23 / 29
夢見るプリン・ア・ラ・モード!
3
しおりを挟む
「今年は、寺島からのチョコを嗜む必要のない、二人だけのバレンタインだな。初めてじゃないか?」
手を取られ、甘い瞳でそんなことを言われる。
嵐は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐにぐっと眉を寄せた。
「ほんと、どんだけお邪魔虫なのさ、あの男。毎年インフルでぶっ倒れてくれればいいのに」
「はは! 正月もぜひ、床に伏して欲しいところだな」
「ほんとそれ! 一番邪魔だよ! 年間通してあの日が一番邪魔!」
嵐の毒吐きに蘭真は可笑しそうに笑い声を上げ、宝石のようなチョコを頬張る恋人を愛おしく見つめた。
毎年、寺島から贈られてくる高級チョコ。
蘭真はそれを待ち遠しいなんて思ったことはないが、嵐はそうじゃない。それを毎年楽しみにしているし、寺島に「チョコは俺が全部食った」とか「今年もゴミ箱行きだぜ」とか「溶かして店舗商品の材料に回した」なんていう嘘をついて喧嘩をふっかけることを楽しんでいる……、ように見える。少なくとも、蘭真の目にはそう映っていた。
なんだかんだで、嵐は寺島を兄の様に慕い、寺島もまた嵐を弟の様に可愛がっていると信じているのだ。実際に、それが間違いとは言わない。しかし正解とも言い難い。信頼の上の弄り合いであることは間違いないだろうが、嫉妬も独占欲も、相手を苛立たせるための行為や発言もわざとしていることは、事実として揺るがず存在しているのである。
それでも、寺島が蘭真の実家ではなく店へチョコを送ってくるのは、彼なりの気遣いなのだ。嵐がいるから、嵐が蘭真の隣にいるから成立する嫌がらせしか行わない。こそこそと蘭真だけに愛を囁くことはしないし、姑息な真似もしない。やろうと思えばいくらでも出来るが、それをしないのが寺島走一郎なのだ。
毎年、この日。仕事終わりに寺島から贈られてくる高級チョコを楽しむのが、蘭真と嵐のお約束になっている。だけどそれが今年、ないかもしれない。発送が間に合えば届くかもしれないが、届かないかもしれない。蘭真はそれを知っていたから、急遽、チョコを準備したのだ。
二人で、「今年はどんなチョコだろう」と言いながら箱を開ける瞬間が好きなのだ。綺麗なチョコに嵐が喜ぶことを知っているから。文句を言いながら、毎年これを楽しみにしているのだと、蘭真はそう信じている。
そうとは知らない嵐は、何故今年は手作りじゃなくて購入チョコなのだと心を痛めていた。忙しいのは分かるが、「パフェなら三分もかからない」と言っていた数年前のバレンタインを思い出し、「パフェでもいいから手作りが良かった」と宝石箱みたいなチョコの箱を見つめた。
けど嵐はふと気づくのだ。
自分はいつも手作りチョコを貰っているが、お返しはいつも購入品だったな、と。それに気付いてしまったら最後、嵐は情けなさに打ちのめされた。そして固く自分に誓うのだ。
「ホワイトデーは自分が手作りスイーツを渡す」と。
手を取られ、甘い瞳でそんなことを言われる。
嵐は一瞬言葉を詰まらせたが、すぐにぐっと眉を寄せた。
「ほんと、どんだけお邪魔虫なのさ、あの男。毎年インフルでぶっ倒れてくれればいいのに」
「はは! 正月もぜひ、床に伏して欲しいところだな」
「ほんとそれ! 一番邪魔だよ! 年間通してあの日が一番邪魔!」
嵐の毒吐きに蘭真は可笑しそうに笑い声を上げ、宝石のようなチョコを頬張る恋人を愛おしく見つめた。
毎年、寺島から贈られてくる高級チョコ。
蘭真はそれを待ち遠しいなんて思ったことはないが、嵐はそうじゃない。それを毎年楽しみにしているし、寺島に「チョコは俺が全部食った」とか「今年もゴミ箱行きだぜ」とか「溶かして店舗商品の材料に回した」なんていう嘘をついて喧嘩をふっかけることを楽しんでいる……、ように見える。少なくとも、蘭真の目にはそう映っていた。
なんだかんだで、嵐は寺島を兄の様に慕い、寺島もまた嵐を弟の様に可愛がっていると信じているのだ。実際に、それが間違いとは言わない。しかし正解とも言い難い。信頼の上の弄り合いであることは間違いないだろうが、嫉妬も独占欲も、相手を苛立たせるための行為や発言もわざとしていることは、事実として揺るがず存在しているのである。
それでも、寺島が蘭真の実家ではなく店へチョコを送ってくるのは、彼なりの気遣いなのだ。嵐がいるから、嵐が蘭真の隣にいるから成立する嫌がらせしか行わない。こそこそと蘭真だけに愛を囁くことはしないし、姑息な真似もしない。やろうと思えばいくらでも出来るが、それをしないのが寺島走一郎なのだ。
毎年、この日。仕事終わりに寺島から贈られてくる高級チョコを楽しむのが、蘭真と嵐のお約束になっている。だけどそれが今年、ないかもしれない。発送が間に合えば届くかもしれないが、届かないかもしれない。蘭真はそれを知っていたから、急遽、チョコを準備したのだ。
二人で、「今年はどんなチョコだろう」と言いながら箱を開ける瞬間が好きなのだ。綺麗なチョコに嵐が喜ぶことを知っているから。文句を言いながら、毎年これを楽しみにしているのだと、蘭真はそう信じている。
そうとは知らない嵐は、何故今年は手作りじゃなくて購入チョコなのだと心を痛めていた。忙しいのは分かるが、「パフェなら三分もかからない」と言っていた数年前のバレンタインを思い出し、「パフェでもいいから手作りが良かった」と宝石箱みたいなチョコの箱を見つめた。
けど嵐はふと気づくのだ。
自分はいつも手作りチョコを貰っているが、お返しはいつも購入品だったな、と。それに気付いてしまったら最後、嵐は情けなさに打ちのめされた。そして固く自分に誓うのだ。
「ホワイトデーは自分が手作りスイーツを渡す」と。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい
翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。
それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん?
「え、俺何か、犬になってない?」
豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。
※どんどん年齢は上がっていきます。
※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。
エリート上司に完全に落とされるまで
琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。
彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。
そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。
社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる