くんが僕を見つけてくれる。きっとだ。
……きっと。
だけど、永井くんの前まで連れてこられた僕は、彼の冷たい瞳に、全身凍り付いたみたいになって、体がカタカタと勝手に震え始めた。
「颯太。お前、パーティーを抜けるための条件覚えてんのか?」
冷や汗が滲む。
覚えて……ます。カップルを潰すこと。
「全部潰せたのか? だから部屋解約したのか?」
静かな声。だけど、その声は聞いたことないくらい静かで冷たく、重い。相当怒っているのが分かって、僕は俯いたままただただ震えるしかできなかった。
「電話もしたんだが? 折り返さない理由はなんだ?」
足元から体が凍り付いてくる。答える言葉も、謝罪の言葉さえも、永井くんの冷えきった声が奪い去っていくみたいだ。
この空気は、さっきの雪村さんの比じゃない。僕は明日にも……殺されるかもしれない。
「おい。何か言えよ、颯太。俺をこれ以上怒らせるな」
永井くんの右手にあるシャンパングラスがゆらりと揺れ、僕の目の前に差し出される。
「浴びたいか? ん?」
こんなもの頭から浴びれば注目の的だ。悪目立ちした後、佐久間さんへと突き出されるのがオチだろう。ここはひとまず大人しく謝って……。いや、だけど……。
「雪村涼といつの間に仲良くなったんだ? まさかタブーを犯しちゃいないだろうな?」
「ま…っ、まさか……!」
咄嗟に首を振る。
「だったら、なんであの男と一緒に居た?」
「違うよ。雪村さんはうちの加藤と仲がいいから! だから、この前一緒にお話しさせてもらう機会があって……、ただそれだけだよ!」
我ながらもっともらしい嘘を吐けたと思う。けど、シャンパングラスはヒタっと僕の頬へ触れた。
「ほぉ。それで、俺達から逃げるために利用したわけか?」
「り……」
利用なんてとんでもない、と言いかけてまったくもってその通りだと思った。寸分の狂いもない。けど、僕は小さく首を振った。
「違……う、よ。皆もコンサートの前、見たでしょ? 雪村さん……今あんまり体調良くないんだよ。だから……だから」
体調が良くないわけじゃない。精神的に参っているんだ。けどそんなことを永井くん達には言えない。言えばきっと雪村さんは付け込まれるに違いないから。
「さっきも一人で蹲ってたから、看病しようと思って」
「ほぉ。看病か? で、今そいつはどこに居るんだよ」
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