6 / 198
第一章:絶望の甘い檻
5
しおりを挟む
加藤亮介、という男。こちらはもはや超新星だ。最初はCランクの初心者クラスにいたが、半年後にはBランクを飛ばしてAランクに飛び級した。社長のお気に入りだという実しやかな噂と、誰もが認める抜群の歌唱力を買われ、西くんより早くマイクを持った。これにはエッグ一同度肝を抜かされた。エッグ達の最前線にいるトップスター達も「こいつ誰だ」状態で最初戸惑っているようだったけど、彼の歌唱力にすべてを受け入れたのか、今や仲良く仕事をしている。
ちなみに加藤くんは西くんより更に一年後輩だ。僕は後輩にどんどん追い越され、ずっと同じ場所でくすぶり続けている。
僕からコーラを受け取った西くんは、団欒しているエッグ達を無視して搬入口の方へと歩いて行った。すらっとした細身の後ろ姿。強烈に姿勢の良い西くんは歩く姿も綺麗で、サラサラの髪が足を繰り出すたびに軽やかに揺れた。それが何故か目に焼き付いて、気が付けば僕は西くんの背中を追いかけていた。
搬入口付近にある大きな鏡の前。西くんは一人、ダンスの練習を始めた。
薄暗い駐車場。だけど、西くんの立つそこはやけに明るく感じた。真上に煌々と蛍光灯が光っていたというのもあるけど、暗い駐車場とのコントラストがとても美しく感じたんだ。
搬入の済んでいるこの時間帯は、駐車場を走る車もなく人通りもない。ステップを踏む足音と、たまに漏れ聞こえる西くんの吐息だけが反響している。サラサラの髪がターンの度に揺れ動き、空を切る音がシュっと耳の奥に届く。
カッコイイ
素直に思った。
けど途中。チッと小さな舌打ちをして、西くんは動きを止めた。
「あの人どうやってんだ?」
同じ箇所を何度もゆっくりと確かめるように踊り直す。けどそのどれもしっくり来ないのか、西くんはとうとう頭を掻きむしってその場に座り込んだ。そして僕が買ってあげたコーラの蓋をようやく開け、一口喉に流し込む。
天才かと思っていたけど、ああやって出来ないこともあるんだ。それが妙に嬉しかった。すごく親近感を覚えた。
西くんはコーラのボトルを見つめ大きなため息を吐くと、パイプがむき出しになったコンクリートの天井を仰ぎ、「す……げぇ」ってそのまま後ろに倒れた。
気になった。
自分でもビックリするくらい何がすごいのか、誰がすごいのか気になった。あの西くんだ。奇人変人と言われている西克己。その彼を唸らせる人物。気にならないわけがない。そんなの僕じゃなくても気になると思う。
これが西くんへの最初の興味。とてもつまらない興味かもしれないけど、それでも目に焼き付いた西くんの姿と、その透き通るような声は、僕の中から消えてはくれなかった。
静かに彼へ近づき、寝転がる彼を立ったまま見下ろす。サラサラの髪が冷たいコンクリートに乱れている。釣りあがった眉。切れ長の瞳。薄い唇。白い肌。細いボディライン。
「……なに?」
そしてこの透き通るような綺麗な声。……物凄く不機嫌声だったけど。
「コーラ買ってあげたんですけど、その態度ですか?」
西くんはむくりと起き上がり、胡座をかいたまま僕を見上げた。
「ずっと盗み見て、一五〇円も惜しいほどお前貧乏なの?」
……気付かれていたのか。
「僕の方が先輩なんですけど」
「だから?」
だから……って。
「”お前” なんて呼ばないでくれます?」
言った僕に西くんは不敵に口許を釣り上げた。
「三木、先輩…ってか?」
ちなみに加藤くんは西くんより更に一年後輩だ。僕は後輩にどんどん追い越され、ずっと同じ場所でくすぶり続けている。
僕からコーラを受け取った西くんは、団欒しているエッグ達を無視して搬入口の方へと歩いて行った。すらっとした細身の後ろ姿。強烈に姿勢の良い西くんは歩く姿も綺麗で、サラサラの髪が足を繰り出すたびに軽やかに揺れた。それが何故か目に焼き付いて、気が付けば僕は西くんの背中を追いかけていた。
搬入口付近にある大きな鏡の前。西くんは一人、ダンスの練習を始めた。
薄暗い駐車場。だけど、西くんの立つそこはやけに明るく感じた。真上に煌々と蛍光灯が光っていたというのもあるけど、暗い駐車場とのコントラストがとても美しく感じたんだ。
搬入の済んでいるこの時間帯は、駐車場を走る車もなく人通りもない。ステップを踏む足音と、たまに漏れ聞こえる西くんの吐息だけが反響している。サラサラの髪がターンの度に揺れ動き、空を切る音がシュっと耳の奥に届く。
カッコイイ
素直に思った。
けど途中。チッと小さな舌打ちをして、西くんは動きを止めた。
「あの人どうやってんだ?」
同じ箇所を何度もゆっくりと確かめるように踊り直す。けどそのどれもしっくり来ないのか、西くんはとうとう頭を掻きむしってその場に座り込んだ。そして僕が買ってあげたコーラの蓋をようやく開け、一口喉に流し込む。
天才かと思っていたけど、ああやって出来ないこともあるんだ。それが妙に嬉しかった。すごく親近感を覚えた。
西くんはコーラのボトルを見つめ大きなため息を吐くと、パイプがむき出しになったコンクリートの天井を仰ぎ、「す……げぇ」ってそのまま後ろに倒れた。
気になった。
自分でもビックリするくらい何がすごいのか、誰がすごいのか気になった。あの西くんだ。奇人変人と言われている西克己。その彼を唸らせる人物。気にならないわけがない。そんなの僕じゃなくても気になると思う。
これが西くんへの最初の興味。とてもつまらない興味かもしれないけど、それでも目に焼き付いた西くんの姿と、その透き通るような声は、僕の中から消えてはくれなかった。
静かに彼へ近づき、寝転がる彼を立ったまま見下ろす。サラサラの髪が冷たいコンクリートに乱れている。釣りあがった眉。切れ長の瞳。薄い唇。白い肌。細いボディライン。
「……なに?」
そしてこの透き通るような綺麗な声。……物凄く不機嫌声だったけど。
「コーラ買ってあげたんですけど、その態度ですか?」
西くんはむくりと起き上がり、胡座をかいたまま僕を見上げた。
「ずっと盗み見て、一五〇円も惜しいほどお前貧乏なの?」
……気付かれていたのか。
「僕の方が先輩なんですけど」
「だから?」
だから……って。
「”お前” なんて呼ばないでくれます?」
言った僕に西くんは不敵に口許を釣り上げた。
「三木、先輩…ってか?」
10
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説




いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる