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第八章:カウントダウンコンサート
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三人揃ってトイレを出て、カトゥンを真ん中に挟んで歩き出す。
誰も知らない雪村涼の裏の顔。彼だからこそ抱えてしまう不安や悩みや寂しさ。それを完璧に隠して、こうやって後輩の前で立派な先輩を演じ続ける。
僕はそれが少し可哀想だと思った。雪村涼は、他人が思っているよりずっとずっと無理をしていて、ずっとずっと苦しんでいる。誰か助けてくれって叫び声を上げ続けている。
なのに……誰もその声に気付いていないんだ。
僕は……、僕なら彼を助けてあげられるんだろうか? 必死に伸ばしているその手を掴んであげられるだろうか。
ふとカトゥン越しの雪村さんを見上げる。
けどその瞬間。雪村さんはカトゥンの明るい声を聞きながら、そっと瞼を閉じた。大きく息を吸い込む三秒間。
確実に彼は電源を落としていた。
完璧な雪村涼を捨て、気持ちを落ち着かせるように、大きく深呼吸をしたんだ。それでも、瞼を開くとスイッチはすでに入っていて、ひっきりなしに喋っているカトゥンの言葉に笑い、返答し、ちゃんと背筋を伸ばして歩いていた。
この人は究極に器用で、究極に不器用だ──。
それが泣きたいほど愛おしいと思った。もっと知りたくて、もっとそばで支えてあげたいと思った。
けど、先に雪村さんの使用しているスタジオに到着し、あっさり別れることになった。利口な彼は僕に執拗に絡んでこなかった。やっぱりそれはパーティーのことを知っているからだろう。ノンケのカトゥンの前では僕とのことは秘密裏だ。他の利用者達と全く同じ行動をとる。
つまり、やはり……雪村さんは黒ってことだ。
本当に、一体誰から……僕のことやパーティーのことを聞き出したんだろう。だけど、これを上へは報告できない。あのメールアドレス宛に報告して尋問されれば僕の罪が明るみに出る。そんなことになれば、確実に抹消されるだろう。それだけは絶対に避けたい。僕は西くんと同じくらいcodeだって守りたいから。
大体にして、今は僕だってそれどころじゃないんだ。危機的状況に陥っている。いろんな意味で。
僕があのアパートを出払い、更に実家を出たこと、きっともう永井くんたちにバレている。
けど、この時期はみんな忙しい。僕も雪村さんも、もちろん永井くんたちだって仕事に追われている。だから、問題は年が明けてからだ。僕はどうやって永井くんたちから逃げればいいだろうか。全然分からない。
でも、どうにかしなくちゃいけない。
考えろ……僕。
誰も知らない雪村涼の裏の顔。彼だからこそ抱えてしまう不安や悩みや寂しさ。それを完璧に隠して、こうやって後輩の前で立派な先輩を演じ続ける。
僕はそれが少し可哀想だと思った。雪村涼は、他人が思っているよりずっとずっと無理をしていて、ずっとずっと苦しんでいる。誰か助けてくれって叫び声を上げ続けている。
なのに……誰もその声に気付いていないんだ。
僕は……、僕なら彼を助けてあげられるんだろうか? 必死に伸ばしているその手を掴んであげられるだろうか。
ふとカトゥン越しの雪村さんを見上げる。
けどその瞬間。雪村さんはカトゥンの明るい声を聞きながら、そっと瞼を閉じた。大きく息を吸い込む三秒間。
確実に彼は電源を落としていた。
完璧な雪村涼を捨て、気持ちを落ち着かせるように、大きく深呼吸をしたんだ。それでも、瞼を開くとスイッチはすでに入っていて、ひっきりなしに喋っているカトゥンの言葉に笑い、返答し、ちゃんと背筋を伸ばして歩いていた。
この人は究極に器用で、究極に不器用だ──。
それが泣きたいほど愛おしいと思った。もっと知りたくて、もっとそばで支えてあげたいと思った。
けど、先に雪村さんの使用しているスタジオに到着し、あっさり別れることになった。利口な彼は僕に執拗に絡んでこなかった。やっぱりそれはパーティーのことを知っているからだろう。ノンケのカトゥンの前では僕とのことは秘密裏だ。他の利用者達と全く同じ行動をとる。
つまり、やはり……雪村さんは黒ってことだ。
本当に、一体誰から……僕のことやパーティーのことを聞き出したんだろう。だけど、これを上へは報告できない。あのメールアドレス宛に報告して尋問されれば僕の罪が明るみに出る。そんなことになれば、確実に抹消されるだろう。それだけは絶対に避けたい。僕は西くんと同じくらいcodeだって守りたいから。
大体にして、今は僕だってそれどころじゃないんだ。危機的状況に陥っている。いろんな意味で。
僕があのアパートを出払い、更に実家を出たこと、きっともう永井くんたちにバレている。
けど、この時期はみんな忙しい。僕も雪村さんも、もちろん永井くんたちだって仕事に追われている。だから、問題は年が明けてからだ。僕はどうやって永井くんたちから逃げればいいだろうか。全然分からない。
でも、どうにかしなくちゃいけない。
考えろ……僕。
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