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第3堡塁の側壁より
第96話 城島なら
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「全く、あの若い指揮官は、現場の事なんて何も知っちゃいねえ、一日で二つの堡塁を陥落させるなんて、常識外れもいいところだ」
第2堡塁の前方で、腐っていたのは、54連隊の下士官たちだった。
彼らは、第3堡塁方向を警戒しつつ、次の指示を待っていた。
「本当にそうなんですかね、あなた方は、三枝の本気を見た事がありますかね?」
先ほど指揮所を飛び出した城島が、前線に到達した。
既に制圧されている経路であったため、車での移動には、それほど多くの時間はかからなかった。
その程度の距離しかない、この第2堡塁に、これまで挑んできた部隊のほとんどが到達できなかったのである、一つの部隊を除いて。
「、、、今回は、あんたたち防大参謀部が指揮しているから遠慮しているが、実戦経験もないクセに、この状況を見て、何とも思わないのか、学生同盟の疲労の顔を見て見ろ、え、どうなんだ」
半ば喧嘩腰の下士官を諭すように、城島は、らしくもなく落ち着いて回答した。
「では、この電源の喪失した真っ暗闇の第2堡塁で、あなた方は一晩警戒するつもりなんですかね?、それは勇気のあることで、、、」
「なんだ、どういうことなんだ?」
「いえね、安全化されたとはいえ、所詮要塞内部の見取り図すらない状況で、本当にこの要塞内部に敵は居ないのか、ってことですよ」
噛みついて来た下士官たちは、その一言を聞いて、ややトーンを下げ、少し冷静になった。
「、、、それは、この要塞内に敵がまだ残存していて、、、、そうか、第3堡塁側からの夜襲攻撃と連携して、残存している敵が一斉に第2堡塁を占拠したら、、、」
「そういう事!、今日中に第3堡塁に手を懸けなければ、敵はこの第2堡塁を奪還に来る、すると、俺たちの前線は再び第1堡塁まで後退する、、、、残り1日で、二つの堡塁を落とせますかね」
城島がそう言い終わると、さすがの下士官たちも納得した様子だった。
少し喧嘩腰だった下士官は表情を緩ませ、城島への無礼を詫びたのだった。
「そういうことで、少しお願いがあります、通信を使って、皆さんから54連隊全員に、本日午後の第3堡塁攻略の話を説得してもらいたいんです、多分このままじゃ、部隊の士気が下がって、存分に戦えないでしょ。、、、それと、三枝の兄は、第2堡塁陥落後、第3堡塁へ着手したのは一日後だったんですか?」
城島のその言葉に、一同はハッと気づいたようだった。
そうなのだ、兄の三枝啓一1等陸尉は、当時まだ3等陸尉時代、第3堡塁を攻撃した時、やはり同じように第2堡塁攻略後すぐに着手していた。
あの時を思い出した彼らは、少し笑いながら当時を懐かしんだ。
「そう言えば、三枝小隊長は、全力で走らせて第2堡塁を落とした後、直ぐにまた走らせて第3堡塁に向かって行ったんだったな、あの時は死ぬほどキツかったっけな」
そう言うと、第6中隊の古参達は、みんな一斉に笑い出した。
、、、兄の方が、よほど人使いが荒く、当時はよく反発したものだった。
「まあ、奇跡を起こす瞬間ってえのは、大体こんなもんって事なんだろうな。なんだか今回は、落とせそうな気がして来たぜ」
先ほどまで、すっかり意気消沈していた現場に、再び火が付いたことは明白であった。
城島も、自身の役目を果たしたように思えて、少し誇らしかった。
しかし、時間を考えると、自分はもはや指揮所に帰ることは困難だと思われた、なぜなら、城島の計算では、本日の日没までに第3堡塁を陥落させるには、もう攻撃開始時刻と言える時間になっていたためだった。
そして、突然の無線連絡だった。
「戦闘指導も出来ていないこの状況において、たった一枚の作戦図だけを送る、この作戦図を見て、各員は自己の職責を理解されたい。諸君らならば問題はないだろう、一度行った道だ、兄の残した第3堡塁の側壁に、これより前進を開始する」
龍二は、城島なら現場を良い方向へと導いてくれると信じていた。
奇しくもそれは、まったくその通りとなっていたのだが、そのような動きすら、計算に入れての発言は、やはりさすがだと城島は感じていた。
そして、城島は、この戦いに兵士として参加しようと決めていた。
あとは最後の突撃を敢行するだけ。
指揮所で分析をする人間なんて、もはや龍二には必要ないだろう、と、そう考えていた。
第2堡塁の前方で、腐っていたのは、54連隊の下士官たちだった。
彼らは、第3堡塁方向を警戒しつつ、次の指示を待っていた。
「本当にそうなんですかね、あなた方は、三枝の本気を見た事がありますかね?」
先ほど指揮所を飛び出した城島が、前線に到達した。
既に制圧されている経路であったため、車での移動には、それほど多くの時間はかからなかった。
その程度の距離しかない、この第2堡塁に、これまで挑んできた部隊のほとんどが到達できなかったのである、一つの部隊を除いて。
「、、、今回は、あんたたち防大参謀部が指揮しているから遠慮しているが、実戦経験もないクセに、この状況を見て、何とも思わないのか、学生同盟の疲労の顔を見て見ろ、え、どうなんだ」
半ば喧嘩腰の下士官を諭すように、城島は、らしくもなく落ち着いて回答した。
「では、この電源の喪失した真っ暗闇の第2堡塁で、あなた方は一晩警戒するつもりなんですかね?、それは勇気のあることで、、、」
「なんだ、どういうことなんだ?」
「いえね、安全化されたとはいえ、所詮要塞内部の見取り図すらない状況で、本当にこの要塞内部に敵は居ないのか、ってことですよ」
噛みついて来た下士官たちは、その一言を聞いて、ややトーンを下げ、少し冷静になった。
「、、、それは、この要塞内に敵がまだ残存していて、、、、そうか、第3堡塁側からの夜襲攻撃と連携して、残存している敵が一斉に第2堡塁を占拠したら、、、」
「そういう事!、今日中に第3堡塁に手を懸けなければ、敵はこの第2堡塁を奪還に来る、すると、俺たちの前線は再び第1堡塁まで後退する、、、、残り1日で、二つの堡塁を落とせますかね」
城島がそう言い終わると、さすがの下士官たちも納得した様子だった。
少し喧嘩腰だった下士官は表情を緩ませ、城島への無礼を詫びたのだった。
「そういうことで、少しお願いがあります、通信を使って、皆さんから54連隊全員に、本日午後の第3堡塁攻略の話を説得してもらいたいんです、多分このままじゃ、部隊の士気が下がって、存分に戦えないでしょ。、、、それと、三枝の兄は、第2堡塁陥落後、第3堡塁へ着手したのは一日後だったんですか?」
城島のその言葉に、一同はハッと気づいたようだった。
そうなのだ、兄の三枝啓一1等陸尉は、当時まだ3等陸尉時代、第3堡塁を攻撃した時、やはり同じように第2堡塁攻略後すぐに着手していた。
あの時を思い出した彼らは、少し笑いながら当時を懐かしんだ。
「そう言えば、三枝小隊長は、全力で走らせて第2堡塁を落とした後、直ぐにまた走らせて第3堡塁に向かって行ったんだったな、あの時は死ぬほどキツかったっけな」
そう言うと、第6中隊の古参達は、みんな一斉に笑い出した。
、、、兄の方が、よほど人使いが荒く、当時はよく反発したものだった。
「まあ、奇跡を起こす瞬間ってえのは、大体こんなもんって事なんだろうな。なんだか今回は、落とせそうな気がして来たぜ」
先ほどまで、すっかり意気消沈していた現場に、再び火が付いたことは明白であった。
城島も、自身の役目を果たしたように思えて、少し誇らしかった。
しかし、時間を考えると、自分はもはや指揮所に帰ることは困難だと思われた、なぜなら、城島の計算では、本日の日没までに第3堡塁を陥落させるには、もう攻撃開始時刻と言える時間になっていたためだった。
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そして、城島は、この戦いに兵士として参加しようと決めていた。
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