二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第八章:カウントダウンコンサート

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 そうであろうことは誰の目にも分かるけど、落ち込んでいる姿をこんな大勢の宴会場内で見せちゃっていることがもう大問題だと思うわけで……。

「う~……ん。僕に出来る事ありますか?」

 ちゃっかり隣に腰を下ろしてからそう尋ねると、落ち込んでいるという割にはしっかりとした口調で返答してきた。

「何も聞くな。何も言うな。今は喋る気力も聞く忍耐も考える余裕もない」

 何があったのだろうか。落ち込んでいるような口調ではないけど、喋ってる内容は結構弱気だ。あまり邪魔すると怒られるヤツかもしれない。

「隣にいることもお邪魔でしょうか?」

 一応それだけ確認すると、雪村さんはやっぱりどこか腹立たしそうに返答した。

「何も聞くなと言っただろ。そっとしといてくれ」

 これはまずい。質問を一つでも間違うと怒鳴られること必至だ。
 何度も見てきたんだ、エッグの時。雪村さんに大声で怒鳴られているエッグ達を。めちゃくちゃ怖くて、僕は怒られていないのに、僕まで怒られている気分になったものだ。あの西くんだって何度も雪村さんに怒られている。今や仲の良いカトゥンだって、雪村さんにどやされながらみるみる成長していった。雪村さんは怒ると怖い。雷が落ちたのかと思うほど恐ろしい。
 けど、絶対に理不尽には怒らないんだ。理由がある。理由があるし、いきなり怒ったりもしない。注意や忠告を何度も無視したり忘れたりすると、そこで初めてぶち切れる。鬼の雪村という印象はどうしてもあるけど、これで一応ちゃんと筋の通った人なんだ。みんなそれをちゃんと分かってる。だからどれだけ怖くても、誰も雪村さんのことを心の底から憎いなんて思ってない。憧れのカッコイイ先輩なんだ。

 僕は、このまま雪村さんから離れた方がいいのかどうか考えた。けど、ふと前方に赤松くんの姿を見つけ、視線はばっちり絡み合った。

 これは……ダメだ。この人の隣からは絶対に離れちゃいけない。

 冷たく鋭い瞳が僕を睨みつけ、蛇に睨まれたカエルのように僕は硬直した。有難かったのは、雪村さんが「あっちへ行け」と言わなかったことだ。隣にいる僕を追い払うことも煙たがることもせず、ただ一人静かに頭を抱えているだけだった。

 ごくっと唾を飲み込み、人ごみの隙間からこちらを睨む赤松くんから視線を外し、頭を抱えている雪村さんへ視線を向けた。

 口パクでもいい。喋っている風を装う。幸い雪村さんは俯いているから僕のわざとらしい小芝居に気付いていない。
 しばらくそうやっていたが、視線をそっと賑わっている宴会場へ向け直すと、もうそこに赤松くんの姿はなかった。
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