RUN! RUN! RUN! 番外編

2wei

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お正月の僕ら

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「ホットチョコならぬ、ショコラティー、なんだよね? すごく美味しそう!」

 気の抜けた蘭真の言葉。
 だけどその目はキラキラしていて、俺と寺島さんはいがみ合うのも忘れて、きょとんと蘭真を見つめてしまった。

「さすがに紅茶には詳しくないんだけど、チョコレートに合う紅茶。ちょっと探してみるよ。今年のバレンタインはショコラティーにしない?」

 まさかだった。

「……なるほど。紅茶とチョコレートをセット売りするわけだ」
「マグカップも一緒に。どうだろ?」
「面白いじゃん。じゃあそれを目玉にしようか」

 毎年、寺島さんの店にはバレンタインのチョコレートを三種類ほど置かせてもらっている。もちろんそれはうちの店舗でもしっかりと商品展開する。デパートのバレンタイン商戦にはさすがに敵わないけど、うちの商品もそれなりに売れ行きはいい方だと思っている。

「ひとまず紅茶とチョコレートの相性を一つずつ確かめて行かなきゃな」
「マグカップの発注元は俺が探すよ」

 そう申し出ると、寺島さんと蘭真は「決まりだな」と笑い、マグカップの中のチョコレートを一粒ずつ取り出した。

「試しにこれで飲んでみよう」

 ホットチョコ用に作られたわけじゃないから、溶けるのは遅かったが、温かいショコラティーを三人で飲んでから店を出た。

 外は既に日が落ち、夜へ姿を変えようとしている。

「寺島はすぐに福岡へ向かうんだろ? 時間大丈夫か?」

 店を出て蘭真が何気なくそう聞くと、寺島さんは嬉しそうに笑ってピースサインをニョキニョキと動かした。

「にゃっは~。実は今夜はこっちに一泊する予定でさ、もうホテルも取ってあるんだ」

 最悪である。もう嫌な予感しかしない。

「へぇ……そう。それはご機嫌だね。でも俺たちはこれで失礼しますよ。用事があるんでね。サヨナラ」

 ぐいっと蘭真の手を引き、俺はさっさと寺島さんから逃げることを選んだ。だがもちろん、見逃してもらえるわけはなく。

「初詣行くんだよね? さっき蘭ちゃんから聞いたよぉ。俺も同行するぅ」
「来んなっっ!!」
「行くともさ、もちろ~ん! 蘭ちゃん、屋台で何食べたい? 俺が奢ってあげる~」
「結構です! 結構です! 結構です! だから帰ってください!」
「たこ焼き好きだよね? 半分こする~?」
「なんであんたとうちの蘭真が半分こすんだよ! それは俺の特権だろ!」
「うわ~、嫉妬深い男はやだねぇ」
「未練たらしい男よりマシだよ!」

 なんでこうなる!! さっさと嫁のところに行けよ! これ、一般的に浮気に分類されるやつだからな!

 蘭真も蘭真で楽しそうに笑ってるだけだ。

「ちょっと! 蘭真もなんか言ってやってよ! まさか初詣に連れていくつもりじゃないよね!?」
「まさか~。ほらほら、バカ言ってないで福岡向かいなよ」
「いや、行かないよ。本気だから、俺」

 どが付くほど真面目に言われてしまった。

「さ! 行くぞ~!! いっつもどこの神社に行くの!? 今年は一緒にお参りだ~!」

 初詣のために車出勤していた俺のマイカーに無理やり乗り込み、後部座席を占領する。

 げ……ゲリラがいる! この男、まじ無理!

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