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第四章:ダレ ノ ナニ ?

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「下っ端じゃない。神谷くんはカッコイイ」

 投げ捨てるように言い放ち、僕は携帯画面に再び視線を戻した。

「カッコイイ? ……へぇ。視聴者にはほぼ伝わってないよね、それ」
「うるさいな。いいんだよ、別に。One Dozenは十一人もいるから、それぞれ役割分担があるの。神谷くんはカッコいいけど、センターを引き立たせるためにあえて三枚目要因になってるだけ」
「そうなんだ。根っからの後輩気質だと思ってた」

 それは否定できない。僕にすら敬語使う時あるからね。癖だって本人は言ってたけど。でも、彼のカッコよさは実際に会った人じゃなきゃ分からない。神谷くんは、優しくてかっこいいんだよ。

 ポロンっと携帯が鳴り神谷くんからの返事を確認する。

『寿司? いいぜ。魚たんまり買っていく』
「嘘! 握れるの!? 天才じゃん!」

 神谷くんのスペックに心の底から感動した。
 だけど実際は手巻き寿司だった。

「手巻きなの?」

 にわかにがっかりする僕に神谷くんは「文句言うな!」と前回見せなかった顔を僕に見せてくれた。

「いいんだよ、手巻きで! 絶対美味いし楽しいから。てかコレ見ろよ。すでに海苔に酢がついてんの。画期的じゃね?」

 そう言って見せられた酢つき海苔。それって珍しいのか。普段手巻き寿司なんかしないから良く知らない。

「反応薄っ! めちゃくちゃ画期的なのに! 手間省けるしさ。あ、これちょっとレンチンしてきてくれる?」

 そう言って手渡された即席ごはんのレトルトパック。僕はそれを抱えながらキッチンへと走った。
 この前のよそよそしさがなくなっている。けど、馴れ馴れしいというより、これが彼の自然体って感じ。それが嬉しいし、やっぱりちょっとドキドキする。

 サクになってる刺身を神谷くんは以前買った包丁で綺麗に薄く切り、テーブル一杯に美味しそうなネタを並べてくれた。手巻き寿司パーティーだ!って、神谷くんは楽しそうに笑って、「イクラは高級品だから独り占めすんなよ!」とケチ臭い注意も寄越した。

 楽しくて、いっぱい笑って、いっぱい幸せを貰った。

 あぁ、やっぱり好きだなって改めて思った。この人と過ごす時間が大好きだって。

 お腹いっぱい手巻き寿司を食べて、また一緒にテレビを見た。前回と同じように足へ手を置くと、こちらを見もしない神谷くんが優しく手を握ってくれた。温かい手。甘えるように肩に寄り掛かると、彼は「この前さぁ」と何でもない風に口を開き、「雪村さんと二人でラーメン食い行ったんだよ」と独り言みたいに呟いた。

 珍しい。
 確かに神谷くんは雪村さんファンとして有名なんだけど、雪村さんはそれを迷惑していて、事務所内では軋轢の仲として有名だ。世間にはまだバレてないけど、業界内ではこの二人を絶対に同じ楽屋にしてはいけないとか、隣の席に座らせていけないとか、色々注意事項が存在している。業界人ならある種の常識と化している。

 そんな関係なのに……、二人でラーメン?

「本気で言ってるの?」

 一応確認すると、神谷くんはぼんやりテレビを見ながら頷いた。

「そうだよ。奢ってもらった」
「どういう経緯で?」

 たまらず聞いてしまう。

「怒られてたの?とか思ってるだろ。怒られてねぇからな」

 バレたか。
 肩をすくめた僕に、ようやく神谷くんは僕の方を見ると、瞳をキラキラさせながら言った。
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