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第五章:誕生日の夜
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目が覚めた時、僕は西くんの腕の中にいた。
「どこ……ここ」
妙に散らかった部屋。ふと目にした壁掛け時計。正午を指していた。
「え、ぅわ! 学校っ!!」
飛び起きたが、腰の激痛に再び倒れ込む。そしたら西くんの腕が僕をぐっと引き寄せた。
「今日は俺だけのものなるって言ったろ?」
寝ぼけ声。
「言ってないよ! 学校行かなきゃ」
「言った。離さない」
強く抱きしめられる。
何を寝ぼけてるんだ、と後ろにいる西くんを振り返ろうとしたんだけど、その前に後頭部へキスをされた。
「一緒にいろよ……颯太」
颯太、なんて初めて呼ばれた気がする。けど、それにときめく事はなくて、それよりも神谷くんを思い出した。
『夜は、悠って呼んで』
熱を持った彼の瞳。
『俺も颯太って呼ぶから』
あの夜にそう言われた。そう言ってくれたけど、実のところ、滅多に名前は呼んでくれない。でも行為の最中、たまに…本当にたまに「颯太」って呼んでくれる。三木と呼ばれるその声ですら破壊力強く耳の奥に焼き付くのに、颯太なんて呼ばれたら……。
「……っ」
思い出して体が震えた。名前を呼んだつもりはなかったけど、どうやら「悠くん」と呼んでいたその声は西くんに聞こえていたみたいで……そんな僕を西くんは強く抱きしめた。
「こんなに抱いても……こんなに抱きしめてても、神谷がいいのかよ」
そう呟くや否や、強引に僕の体を反転させると深くキスをした。
何故こんなに敵対視しているのか。何らかの因縁があるのだろうか。だけど多分、二人に確執なんてないと思うんだ。だって神谷くんは西くんの事何も言ってなかった。あえて言うなら、実力差がエグかったって、そう言っていただけだ。無名のまま電撃的にデビューしているから、神谷くんは第一線で活躍していた西くんとは、そもそも接触する機会なんてなかったはずだから。本人もそう言っていた。同期だけど、西くんだけ先に飛び出したんだって。
でも、もしかしてそれが原因? 神谷くんが自分より早くデビューしているから? 第一線で活躍していた西くんを差し置いて、無名の神谷くんが先にデビューしたから? 同期だし、余計に癇に障ったのかな。だとしたら……器が小さいよ。カッコ悪い。
だから、バカにするようにやけくそな一言を浴びせてやった。
「なんだよ、僕のこと好きなわけ?」
こんな、たかがパーティーのディッシュ。恋する相手としては一番最低な相手。頭のいい西くんは、こんな風にバカにされることをきっと嫌うだろう。そんなわけあるかよって、否定するに決まってる。でも、返答はそれ以上に最低だった。
「あぁ、顔がな」
ほんと最低。信じられない。こういうの一番嫌い。
「好みのタイプは落とさなきゃ気がすまねぇんだよ、俺」
それは弁解のつもりなの? っていうか、顔が好みなだけで振り回されるこっちの身にもなってよ。いや、この男にそんなのを求める方がバカなのか。顔が……って、顔……。
顔だけなの?
「お生憎様。僕は永井くんのディッシュだからね。恋愛感情なんて持ち合わせてないの。落ちることは永遠にないよ」
精一杯の嘘をついた。虚勢を張って、怒りよりも、ショックや悲しみを見抜かれないように、必死に……。
なのに西くんは容赦がなく問いかけた。
「神谷は?」
分かってて聞いてるんだろ。腹が立つ。
「彼とはただエッチの相性がいいだけだよ。好きとかそんなんじゃない」
その答えはまるで自分に言い聞かせるみたいだった。僕はやっぱりちょっとバカだ。結局悲しくなってるんだから。
「僕には……永井くんたった一人しかいない」
泳ぎ出す僕の目を追う西くんは……もうこの嘘を見抜いている。けど「あ、そ」と返事しただけだった。
そして僕にこんな話を持ちかけて来た。
「お前、俺のセカンドにならないか?」
とんでもない話。つまりそれは……浮気相手ってこと。本命ではないもう一人の相手ってこと。ディッシュの僕をパーティー以外で縛り付けるもの。
だけどそれは、愛のある交際を始めないかという甘い誘いでもあった。
僕を……「愛して」くれるの? 優しく触れてくれるの……?
嘘でしょ……西くん……?
「どこ……ここ」
妙に散らかった部屋。ふと目にした壁掛け時計。正午を指していた。
「え、ぅわ! 学校っ!!」
飛び起きたが、腰の激痛に再び倒れ込む。そしたら西くんの腕が僕をぐっと引き寄せた。
「今日は俺だけのものなるって言ったろ?」
寝ぼけ声。
「言ってないよ! 学校行かなきゃ」
「言った。離さない」
強く抱きしめられる。
何を寝ぼけてるんだ、と後ろにいる西くんを振り返ろうとしたんだけど、その前に後頭部へキスをされた。
「一緒にいろよ……颯太」
颯太、なんて初めて呼ばれた気がする。けど、それにときめく事はなくて、それよりも神谷くんを思い出した。
『夜は、悠って呼んで』
熱を持った彼の瞳。
『俺も颯太って呼ぶから』
あの夜にそう言われた。そう言ってくれたけど、実のところ、滅多に名前は呼んでくれない。でも行為の最中、たまに…本当にたまに「颯太」って呼んでくれる。三木と呼ばれるその声ですら破壊力強く耳の奥に焼き付くのに、颯太なんて呼ばれたら……。
「……っ」
思い出して体が震えた。名前を呼んだつもりはなかったけど、どうやら「悠くん」と呼んでいたその声は西くんに聞こえていたみたいで……そんな僕を西くんは強く抱きしめた。
「こんなに抱いても……こんなに抱きしめてても、神谷がいいのかよ」
そう呟くや否や、強引に僕の体を反転させると深くキスをした。
何故こんなに敵対視しているのか。何らかの因縁があるのだろうか。だけど多分、二人に確執なんてないと思うんだ。だって神谷くんは西くんの事何も言ってなかった。あえて言うなら、実力差がエグかったって、そう言っていただけだ。無名のまま電撃的にデビューしているから、神谷くんは第一線で活躍していた西くんとは、そもそも接触する機会なんてなかったはずだから。本人もそう言っていた。同期だけど、西くんだけ先に飛び出したんだって。
でも、もしかしてそれが原因? 神谷くんが自分より早くデビューしているから? 第一線で活躍していた西くんを差し置いて、無名の神谷くんが先にデビューしたから? 同期だし、余計に癇に障ったのかな。だとしたら……器が小さいよ。カッコ悪い。
だから、バカにするようにやけくそな一言を浴びせてやった。
「なんだよ、僕のこと好きなわけ?」
こんな、たかがパーティーのディッシュ。恋する相手としては一番最低な相手。頭のいい西くんは、こんな風にバカにされることをきっと嫌うだろう。そんなわけあるかよって、否定するに決まってる。でも、返答はそれ以上に最低だった。
「あぁ、顔がな」
ほんと最低。信じられない。こういうの一番嫌い。
「好みのタイプは落とさなきゃ気がすまねぇんだよ、俺」
それは弁解のつもりなの? っていうか、顔が好みなだけで振り回されるこっちの身にもなってよ。いや、この男にそんなのを求める方がバカなのか。顔が……って、顔……。
顔だけなの?
「お生憎様。僕は永井くんのディッシュだからね。恋愛感情なんて持ち合わせてないの。落ちることは永遠にないよ」
精一杯の嘘をついた。虚勢を張って、怒りよりも、ショックや悲しみを見抜かれないように、必死に……。
なのに西くんは容赦がなく問いかけた。
「神谷は?」
分かってて聞いてるんだろ。腹が立つ。
「彼とはただエッチの相性がいいだけだよ。好きとかそんなんじゃない」
その答えはまるで自分に言い聞かせるみたいだった。僕はやっぱりちょっとバカだ。結局悲しくなってるんだから。
「僕には……永井くんたった一人しかいない」
泳ぎ出す僕の目を追う西くんは……もうこの嘘を見抜いている。けど「あ、そ」と返事しただけだった。
そして僕にこんな話を持ちかけて来た。
「お前、俺のセカンドにならないか?」
とんでもない話。つまりそれは……浮気相手ってこと。本命ではないもう一人の相手ってこと。ディッシュの僕をパーティー以外で縛り付けるもの。
だけどそれは、愛のある交際を始めないかという甘い誘いでもあった。
僕を……「愛して」くれるの? 優しく触れてくれるの……?
嘘でしょ……西くん……?
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