RUN! RUN! RUN! 番外編

2wei

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夢見るプリン・ア・ラ・モード!

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「今年は、寺島からのチョコを嗜む必要のない、二人だけのバレンタインだな。初めてじゃないか?」

 手を取られ、甘い瞳でそんなことを言われる。
 嵐は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐにぐっと眉を寄せた。

「ほんと、どんだけお邪魔虫なのさ、あの男。毎年インフルでぶっ倒れてくれればいいのに」
「はは! 正月もぜひ、床に伏して欲しいところだな」
「ほんとそれ! 一番邪魔だよ! 年間通してあの日が一番邪魔!」

 嵐の毒吐きに蘭真は可笑しそうに笑い声を上げ、宝石のようなチョコを頬張る恋人を愛おしく見つめた。

 毎年、寺島から贈られてくる高級チョコ。
 蘭真はそれを待ち遠しいなんて思ったことはないが、嵐はそうじゃない。それを毎年楽しみにしているし、寺島に「チョコは俺が全部食った」とか「今年もゴミ箱行きだぜ」とか「溶かして店舗商品の材料に回した」なんていう嘘をついて喧嘩をふっかけることを楽しんでいる……、ように見える。少なくとも、蘭真の目にはそう映っていた。
 なんだかんだで、嵐は寺島を兄の様に慕い、寺島もまた嵐を弟の様に可愛がっていると信じているのだ。実際に、それが間違いとは言わない。しかし正解とも言い難い。信頼の上の弄り合いであることは間違いないだろうが、嫉妬も独占欲も、相手を苛立たせるための行為や発言もしていることは、事実として揺るがず存在しているのである。

 それでも、寺島が蘭真の実家ではなく店へチョコを送ってくるのは、彼なりの気遣いなのだ。嵐がいるから、嵐が蘭真の隣にいるから成立する嫌がらせしか行わない。こそこそと蘭真だけに愛を囁くことはしないし、姑息な真似もしない。やろうと思えばいくらでも出来るが、それをしないのが寺島走一郎なのだ。

 毎年、この日。仕事終わりに寺島から贈られてくる高級チョコを楽しむのが、蘭真と嵐のお約束になっている。だけどそれが今年、ないかもしれない。発送が間に合えば届くかもしれないが、届かないかもしれない。蘭真はそれを知っていたから、急遽、チョコを準備したのだ。
 二人で、「今年はどんなチョコだろう」と言いながら箱を開ける瞬間が好きなのだ。綺麗なチョコに嵐が喜ぶことを知っているから。文句を言いながら、毎年これを楽しみにしているのだと、蘭真はそう信じている。

 そうとは知らない嵐は、何故今年は手作りじゃなくて購入チョコなのだと心を痛めていた。忙しいのは分かるが、「パフェなら三分もかからない」と言っていた数年前のバレンタインを思い出し、「パフェでもいいから手作りが良かった」と宝石箱みたいなチョコの箱を見つめた。
 けど嵐はふと気づくのだ。

 自分はいつも手作りチョコを貰っているが、お返しはいつも購入品だったな、と。それに気付いてしまったら最後、嵐は情けなさに打ちのめされた。そして固く自分に誓うのだ。
「ホワイトデーは自分が手作りスイーツを渡す」と。
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