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第三章:新規依頼者
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今日、初めてプライベートで会う。会って感じたのは、おかしな人。西くんとはまた違った変人か?
脱衣所に入った姿を確認し、キッチンにある買い物袋の中を確認した。出来合いのお弁当でも入っているのかと思ったけど、中にはお弁当なんかなくて、ハムと卵ときゅうりとトマト、中華麺が入っていた。
「なにこれ。冷やし中華でも作るつもりだったの?」
けど残念ながらこの部屋に調味料の類は一切ない。かろうじて冷蔵庫はあるけど、鍋もレンジも包丁だってないんだよ。
「バカな人……」
だけど、脱衣所から風呂に入ったドアの閉扉音を聞き、ちょっとだけ笑ってしまった。神谷くんって、いい人かもしれない。いや、変は変なんだろうけど。
僕は買い物袋の中の食材を取り出し、とりあえず冷蔵庫につめこんだ。真夏だし、さすがに放置しておくのも気が引ける。
「包丁と鍋……買ってきたら作ってくれるのかな」
食材を詰め込みながらそんなことを呟いてしまう自分がいて、またちょっと笑えた。
「ほんと……変な人」
明らかに男を抱くのは初めてって感じだし、パーティーを利用するのも初めてなんだろう。勝手が分からず、どうしていいか分からないと顔に書いてあった。はじめまして、なんて言ってしまうくらいだから。
どうしようかなって考えてしまう。本当に買い物に行こうかな、なんて。
要らないなんて突っぱねたけど、まさか手作りのモノをご馳走してくれるなんて思ってもない。
正直、ちょっと……興味がある。けど、冷やし中華のタレってどうやって作るの? どんな調味料がいるんだろう。分かんないな。ゴマダレとか買ってくれば問題ないかな?
こんなものを準備してこの部屋にやってくる依頼主は始めてだ。すごく不思議な人。ご飯が要らないならテレビ見ようとか言い出すし。
本当に何しに来たんだろう。どうするつもりだったんだろう。
僕は冷蔵庫の前にしゃがみ込んだまま風呂場を見つめ、シャワーの音を聞きながら考えた。
考えたけど、やっぱり立ち上がって寝室に走って財布をひっつかんだ。
「神谷さん」
脱衣所から呼びかけると、「は、はい!」と慌ててシャワーを止めたようだった。そしてわざわざ扉なんか開けてくれなくていいのに、恥ずかしそうに顔だけをのぞかせた。
大きな瞳が戸惑いがちに僕をとらえる。
「すみません。ちょっとだけ出ます。すぐ戻ってくるので、待っててもらえますか?」
「あ、わかりました。すみません、お忙しいのに時間取ってもらっちゃって。あ、無理なら俺、帰りますよ?」
今すぐ帰りたい、の間違いじゃないのか?と思ったけど、残念。僕、あなたの作る冷やし中華を食べたいから、帰らせてあげない。
「いえ、そういうわけじゃなくて」
僕は首を振り、少しだけ見えている彼の肩にそっと指先を置いた。ビクっとした神谷くんは恥ずかしそうに僕の手と顔を交互に見て、「な、なにか?」と聞いてくるから、たまらず笑ってしまった。
「いや、急に敬語使いだしたなって思いまして」
言うと神谷くんは赤面し、「いや、く、癖で…」と俯いた。それだけグループ内で虐げられているということか?
「買い物してきます。お腹空いて来たんで、冷やし中華……食べたいなぁ~、なんて」
そう言うと、ぱっと顔を上げた神谷くんがびっくりするくらい可愛く笑った。
「ほんと? じゃあ一緒に行こうよ。すぐ上がるから!」
逆に気を遣って敬語を辞めた雰囲気があったけど、神谷くんの笑った顔があまりに可愛くて、正直本当に驚いた。
脱衣所に入った姿を確認し、キッチンにある買い物袋の中を確認した。出来合いのお弁当でも入っているのかと思ったけど、中にはお弁当なんかなくて、ハムと卵ときゅうりとトマト、中華麺が入っていた。
「なにこれ。冷やし中華でも作るつもりだったの?」
けど残念ながらこの部屋に調味料の類は一切ない。かろうじて冷蔵庫はあるけど、鍋もレンジも包丁だってないんだよ。
「バカな人……」
だけど、脱衣所から風呂に入ったドアの閉扉音を聞き、ちょっとだけ笑ってしまった。神谷くんって、いい人かもしれない。いや、変は変なんだろうけど。
僕は買い物袋の中の食材を取り出し、とりあえず冷蔵庫につめこんだ。真夏だし、さすがに放置しておくのも気が引ける。
「包丁と鍋……買ってきたら作ってくれるのかな」
食材を詰め込みながらそんなことを呟いてしまう自分がいて、またちょっと笑えた。
「ほんと……変な人」
明らかに男を抱くのは初めてって感じだし、パーティーを利用するのも初めてなんだろう。勝手が分からず、どうしていいか分からないと顔に書いてあった。はじめまして、なんて言ってしまうくらいだから。
どうしようかなって考えてしまう。本当に買い物に行こうかな、なんて。
要らないなんて突っぱねたけど、まさか手作りのモノをご馳走してくれるなんて思ってもない。
正直、ちょっと……興味がある。けど、冷やし中華のタレってどうやって作るの? どんな調味料がいるんだろう。分かんないな。ゴマダレとか買ってくれば問題ないかな?
こんなものを準備してこの部屋にやってくる依頼主は始めてだ。すごく不思議な人。ご飯が要らないならテレビ見ようとか言い出すし。
本当に何しに来たんだろう。どうするつもりだったんだろう。
僕は冷蔵庫の前にしゃがみ込んだまま風呂場を見つめ、シャワーの音を聞きながら考えた。
考えたけど、やっぱり立ち上がって寝室に走って財布をひっつかんだ。
「神谷さん」
脱衣所から呼びかけると、「は、はい!」と慌ててシャワーを止めたようだった。そしてわざわざ扉なんか開けてくれなくていいのに、恥ずかしそうに顔だけをのぞかせた。
大きな瞳が戸惑いがちに僕をとらえる。
「すみません。ちょっとだけ出ます。すぐ戻ってくるので、待っててもらえますか?」
「あ、わかりました。すみません、お忙しいのに時間取ってもらっちゃって。あ、無理なら俺、帰りますよ?」
今すぐ帰りたい、の間違いじゃないのか?と思ったけど、残念。僕、あなたの作る冷やし中華を食べたいから、帰らせてあげない。
「いえ、そういうわけじゃなくて」
僕は首を振り、少しだけ見えている彼の肩にそっと指先を置いた。ビクっとした神谷くんは恥ずかしそうに僕の手と顔を交互に見て、「な、なにか?」と聞いてくるから、たまらず笑ってしまった。
「いや、急に敬語使いだしたなって思いまして」
言うと神谷くんは赤面し、「いや、く、癖で…」と俯いた。それだけグループ内で虐げられているということか?
「買い物してきます。お腹空いて来たんで、冷やし中華……食べたいなぁ~、なんて」
そう言うと、ぱっと顔を上げた神谷くんがびっくりするくらい可愛く笑った。
「ほんと? じゃあ一緒に行こうよ。すぐ上がるから!」
逆に気を遣って敬語を辞めた雰囲気があったけど、神谷くんの笑った顔があまりに可愛くて、正直本当に驚いた。
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