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第五章

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(よし、これ食べ終わったら言うぞ)


 本当は食べている最中に、さりげなく会話の中でここに来た理由を打ち明けられれば良かったのかもしれない。だがお互い言葉数も少なく、話すタイミングを見失ってしまったのだ。

 うどんの汁を飲み干し、息を吐いてからまた大きく吸う。

 大事な話があるからここに来た。謝りたいこと。ヘッドホンのこと。おととい以降、学校に来なくなってしまったこと。

 伝えたいことも聞きたいことも、たくさんあった。

 腹をくくって、全て話してしまおうと口を開く。だが、園山の方が先に言葉を発してしまった。


「井瀬塚、今日はもう遅いからうちに泊まっていかない?」

「えっ」


 時計を見ると、時刻は九時になろうとしていた。今帰ったら、家に着くのは十時を軽く回ってしまう。


「じゃあそうさせてもらうわ、ありがとう……。あの、それでさ――」

「俺これ片付けておくから、井瀬塚は風呂に行ってきなよ」

「いや、いいよ。何もかもしてもらっちゃ悪いし、片付けぐらい俺が……」

「大丈夫だから。俺がやるよ。あと、井瀬塚が寝てる間にコンビニで新しい下着買っておいたから、使っていいよ」

「あ、ありがと……」


 至れり尽くせりの対応に逆に困惑してしまう。何より、祥に話すタイミングを与えてくれない。


「タオルと着替えは後で持っていくから。――あ、悪いんだけど今は俺のパジャマしかないんだ。いいかな?」

「はい、いいです……」


 こいつ、すぐにでも嫁にいけるぞ。

 そんなことを思いながら、今日は園山の厚意に甘えさせてもらうことにした。


(よしっ、フロから上がったら言うぞ)


 今日はただ家に泊まりに来たのではない。大事な話があるから来たのだ。できるだけ早く言わなければ。

 母に今晩は園山の家に泊めてもらう事をメールで伝えた後、園山に教えられた通りに風呂場へと向かう。


(そういや、この家やけに静かだな)


 祥の家と同じ二階建てだが、上の階は真っ暗で、階段にすら電気が付いていない。

 今日はたまたま園山の親が外出中なのかと思うことで自らを誤魔化し、脱衣所のドアを開けた。

 シャワーを浴びている間に園山が脱衣所に入ってきて、着替えやタオルを置いていってくれる。

 祥が着ていたシャツを洗うと言って洗濯機を回していったのだが、園山は相当の世話好きなのかもしれない。今日はもう祥の出る幕などないだろう。
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