決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方

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第3堡塁の側壁より

第98話 混 戦

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 上条師団長は、もはや陣前に展開している自軍の戦車部隊が限界を超えていることを理解していた。
 しかし、三枝軍の戦車も、明らかに機動力に陰りが見え始めていた。
 
「要塞内で、出られるすべての兵は、銃と対戦車擲弾を持って防御に回れ、要塞の砲兵を除く、全ての兵士だ、急げ!」

 第3堡塁の守備隊にとって、この師団長からの命令は最後通知に感じられた。
 しかし、当の師団長は、この時点ですら、未だ戦いに勝利するための「作戦」を修正しつつあったのである。
 
 要塞守備隊は、急いで個人携帯型の対戦車擲弾を抱えると、砲弾が降り注ぐ中、要塞を飛び出してゆくのであった。

 「混戦」、、そんな言葉が、頭を過る。

 それは龍二も同じであった。
 そして、その混戦のキーワードをもって、龍二は確信したのである、、「勝利」を。

「歩兵部隊、間もなく煙覆が終わり、煙が晴れる。恐らく敵の歩兵部隊が肉迫してくるはずだ、、、、これが最後の戦いになる、敵の徒歩兵は第3堡塁守備隊のほぼ全てになるだろう、この残敵を全て倒せば、俺たちの勝となる、しかし、ここで諸君らが全滅すれば、この戦いは事実上敗北となるだろう。、、、これが決勝点となる、各員は最後の戦いを、憂い残すことなく戦い抜いてほしい。以上終わり」

 全将兵のヘッドセットに、その言葉は確実に届いていた。
 
 、、、これが最後の戦いになる。

 まだ、誰も見た事のない、第3堡塁の側壁を超えて、その奥に到達できるかもしれない。
 それは、疲労する全歩兵部隊にとって、麻薬のような一言となった。

 霧のように煙に満たされた最前線では、やがてそれはゆっくりと抜けはじめ、戦場の様相が明らかになって行く。

 そして、それは両軍にとって目を疑うような光景であった。
 
 両軍の残存戦車は、その接近戦を戦い抜き、もはや双方の撃破された戦車で満たされていたのである。

「まったく、なんて光景なんだ」

 三枝昭三の小隊に、オブザーバーとして急遽参加していた城島が、ボソリと呟いた。

「昭三、お前の目標だ、最後の突撃はお前が号令すべきだろ」

 昭三も、その光景に圧倒されていたが、城島の一言で正気に戻るのである。

「城島さん、ありがとうございます、、、そうですね、ここが天王山なんですよね。小隊、着剣!、弾倉交換、突撃準備!」

 全員が、昭三の号令を聞くと、慌てて着剣し、弾倉を交換し始めたが、疲労と震えにより、それが出来ない兵士も多くいた。
 何しろ、これが初めての戦いなのだから。

「突撃に、前へ!、、突っ込め!」

 それまで伏せていた歩兵部隊は、一斉に立ち上がると、射撃を開始し、前方の兵士から次々と戦車の間を抜け、突撃を敢行していった。

 本来であれば、陣前には地雷原が展開されているはずであるが、敵味方混在による戦車戦により、それはもはや無効となり、兵士の障害となるものは一面に無い状態であった。

 昭三の小隊が突撃を成功させ、いよいよ第3堡塁に突入しようとしたその時、敵の守備隊による激しい抵抗を受けた。

「小隊、対戦車擲弾準備!」

 昭三は、この窮地を、戦車用の兵器を射撃して、一気に破壊しようとした。
 すると、逆に要塞守備隊側が対戦車擲弾をこちら目がけて連続で発射してきた。

「うわ!」

 一瞬、昭三ですら声を上げるほどの衝撃であった。
 

「三枝君、大変だ、昭三君の部隊に激しい損耗が出ている、、、、うわ、戦死者8、重傷者3、軽傷者8、これじゃあ小隊はもう、、、」

「如月、大丈夫だ、これが最後の戦いだ、あいつも覚悟をしているだろうからな」

 如月 優は、実の弟である昭三に対しても、作戦の一部として突撃させられる龍二に畏敬の念を覚えていた。
 それは、兄弟のいない優にとって、非情ともいえる行為であるとともに、今現在の自分には絶対に出来ない事でもあった。

「、、、わかったよ、三枝君、君の言う通りだ、この戦いは、昭三君の戦いなんだよね」

 龍二は返事をしなかったが、少しだけ優に笑顔を向けた。
 優には、それで十分だと思った、それは無表情な龍二が、珍しく友人に見せる笑顔であったのだから。
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