上 下
101 / 103
第3堡塁の側壁より

第100話 戦いの決勝点

しおりを挟む
 第3堡塁陥落。

 それは、東京第1師団の将兵、とりわけ師団司令部の主要幕僚たちを大いに困惑させた。
 特に、情報幕僚である第2部長は、師団長の正面に立ち、深々と頭を下げるや、神妙な面持ちで謝罪した。
 上条師団長は、その行為が一体何を示しているのかが一瞬解らないでいた。

 実はこの時、上条師団長は勝負には負けたが、得も言われぬ高揚感に満たされていた。

 それは、これからの陸軍を背負って立つ逸材を発見した喜びと、ここまで完全攻略されたことへの満足感であった。
 
 そんな年長者の想いとは裏腹に、未だ40台の第2部長は、その敗北の責任を感じていたのだ。
 もちろん、上条師団長もそれにすぐ気付いたが、逆にそれは、自分たちの幕僚に対して申し訳ないとの気持ちに変化していった。

「2部長、どうかそんなに落ち込まないでほしい。今回の戦いは、これからの陸軍にとって重要な試練だったんだ。統裁側の要領というやるもあったろうが、今回は本当に彼らと差しで勝負がしたかったんだ」

「いえ、良い訳はしません、我々の敗北です。そして、情報幕僚としての、自分の技量不足であります。師団長には、何と申し上げたら良いのか」

 これは予想以上に深刻な表情だと、上条師団長は冷静になった。
 しかし、この今の悔しさと喜びの複雑な感情を共有できる将校が居ないことも、少し残念に思えた。

「2部長、君はまだ若い、そして、君の先読みする能力は非常に高いものがある。相手が悪かったんだよ、三枝は少々別格なんだ、今夜は彼らの健闘を称えようじゃないか、時には、そんな敗北も必要な事だとは思わないか?、我々が置かれた状況は、彼らのような天才の存在を必要としているんじゃないかな?」

 それを聞いた2部長は、一瞬で我に帰った。
 そうだ、今の世界情勢を考えれば、三枝兄弟のような逸材は一人でも多く陸軍は必要としている。
 三枝中尉だけではない。
 まだ階級の付いていない国防大学校の学生、陸軍工科学校の生徒達、そして、横須賀学生同盟の中にも、時代を動かしそうなレベルの学生達。

 日本の国は、そんな若い彼らに依るところが、これからは大きいと感じていた。
 それは、間もなく退役するであろう、上条師団長にとって、これほど心強いと感じるものは無かった。

 そして、あまりの衝撃の強さに、自分の娘のコンクールの結果を、すっかり失念していたことに気付き、指揮所を飛び出すと、携帯端末のメールを確認する、するとそこには

「優勝しました」

 の文字だけが、何か言いたげな表情を父親に向けていた。
 そして、上条師団長は、愛娘に返信するのである。

「戦いは終わったよ、三枝君たちの勝利だ」

 とだけ。

 

 昭三は、陥落した第3堡塁の内部を、安全化していた。
 
 もはや抵抗勢力などは無いと解ってはいたが、最後まで気を抜かず、完全掌握するまでが軍人の務めだと自覚していた。
 本来であれば、勝利を祝いたいところであったが、それは完全掌握の後でもいいだろう。
 そして、兄龍二のことだから、きっと無線でまた名言を残すだろうと楽観していた。

 そんな時、オープン回線で、一人の少女が興奮気味に昭三へコールして来たのである。

「昭三さん!父から聞きました!勝利なさったのですね、私、、、、もう、、本当に嬉しくて、、、。私もね、優勝しましたよ!、これで私達、結婚することが出来るんです!」

 それは、あまりにも意外な通信と言えた。
 、、、、何故なら、そんな可愛らしい内容で、とても恥ずかしい、まるで告白のような通信は、全将兵に聞こえるオープン回線によって告げられたのだから。

 そして、第3堡塁にいた全将兵は、その敵味方関係なく、拍手と喝采を一斉に昭三に向けるのであった。
 そんな状況を、横須賀学生同盟の生徒達は、携帯端末のカメラでとらえ、同時生配信という形で、瞬時に全国へと公開されたのだ。

 歓声と祝福に包まれながら、昭三の同級生や他校の生徒、城島まで、それは祝福の意味を含めた抱擁であった。

 この時、敵側である第1師団の将兵までもが祝福をしていたことが、この生配信を見ていた全国の視聴者を感動させたのだ。
 それは、第1師団はこの若いカップルを引き裂こうとする悪役に徹していたからに他ならない。
 彼らは、この第1師団という大人と、横須賀学生同盟という子供との闘いとしてこれら配信に噛り付いて見ていた。
 それが、どうしたことだろう、その場に居合わせた誰もが、昭三を祝福しているのだ。
 
 結局、この騒動の最初から最後まで、悪役などと言う者は存在してい居なかったという事に、人々は気付くのである。
 
 歓喜の配信は、無駄に長く配信され続けたが、その視聴回数は記録的な伸びを続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

惑星保護区

ラムダムランプ
SF
この物語について 旧人類と別宇宙から来た種族との出来事にまつわる話です。 概要 かつて地球に住んでいた旧人類と別宇宙から来た種族がトラブルを引き起こし、その事が発端となり、地球が宇宙の中で【保護区】(地球で言う自然保護区)に制定され 制定後は、他の星の種族は勿論、あらゆる別宇宙の種族は地球や現人類に対し、安易に接触、交流、知能や技術供与する事を固く禁じられた。 現人類に対して、未だ地球以外の種族が接触して来ないのは、この為である。 初めて書きますので読みにくいと思いますが、何卒宜しくお願い致します。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

入れ替われるイメクラ

廣瀬純一
SF
男女の体が入れ替わるイメクラの話

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

もうダメだ。俺の人生詰んでいる。

静馬⭐︎GTR
SF
 『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。     (アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)

強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。

きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕! 突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。 そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?) 異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜

SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー 魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。 「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。 <第一章 「誘い」> 粗筋 余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。 「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。 ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー 「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ! そこで彼らを待ち受けていたものとは…… ※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。 ※SFジャンルですが殆ど空想科学です。 ※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。 ※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中 ※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。

処理中です...