二番目の恋人 ~僕の恋はいつだって一番になれない~

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第一章:絶望の甘い檻

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「佐久間さん、うちもパーティー始めたんですよ」

 永井くんがそんな風に話し出したのを寮の廊下で聞いた。
 僕は依頼帰りだったけど、聞き覚えのある永井くんの声に立ち止まり、そっと寮の食堂を覗き込んだ。

 そこには永井くんと、事務所内でも人気の高い佐久間大介さんが二人でお茶を飲んでいた。二人は昔から仲がいい。というか、永井くんが一方的に懐いている、というべきか。佐久間さんも面倒見がいいので、永井くんを可愛がっているようではあった。
 けど今、覗き込んだ先で見た佐久間さんの瞳はどこか鋭くて、まるで永井くんを軽蔑するような瞳に見えた。一瞬怒っているのかと思ったけど、お茶を一口飲んだ佐久間さんの瞳はすぐにいつも通りに戻っていた。
 そして尋ねた。

「ディッシュは?」

 聞き取りやすい佐久間さんの声。
 ……ディッシュ? 意味が分からずに聞き耳を立てると、永井くんが即座に返答した。

「颯太ですよ、三木颯太。知ってます?」

 まさか自分の名前が出てくるとは思わずぎょっとしたが、そこで漸く「パーティー」が組織化された売春集団なのだということを理解した。

「知らねぇな。それは……何? 売れないことを見越してか?」

 佐久間さんのひどすぎる言葉。カチンと来るよりも、単純にショックだった。なんの芽も出てない僕のことなんか、トップスターの佐久間さんが知ってるわけがない。けどそのことが悲しいのではなくて、僕を最初から「売れない」と決めつけるその言葉に傷ついた。しかも、その佐久間さんの言葉に……永井くんは笑ったんだ。

「あはは! 確かに。永遠にエッグでいてくれればいいですけど。デビューしちゃうと時間なくなりますしね」

 エッグ――、アイドル研修生の総称。佐久間さんも永井くんも僕も、みんなまだエッグだ。デビューには至っていない。

 僕は……永遠にエッグで居なきゃいけないの? 好きでもない男と寝るために、デビューを夢見ちゃいけないっていうのか?

 食堂の前で僕は愕然とし、持っていた鞄を落としそうになって、慌ててきつく握り返した。

「すごくいいですよ、颯太。一度回しましょうか? 絶対気に入ります」
「いらねぇ。んで俺らのパーティーもう解散するし」

 佐久間さんの言葉に永井くんは驚いた様子で声を上げた。

「なんで!? 俺まだ全員利用させてもらってないんだけど!」
「生憎だな」
「えぇ! ほかに誰が居たんですか?」
「内緒」

 佐久間さんも僕らと同じパーティーを組んでいたのか。そして永井くんはそちらのディッシュと呼ばれる男の子を抱いていた……っていうこと? だから途中から僕を抱いてくれなくなったの? そういうコトなの?

「うそでしょ!? 頼みます! 全員回してください!」
「悪いが、来週の俺の依頼で解散。これ以上の依頼は受けない。まぁ精々残りのパーティーで楽しくやってろ」
「えー、佐久間さ~ん」

 永井くんが残念そうに声を上げ、がっくりと肩を落とす。僕の前では絶対に見せない弟キャラ。と言っても、永井くんと佐久間さんは同い年なんだけど、事務所歴が違うから、永井くんは年齢関係なく芸歴の長い人に敬語を使う。そういう真面目な人なんだ。

「でも別に足まで洗うつもりねぇし、いつでもお前らのこと見てっからよ」

 そう言って佐久間さんは机を挟んで目の前にいる永井くんの腕をぐっと引き寄せた。

「あんまり羽目外すなよ?」

 その瞳は鋭い。
 だけど、「佐久間さん……」と呟いた永井くんがカタンと椅子から腰を上げると、そのまま二人は引き寄せられるみたいにキスをした。

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