二番目の恋人 ～僕の恋はいつだって一番になれない～

第三章：新規依頼者

２

　カウントダウンコンサートと、春に行われるスプリングフェアで過去二回は彼と共演した。だけど歌番組で一緒になった試しはまだなく、エッグ時代も一度だって喋ったことはなかった。彼が電撃的にデビューしたのは、二年前。僕と同じくBランクからの大抜擢だった。はっきり言うけど、あまりエッグの仲間達からは好かれていなかった。
　というのも、彼は伝説級アイドルMOMOの一ノ瀬一也と妙に仲が良かったからだ。周りのエッグはそれを激しく妬んでいて、結構酷い態度を取っていた時期があった。

　加藤くんや西くんのようにいきなりAランクに昇格してトップアイドル達と仕事を始めてしまうと、妬む云々の前に手が届かなくなってしまうので、陰口こそ言われるけど本人にそれほどの被害はない。
　けど神谷くんはAランクでもなければトップアイドル達と肩を並べて仕事をすることもなかった。それはつまり生き地獄ってことだ。一ノ瀬くんと仲がいいだけで、妬まれ、虐められ、酷いことを言われるんだから。実力社会だからこそ、実力それがない男が何故トップアイドルから可愛がられているんだと。

　それでも彼は事務所一の出世を遂げた。入所から一年十一か月。事務所所属最短期間でのデビューだ。Bランクだったけど、やっぱり一ノ瀬くんが目にかけていただけあって、実力はあったということなのだろう。
　ちなみにcodeうちの加藤くんは二年二か月の研修期間でデビューしている。神谷くんの次に早い。

　確か歳は僕より上だったと思うんだけど、正直年齢までは覚えてない。ただ、虐められながらもエッグを続け、一ノ瀬くんから距離を取ろうともしなかった彼のメンタルはかなり強いのだろう。
　実際彼は、所属しているグループ内ではイイ使いっぱしりになっていて、その序列は傍目にも良く分かる。虐められているというわけではないんだけど、とにかく弄られまくっているし、よく一人でお遣いに走らされている。僕もBランクからのデビューだけど、メンバーは優しい。あの内海くんでさえも、今は僕に対等に接してくれているから。

　僕は運が良かった。運が良かったし、彼と違って、僕の事務所歴はメンバー内で一番下でもない。それが幸いしているのかもしれない。けど神谷くんはグループ内でも事務所歴が一番浅く、Ｂランクでのデビューだ。下っ端感が本当にヤバイ。見ていて不憫なくらい。

　カウントダウンの時に初めて共演したけど、「何度も同じ場所で間違うな！」ってメンバーから怒号を浴びていた。可哀想だったけど誰も助けてあげられなくて、ただひたすらに「すみません」と謝る神谷くんを皆遠巻きに見ていただけだった。

　そのままゲネプロに入って、物凄く空気は悪かったけど、神谷くんは打たれ慣れているのか全然平気そうな顔をしていて、けどその目はすごく真剣で、怒られて凹んでいるというより前向きに真面目に取り組んでいるように見えた。

　さすがのメンタルだと思ったのを覚えている。