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第2堡塁の衝撃
第89話 イヤだよ、もう、怖いよ
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花岡静香と橋立真理の小隊が、龍二の命令に従って第1堡塁を飛び出した時だった。
「砲弾落下!、全員伏せろ!」
分隊長叫び声が聞こえた。
もちろん交戦装置による砲撃であるため、実際に着弾はしないものの、各人のセンサーには、砲撃の損耗が次々と表示される。
それは指揮所にいた生徒会参謀部もモニター上で確認することが出来ていた。
「あ、今3人重傷判定、あ、また一人やられた、このタイミングを狙って来るなんて、敵もすごいね」
「おい優、そんな呑気な事を言っている場合じゃないぞ、これじゃあ全滅だ、せっかく装甲車を囮に使って徒歩兵を保護出来たと思ったのに。どうするの三枝司令!」
幸がそう言うのも無理はない。
龍二は、この時も少し笑っているように見えた。
それは、やはり上条師団長が、龍二にとって好敵手であることを示していた。
「このタイミングを狙うとは、さすが上条師団長だな」
龍二は、この戦いで、初めて自分の想定を超えた損耗を受けていた。
今回の近接航空支援ですら読んでいた龍二にとって、この砲撃はかなり意外なものであった。
それは、敵の航空攻撃は、第1派終了後に、旋回して第2派攻撃があると考えていたため、空域の統制により、第1師団はその砲兵火力をこちらに指向出来ないと判断したためであった。
そんな最低限のルールを犯してでも、砲撃を展開してくる上条師団長を、龍二は少し嬉しいとすら感じていた。
それは、教範や教育の中には存在しない、本物の戦場の匂いを感じ取ったからに他ならない。
この上条師団長の行動には、戦いを感じる事が出来る、そう思えたのである。
しかし、このままでは、砲撃による徒歩兵の損害は相当数に上ってしまう。
「全徒歩兵部隊に告ぐ、あと五分程度で砲撃が止む、それまで各個に築城し、何とか持ちこたえてくれ!」
それはギリギリの攻防であった。
砲撃の最中、手持ちのシャベルで穴を掘って、砲撃を回避せよ、という、かなり無茶な指示であった。
しかし、実際の戦場であれば、恐怖に駆られ、徒歩兵は必死で穴を求める事だろう。
むしろ、素人集団の学生同盟では、それに気付かない可能性すらある。
そのため、無茶は承知で、「穴を掘れ」と龍二は命じたのである。
この砲撃の後に、何名が生存しているか、それこそがこの勝負のカギとなるのは明白であった。
「嫌、怖いよ静香ちゃん、何?、穴って、何で穴掘るの?」
「私だって、解らないよ、でも、三枝司令が掘れって言うんだから、なにかあるんだよ、きっと」
橋立真理は、訳も解らず、周囲の兵士が次々と重傷や戦死判定を受ける中で、ただただ恐怖に震えた。
大質量の爆撃や砲撃に、今自分たちは生身を晒している、それは雪山に裸で放り出されたような気分で、とても不快なものであった。
そんな最中、身体に付けたセンサーが、受傷を知らせる警報が停止し始めた。
それは、敵の砲撃が終わった事を意味する。
「、、、、終わったの?、静香ちゃん」
「うん、、、、私達、また生き延びたんだね、、」
橋立真理も、もはや、何も答えなかった。
ただ、静香に抱き着き、未だ震えが止まらないでいた。
そんな時だった。
聞き覚えのある轟音と共に、無線から再び対空警報が響き渡った。
「イヤだよ、もう、怖いよ、静香ちゃん、私、もう耐えられない!」
二人は抱き合って、その音のする方向を凝視するしかないのであった。
「砲弾落下!、全員伏せろ!」
分隊長叫び声が聞こえた。
もちろん交戦装置による砲撃であるため、実際に着弾はしないものの、各人のセンサーには、砲撃の損耗が次々と表示される。
それは指揮所にいた生徒会参謀部もモニター上で確認することが出来ていた。
「あ、今3人重傷判定、あ、また一人やられた、このタイミングを狙って来るなんて、敵もすごいね」
「おい優、そんな呑気な事を言っている場合じゃないぞ、これじゃあ全滅だ、せっかく装甲車を囮に使って徒歩兵を保護出来たと思ったのに。どうするの三枝司令!」
幸がそう言うのも無理はない。
龍二は、この時も少し笑っているように見えた。
それは、やはり上条師団長が、龍二にとって好敵手であることを示していた。
「このタイミングを狙うとは、さすが上条師団長だな」
龍二は、この戦いで、初めて自分の想定を超えた損耗を受けていた。
今回の近接航空支援ですら読んでいた龍二にとって、この砲撃はかなり意外なものであった。
それは、敵の航空攻撃は、第1派終了後に、旋回して第2派攻撃があると考えていたため、空域の統制により、第1師団はその砲兵火力をこちらに指向出来ないと判断したためであった。
そんな最低限のルールを犯してでも、砲撃を展開してくる上条師団長を、龍二は少し嬉しいとすら感じていた。
それは、教範や教育の中には存在しない、本物の戦場の匂いを感じ取ったからに他ならない。
この上条師団長の行動には、戦いを感じる事が出来る、そう思えたのである。
しかし、このままでは、砲撃による徒歩兵の損害は相当数に上ってしまう。
「全徒歩兵部隊に告ぐ、あと五分程度で砲撃が止む、それまで各個に築城し、何とか持ちこたえてくれ!」
それはギリギリの攻防であった。
砲撃の最中、手持ちのシャベルで穴を掘って、砲撃を回避せよ、という、かなり無茶な指示であった。
しかし、実際の戦場であれば、恐怖に駆られ、徒歩兵は必死で穴を求める事だろう。
むしろ、素人集団の学生同盟では、それに気付かない可能性すらある。
そのため、無茶は承知で、「穴を掘れ」と龍二は命じたのである。
この砲撃の後に、何名が生存しているか、それこそがこの勝負のカギとなるのは明白であった。
「嫌、怖いよ静香ちゃん、何?、穴って、何で穴掘るの?」
「私だって、解らないよ、でも、三枝司令が掘れって言うんだから、なにかあるんだよ、きっと」
橋立真理は、訳も解らず、周囲の兵士が次々と重傷や戦死判定を受ける中で、ただただ恐怖に震えた。
大質量の爆撃や砲撃に、今自分たちは生身を晒している、それは雪山に裸で放り出されたような気分で、とても不快なものであった。
そんな最中、身体に付けたセンサーが、受傷を知らせる警報が停止し始めた。
それは、敵の砲撃が終わった事を意味する。
「、、、、終わったの?、静香ちゃん」
「うん、、、、私達、また生き延びたんだね、、」
橋立真理も、もはや、何も答えなかった。
ただ、静香に抱き着き、未だ震えが止まらないでいた。
そんな時だった。
聞き覚えのある轟音と共に、無線から再び対空警報が響き渡った。
「イヤだよ、もう、怖いよ、静香ちゃん、私、もう耐えられない!」
二人は抱き合って、その音のする方向を凝視するしかないのであった。
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