二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第一章:絶望の甘い檻

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 加藤亮介、という男。こちらはもはや超新星だ。最初はCランクの初心者クラスにいたが、半年後にはBランクを飛ばしてAランクに飛び級した。社長のお気に入りだという実しやかな噂と、誰もが認める抜群の歌唱力を買われ、西くんより早くマイクを持った。これにはエッグ一同度肝を抜かされた。エッグ達の最前線にいるトップスター達も「こいつ誰だ」状態で最初戸惑っているようだったけど、彼の歌唱力にすべてを受け入れたのか、今や仲良く仕事をしている。
 ちなみに加藤くんは西くんより更に一年後輩だ。僕は後輩にどんどん追い越され、ずっと同じ場所でくすぶり続けている。

 僕からコーラを受け取った西くんは、団欒しているエッグ達を無視して搬入口の方へと歩いて行った。すらっとした細身の後ろ姿。強烈に姿勢の良い西くんは歩く姿も綺麗で、サラサラの髪が足を繰り出すたびに軽やかに揺れた。それが何故か目に焼き付いて、気が付けば僕は西くんの背中を追いかけていた。

 搬入口付近にある大きな鏡の前。西くんは一人、ダンスの練習を始めた。
 薄暗い駐車場。だけど、西くんの立つそこはやけに明るく感じた。真上に煌々と蛍光灯が光っていたというのもあるけど、暗い駐車場とのコントラストがとても美しく感じたんだ。

 搬入の済んでいるこの時間帯は、駐車場を走る車もなく人通りもない。ステップを踏む足音と、たまに漏れ聞こえる西くんの吐息だけが反響している。サラサラの髪がターンの度に揺れ動き、空を切る音がシュっと耳の奥に届く。

 カッコイイ

 素直に思った。
 けど途中。チッと小さな舌打ちをして、西くんは動きを止めた。

「あの人どうやってんだ?」

 同じ箇所を何度もゆっくりと確かめるように踊り直す。けどそのどれもしっくり来ないのか、西くんはとうとう頭を掻きむしってその場に座り込んだ。そして僕が買ってあげたコーラの蓋をようやく開け、一口喉に流し込む。
 天才かと思っていたけど、ああやって出来ないこともあるんだ。それが妙に嬉しかった。すごく親近感を覚えた。

 西くんはコーラのボトルを見つめ大きなため息を吐くと、パイプがむき出しになったコンクリートの天井を仰ぎ、「す……げぇ」ってそのまま後ろに倒れた。

 気になった。
 自分でもビックリするくらい何がすごいのか、誰がすごいのか気になった。あの西くんだ。奇人変人と言われている西克己。その彼を唸らせる人物。気にならないわけがない。そんなの僕じゃなくても気になると思う。

 これが西くんへの最初の興味。とてもつまらない興味かもしれないけど、それでも目に焼き付いた西くんの姿と、その透き通るような声は、僕の中から消えてはくれなかった。

 静かに彼へ近づき、寝転がる彼を立ったまま見下ろす。サラサラの髪が冷たいコンクリートに乱れている。釣りあがった眉。切れ長の瞳。薄い唇。白い肌。細いボディライン。

「……なに?」

 そしてこの透き通るような綺麗な声。……物凄く不機嫌声だったけど。

「コーラ買ってあげたんですけど、その態度ですか?」

 西くんはむくりと起き上がり、胡座をかいたまま僕を見上げた。

「ずっと盗み見て、一五〇円も惜しいほどお前貧乏なの?」

 ……気付かれていたのか。

「僕の方が先輩なんですけど」
「だから?」

 だから……って。

「”お前” なんて呼ばないでくれます?」

 言った僕に西くんは不敵に口許を釣り上げた。

「三木、先輩…ってか?」
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