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第五章:誕生日の夜

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「彼女に祝って貰えよ! 僕今から寝るとこなんだから!」

 時刻はすでに二十三時半を過ぎている。さっさと寝たかった。僕はまだ高校生で明日は学校だ。仕事で行けないことも多い学校だけど、学校は楽しい。すれていない清浄されたような空気が美味しくて、制服を着ている時間だけは嫌なこと何もかも忘れられた。だから西くんなんかに付き合って遅刻なんてとんでもない。

 仕事の申請も出してないし、遅れればただの遅刻扱い。内申に響いて卒業出来ないなんてのは避けて通りたいところだ。ただでさえ僕バカでテストは赤点ばっかなのに。

 そんなこと考えていたからだろう。

『会いたいんだよ』

 西くんの言葉をすぐに理解できなかった。

「僕は会いたくない!!」

 咄嗟に叫んだ言葉。
 電話は何も返答を寄越さないまま、ぷつんと切れた。

 通話終了音が耳元で聞こえ、しばらく、プツ…とそれすら消えた。そしてこの事態が相当ヤバイことに気付いた。

 西くんの『会いたいんだよ』の言葉が耳にこだまする。
 透き通る綺麗な声。

「え……、ちょっと待って?」

 咄嗟にいつものノリで返答しちゃったけど、あの声、あの言葉……、寂しそうで愛おしそうな語尾。いつもと違った。
 僕はどうしていいか分からなくて、意味が分からなくて部屋をウロウロしたけど、結局電話を掛け直してしまった。

『なんだよ、冷酷無慈悲な三木颯太さん』

 出てもらえないかと思った電話は案外すぐに出てもらえた。

「いや……うん。ちょっとだけ言い過ぎたかなと思って……」
『あっそ、じゃな』

 そう言って電話を切ろうとするから慌てて止めた。

「ちょちょちょ!! 分かった! 会います! 会いますから!」

 それこそまた咄嗟だった。
 電話口の返事はない。だからしぶしぶ言い直した。

「ごめん……ちゃんとお誕生日お祝いするから。今どこにいるの?」

 聞いた僕に、西くんは静かに答えた。

『お前んちの前』

 ばっと部屋のカーテンを開けると、そこには一台の車が止まっていて、そのボンネットには体を預けて立つ西くんが確かにいた。

「ちょ、あんた……バカぁ?」
『よほど俺をキレさせたいらしいな』

 二階の僕の部屋を見上げ、西くんは低く唸った。

 着替えを簡単に済ませ家を出る。車に乗りこむと、西くんは滑らかに車を発進させた。

「どこ行くの?」
「さぁ」

 なんとも頼りない。会いたいとまで言って呼び出したなら、行先くらいは考えておいてくれよ。僕は大きめにため息を漏らすと、しゃーなしで問いかけた。

「彼女に振られでもした?」

 自分の誕生日に僕なんかのところに来るんだ。もう、そうとしか思えない。その失恋話を聞いて欲しいとでも? 女子じゃあるまいし。西くんクラスの変人なら、それくらいケロっと忘れられるでしょ?
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