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第四章:ダレ ノ ナニ ?

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 そういう僕も雪村さんを尊敬している。喋る機会こそなかったけど、一般的なエッグ同様、彼に憧れたし、あんなアイドルになりたいって思った。力強い歌声も、カッコいいダンスも、美しい立ち姿も、客席に向ける笑顔も煽りも、全部何もかも、神がかったように輝いているから。
 本当に超人なんだよ。後輩全員の憧れであり、目標。彼に憧れて事務所に来たってエッグを何人も知っている。この神谷くんもその一人だ。

「先輩引っ越したみたいでさ、俺の友達の花屋に、亡くなったお母さんの花選びに来てて」

 神谷くんは楽しそうにその日の話をしてくれる。それを聞いていると、なんだか僕まで嬉しくなった。弾んだ声、明るい表情、嬉しそうに微笑んでいる口元。

 神谷くんと雪村さんの不仲説はガセネタだったのかな、と思うくらい、神谷くんの話は幸せに満ちていた。前回に会った時の、あの憂い気な表情が思い出せなくなるほどに。

「神谷くんは本当に雪村さんのこと好きなんだね」
「改めて言うけど、俺、テレビ用のキャラとかないから」

 ぶっと吹き出してしまう。前回そんなことを尋ねた。もしかして根に持ってる?

「三木は6期生だったよな。ってことは、エッグバトルの時すでに事務所に居たってこと?」
「うん、居たよ。入所していきなり始まったからほぼ傍観者だったけど」

 素直に答えると、「何曜日に居たんだ?」と嬉しそうに尋ねられ、「木曜日」と返答した。

 エッグバトルというのは、五年前に一世を風靡したテレビ番組の1コーナーで、エッグがデビューを賭けて本気でバトルするというもの。雪村さんはこのエッグバトルで人気を博し、事務所も大きく成長した。当時はエッグの数が少なかったため、エッグ達はランク分けされず曜日別に振り分けられてレッスンを受けていた。僕は佐久さんが居た木曜日に振り分けられていた。

「木曜日! SURFか! あ、内海さんとはその時から仲良かったとか?」

 内海さんというのは、僕のいるcodeのリーダーだ。彼はエッグバトルで佐久間さんとSURFというグループを組んだメンバーの一人。

「いや、全然。喋ったこともなかったよ」
「あれ? そうなんだ」
「どっちかというと、永井くん……かな」

 出会いは曜日別レッスンの時だから。

 そう言った僕に、神谷くんは「なるほど」と静かに納得した。

「第一、すぐにランク付けさせられちゃって、僕Cスタートだったから、木曜生と言えども、全然トップアイドル達と交流できなかったよ」

 芽が出ないままCに落とされたから。

「Cスタート? 俺も俺も! 同期に西くん居たし、余計にさぁ~。あの人Bランクスタートだったから、実力差がもう、エグかったよ」

 そう言って可笑しそうに笑う神谷くん。この笑顔はやっぱり可愛くて、顔いっぱいに笑うその表情は見ているこちらまで幸せにしてくれる。太陽みたいな笑顔だ。

 カッコイイ。やっぱり、すごくすごくカッコイイ。

「俺とか必死に雪村さん追いかけてんのに、西くんあっさり雪村さんと一緒に仕事始めたもんなぁ~」

 笑い話みたいに当時を思い出して喋っている。
 けどそれをそんな風に語れるのは、自信がついたからだと思うんだ。西くんより先にデビューして、あの雪村さんと二人でラーメンも食べに行った。それは神谷くんの自信に繋がることだと思う。
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