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バレンタイン
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すぐにデスクワークを終えて厨房へ入る。確かに忙しそうだ。ホイップクリームを作っているスタッフと交代で入り、俺でも出来る仕事をあちこち回りながら手伝った。
ノンストップで閉店まで動き回り、明日の仕込みを始める厨房スタッフ達から離れて店内へと顔を出した。
レジ精算をしているアルバイト、ショーケースの掃除をしているアルバイト、お客様スペースの掃き掃除をしているアルバイト。俺は寒い店外へと出て、店先の掃除を始めた。
バレンタイン用に準備していたチョコレートは在庫を3つばかり残しただけで、ほぼ完売した。
店内の閉店作業を終え、販売スタッフ達と厨房へ入ると、蘭真が俺たちを引き止めた。
「帰る前に食べていきな。バレンタインだからね」
そう言って差し出してくれたのは、大きなバットの中で綺麗に整列している生チョコだった。ふんだんにまぶされたココアパウダーの下には、正方形にカットされた生チョコ。
販売スタッフ達は瞳を煌めかせて飛びついた。
厨房スタッフ達も、仕込みの合間に生チョコをつまんでいる。
俺も一粒だけ拝借し、あとは洗い場に徹した。忙しいことに気づかず、寺島さんなんかと戯れていたことへの罪悪感がそうさせた。
「おつかれさまでした~」
店頭スタッフはもちろん、厨房スタッフも続々と帰ってゆく。彼らをすべて見送り、厨房には俺と蘭真だけが残った。別に気まずい訳では無いけど、改めて謝罪した。
「ごめん、蘭真」
「ん、なに? どうした?」
当人は気にしていないようだ。俺はこんなにも気にしてるのに。
……まぁ、いいけど。怒ってないならそれに越したことはないから。
「いや、寺島さんと……」
「あぁ、アイツね。ほんと迷惑だよな。久しぶりに腹立った」
そう言いはしたが、全然腹など立っていない様子で、蘭真はケラケラと楽しそうに笑った。
「そうだ。寺島からチョコ届いてたよな! 食べようぜ! 毎年うまいんだよな!」
嬉しそうに事務所へ走り、テーブルに置きもしていなかった小包みをこちらへ持ってくると、宝箱を開けるみたいな顔でラッピングを外した。
箱の中に並んでいたのは、和柄が美しく転写されているチョコレートで、春夏秋冬をイメージしているようだった。二粒ずつ、計八個。柄はすべて違う。
「綺麗……」
改めて忠告しておくが、これは購入物であり、寺島さんが作った代物ではない。
春は桃色、夏は緑色、秋は茶色、冬は白色のチョコレート。転写されている和柄はすべて柄違いだが、味は四種類。どうせ四個売りのものもあったはず。なのに八個入りのものにしたのは、寺島の粋な計らいだろう。
「一粒ずつ食べられるな」
にっこり笑ってこちらを見る蘭真に、俺は苦笑いを返した。一粒たりとも食べさせるな、というメールの文面を思い出したからだ。そりゃあ、こんな綺麗なチョコが八個も入ってりゃ高かろう。
そして言うまでもなく、めちゃくちゃうまい。
「幸せ~~! ってこれボンボンショコラか! ちょ待って。冬は何が入ってる?」
ホワイトチョコから食べようとしていた俺に、蘭真が食い気味に聞いてくるから、一口で放り込むところを慌てて半分に噛み砕いた。
「……ん、何だろこれ。ゼリー?」
「コンフィズリーかな?」
コンフィズリーっていうのか。
ノンストップで閉店まで動き回り、明日の仕込みを始める厨房スタッフ達から離れて店内へと顔を出した。
レジ精算をしているアルバイト、ショーケースの掃除をしているアルバイト、お客様スペースの掃き掃除をしているアルバイト。俺は寒い店外へと出て、店先の掃除を始めた。
バレンタイン用に準備していたチョコレートは在庫を3つばかり残しただけで、ほぼ完売した。
店内の閉店作業を終え、販売スタッフ達と厨房へ入ると、蘭真が俺たちを引き止めた。
「帰る前に食べていきな。バレンタインだからね」
そう言って差し出してくれたのは、大きなバットの中で綺麗に整列している生チョコだった。ふんだんにまぶされたココアパウダーの下には、正方形にカットされた生チョコ。
販売スタッフ達は瞳を煌めかせて飛びついた。
厨房スタッフ達も、仕込みの合間に生チョコをつまんでいる。
俺も一粒だけ拝借し、あとは洗い場に徹した。忙しいことに気づかず、寺島さんなんかと戯れていたことへの罪悪感がそうさせた。
「おつかれさまでした~」
店頭スタッフはもちろん、厨房スタッフも続々と帰ってゆく。彼らをすべて見送り、厨房には俺と蘭真だけが残った。別に気まずい訳では無いけど、改めて謝罪した。
「ごめん、蘭真」
「ん、なに? どうした?」
当人は気にしていないようだ。俺はこんなにも気にしてるのに。
……まぁ、いいけど。怒ってないならそれに越したことはないから。
「いや、寺島さんと……」
「あぁ、アイツね。ほんと迷惑だよな。久しぶりに腹立った」
そう言いはしたが、全然腹など立っていない様子で、蘭真はケラケラと楽しそうに笑った。
「そうだ。寺島からチョコ届いてたよな! 食べようぜ! 毎年うまいんだよな!」
嬉しそうに事務所へ走り、テーブルに置きもしていなかった小包みをこちらへ持ってくると、宝箱を開けるみたいな顔でラッピングを外した。
箱の中に並んでいたのは、和柄が美しく転写されているチョコレートで、春夏秋冬をイメージしているようだった。二粒ずつ、計八個。柄はすべて違う。
「綺麗……」
改めて忠告しておくが、これは購入物であり、寺島さんが作った代物ではない。
春は桃色、夏は緑色、秋は茶色、冬は白色のチョコレート。転写されている和柄はすべて柄違いだが、味は四種類。どうせ四個売りのものもあったはず。なのに八個入りのものにしたのは、寺島の粋な計らいだろう。
「一粒ずつ食べられるな」
にっこり笑ってこちらを見る蘭真に、俺は苦笑いを返した。一粒たりとも食べさせるな、というメールの文面を思い出したからだ。そりゃあ、こんな綺麗なチョコが八個も入ってりゃ高かろう。
そして言うまでもなく、めちゃくちゃうまい。
「幸せ~~! ってこれボンボンショコラか! ちょ待って。冬は何が入ってる?」
ホワイトチョコから食べようとしていた俺に、蘭真が食い気味に聞いてくるから、一口で放り込むところを慌てて半分に噛み砕いた。
「……ん、何だろこれ。ゼリー?」
「コンフィズリーかな?」
コンフィズリーっていうのか。
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