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第二章:歴史の教科書
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うわ……さ?
怪訝に西くんを見ると、少しだけ翳りのある瞳で僕を見つめ、そして小さく首を振った。
「な……に? なんの噂?」
「いや、なんでもない」
そういうのやめろよ! なんだよ、噂って!
僕は西くんの肩を掴み、「言えよ」と必死に心の中で叫んだ。すると、西くんは観念したように言った。
「乱交パーティー……してたって。永井への許可も取らなくていい、プライベートなパーティーだって」
おい……、おいおい。なんだよ、知ってたんじゃないか。
でもそうか……、あれはプライベート扱いになってるんだ。だからこの噂が事務所内に広まっていてもパーティーパトロールが無反応ってわけなんだね?僕は……パーティーの本部からも見放されてるんじゃないか。
なんだよ……それ。笑えるんだけど。
「だったら……なにさ。西くんには関係ないだろ」
掴んでいた肩も、絡み合っていた目線も外し、僕はまたベッドに体を倒した。
そっぽ向き、壁の絵柄をぼんやりと眺める。
僕は……もうこれでパーティーから追放されたってことになるのかな? 嬉しい気もするけど、永井くんと……もう……、触れ合うことは出来ないの? 隣にいることを許してもらえないの?
じわりと涙が滲み、僕は慌てて枕をひっつかんで顔を隠した。泣いてるなんて西くんに知られたくない。
「さっさと終わってよ」
僕は枕に顔を埋めながら先を急かすと、西くんは一拍置いてからまた教科書の文章を読み上げ始めた。
けど、それを復唱する最中、西くんは息が止まるほどの力できつくきつく僕を抱きしめた。強くたくましい力。僕の背骨をへし折るつもりかよって思うほどだったけど、不思議と、この力強い抱擁が嬉しいと思えた。嬉しくて、嬉しくて……、気付けば僕も西くんを抱きしめ返していた。こんなことしたのは永井くん以来だ。エッチの最中に相手の男に抱き着くなんて、これまで一度だってしたことない。永井くんだけへの特別な行為だと思っていたのに。
「に……し、くん……っ」
今僕は、きっと西くんから優しさを貰ってるんだろう。きっとそうだ。抱きしめられる事がこんなに嬉しいと思ったことないから。この苦しいくらいの力が、嬉しいから。
エッチが終わると、復唱も終わった。
「実家暮らしの中坊は襲わないって言ったじゃん」
ベッドの上で僕は生意気に悪態を吐いた。素直に「ありがとう」って言えない自分が嫌い。全然可愛くない。だけど可愛くないのは西くんも一緒だった。
「お前が重度の歴史バカだからだ」
衣服を整え終えた西くんは、ずいっと教科書を僕に見せた。細く綺麗な字が書き込まれている。彼が何かを書き込んでいることは知っていた。けどその文字を読んで、また僕は顔から火を出した。
「重要な箇所は大体抑えた。俺のことを思い出しながら覚えてみろ。きっと20点はあがる」
そう言って、”キス”、”メガネ” 、”耳”……。触れたり、触れられたりした箇所が書かれた教科書を押し付けられる。
嘘……でしょ? こうやって覚えるの? 恥ずかしすぎるだろ!
「さてと」
西くんは乱れた服を整えると、メガネをケースにしまった。
「か、帰るの?」
「あぁ」
歴史に時間使いすぎたからなと付け加え、西くんは立ち上がった。
「ま、待ってよ!」
思わず彼の腕を掴んだけど、するりと躱された。
「悪いな。女と飯食う約束してんだ」
こちらを見もせずそう言った西くんに、僕はきっとものすごく傷ついた顔をしただろうと思う。
嘘でしょ? 彼女いたの?
微熱交じりの僕の心は一瞬で冷め、とんでもない虚しさで埋め尽くされていく。永井くんだけじゃない。西くんも残酷な男だ。彼女がいるならあんな風に抱きしめたりしないでよ……。
怪訝に西くんを見ると、少しだけ翳りのある瞳で僕を見つめ、そして小さく首を振った。
「な……に? なんの噂?」
「いや、なんでもない」
そういうのやめろよ! なんだよ、噂って!
僕は西くんの肩を掴み、「言えよ」と必死に心の中で叫んだ。すると、西くんは観念したように言った。
「乱交パーティー……してたって。永井への許可も取らなくていい、プライベートなパーティーだって」
おい……、おいおい。なんだよ、知ってたんじゃないか。
でもそうか……、あれはプライベート扱いになってるんだ。だからこの噂が事務所内に広まっていてもパーティーパトロールが無反応ってわけなんだね?僕は……パーティーの本部からも見放されてるんじゃないか。
なんだよ……それ。笑えるんだけど。
「だったら……なにさ。西くんには関係ないだろ」
掴んでいた肩も、絡み合っていた目線も外し、僕はまたベッドに体を倒した。
そっぽ向き、壁の絵柄をぼんやりと眺める。
僕は……もうこれでパーティーから追放されたってことになるのかな? 嬉しい気もするけど、永井くんと……もう……、触れ合うことは出来ないの? 隣にいることを許してもらえないの?
じわりと涙が滲み、僕は慌てて枕をひっつかんで顔を隠した。泣いてるなんて西くんに知られたくない。
「さっさと終わってよ」
僕は枕に顔を埋めながら先を急かすと、西くんは一拍置いてからまた教科書の文章を読み上げ始めた。
けど、それを復唱する最中、西くんは息が止まるほどの力できつくきつく僕を抱きしめた。強くたくましい力。僕の背骨をへし折るつもりかよって思うほどだったけど、不思議と、この力強い抱擁が嬉しいと思えた。嬉しくて、嬉しくて……、気付けば僕も西くんを抱きしめ返していた。こんなことしたのは永井くん以来だ。エッチの最中に相手の男に抱き着くなんて、これまで一度だってしたことない。永井くんだけへの特別な行為だと思っていたのに。
「に……し、くん……っ」
今僕は、きっと西くんから優しさを貰ってるんだろう。きっとそうだ。抱きしめられる事がこんなに嬉しいと思ったことないから。この苦しいくらいの力が、嬉しいから。
エッチが終わると、復唱も終わった。
「実家暮らしの中坊は襲わないって言ったじゃん」
ベッドの上で僕は生意気に悪態を吐いた。素直に「ありがとう」って言えない自分が嫌い。全然可愛くない。だけど可愛くないのは西くんも一緒だった。
「お前が重度の歴史バカだからだ」
衣服を整え終えた西くんは、ずいっと教科書を僕に見せた。細く綺麗な字が書き込まれている。彼が何かを書き込んでいることは知っていた。けどその文字を読んで、また僕は顔から火を出した。
「重要な箇所は大体抑えた。俺のことを思い出しながら覚えてみろ。きっと20点はあがる」
そう言って、”キス”、”メガネ” 、”耳”……。触れたり、触れられたりした箇所が書かれた教科書を押し付けられる。
嘘……でしょ? こうやって覚えるの? 恥ずかしすぎるだろ!
「さてと」
西くんは乱れた服を整えると、メガネをケースにしまった。
「か、帰るの?」
「あぁ」
歴史に時間使いすぎたからなと付け加え、西くんは立ち上がった。
「ま、待ってよ!」
思わず彼の腕を掴んだけど、するりと躱された。
「悪いな。女と飯食う約束してんだ」
こちらを見もせずそう言った西くんに、僕はきっとものすごく傷ついた顔をしただろうと思う。
嘘でしょ? 彼女いたの?
微熱交じりの僕の心は一瞬で冷め、とんでもない虚しさで埋め尽くされていく。永井くんだけじゃない。西くんも残酷な男だ。彼女がいるならあんな風に抱きしめたりしないでよ……。
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