RUN! RUN! RUN! 番外編

2wei

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お正月の僕ら

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「バカぁ! それは蘭ちゃんに作ったんだよ!」
「だからこそ俺が食うって言ってんだろ! 俺の大福食ったくせに!」

 結局、癇癪を起こしてしまうのは……、これ絶対に俺だけのせいではないと思うんだ。

「蘭ちゃん急いで食べて! 嵐が蘭ちゃんの親子丼取っちゃうよぉ!」
「あはは。いいよ、あげる」
「蘭ちゃ~~ん……の、いけずぅぅぅっ!」

 蘭真はなんだかんだでやっぱり俺を一番愛してくれている。寺島さんもこれで一応蘭真へ向ける愛情にきちんと一線を引いてセーブしているように思う。結婚して子供もいるけど、それでもきっと寺島さんにとっての蘭真は、嫁・子供と同じ位置にいる "愛すべき大切な人" なのだろう。そして同時に、一番の親友……なんだろうな。

 その感覚はよく分かる。似たような感情を俺も持ち合わせているから。
 俺にとっての蘭真は恋人であり、兄ちゃんでもある。子供扱いはして欲しくないくせに、ずっと兄ちゃんでいて欲しいと思う。そのくせ、恋人であることを優先してほしい。蘭真に抱く感情は長らく複雑だったけど、俺は蘭真に兄ちゃんを求めるのはやめようと決めた。ただ、蘭真の中にある兄ちゃんを感じる時だけ、俺はそれを噛み締めようと思うんだ。

 きっと寺島さんもそうなんだろう。恋人であることを諦めて、親友としての蘭真を求めることで寂しさを紛らわしている。そして取引先として契約を結ぶことで、仕事仲間という付録を手に入れた。これで嫁や子供に疑われることなく蘭真と接触できるってわけだ。
 最初は虎視眈々と恋人の座を狙っているんだと思って心底毛嫌っていたけど、そうじゃないのだと少しずつ分かってきた。

 恋人としてやり直せるなんて、寺島さんはとっくの昔に諦めている。求めているのは、親友、同志、一番の理解者……と言ったところか。
 それは、恋人に匹敵……いや、それ以上に固い絆のような気がする。

 だけど、それに負けるつもりもない。確かに仕事の話になると俺には太刀打ちできないし、レシピのこととか、デザインのこととかは寺島さんには叶わない。それでも精神面でのサポートに関しては、絶対負けるつもりないんだ。それに負けてしまったら恋人失格だと思うから。

 そういうことも含めて……悔しいけど寺島さんは全部分かった上で行動してる気がする。相変わらずチャラいし、子供みたいに無邪気なふりをするくせに、腹が立つくらい大人だ。蘭真のことを、本当によく理解していると思う。どう言えばどう動くのか、どうしたらどう感じるのか、全部全部知ってるような気がするんだよ。

 あの時の「気持ち悪い」も、今なら分かるんだ。蘭真と寄りを戻すためなら平気でひどい言葉を言える無神経な人なんだと当時は思ったけど、それは裏を返せば、その言葉が蘭真に目を覚まさせるトリガーだと確信しての一言だったんだ。
 あれは決して闇雲に放った一言なんかじゃなかった。蘭真を隅から隅まで理解した上での言葉だったんだろう。

 ただ、寺島さんは高校生の俺がまさかそれを逆手に取るとは思ってもいなくて、その甘さが惨敗という結果をもたらしてしまった。
 もしもあの時、俺まであの「気持ち悪い」という言葉に負けてしまっていたら、今のこの関係性はない気がする。蘭真は寺島さんの元に戻り、俺はこの町を出ていたかもしれない。

 何年経っても……寺島さんにもう家庭があっても、蘭真と寄りを戻すつもりが無いのだとしても……永遠のライバルだと思う。ほんと、強敵すぎるライバル。
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