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第2堡塁の衝撃
第88話 まったく、なんて奴だ!
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「敵攻撃機、我が軍の上空に来ます!」
攻撃機による、猛烈な近接航空支援が始まった。
砲兵の弾丸威力に比べ、空軍が実施する爆撃の威力は凄まじく、実弾であればクレータが出来るほどのレベルだ。
通常の砲弾が30キロだとしたら、空軍の爆弾は500キロや800キロなんてレベルだ。
戦車部隊も、装甲を貫通するなどというレベルではなく、車体ごとひっくり返されるような衝撃となる。
「機甲部隊の中腹に投爆、装甲車の一部が損害を受けました」
「後方の装甲車部隊にも投爆、撃破判定を受けました」
指揮所は騒然となった。
予想を遥かに上回る衝撃力だ。
第1派攻撃は、車列の中腹から後方を狙ったものになった。
「師団長、三枝軍の進撃中の装甲車6両を撃破、恐らく、もう4両程度を中破以上に仕留められたと思います」
師団指揮所は、一斉に沸き立った。
兵士が疲弊していても、近接航空支援であれば、この調子で勝つことが出来る、そう感じられた。
しかし、上条師団長の表情は、依然硬いままであった。
「浮かれるな!、近接航空支援まで繰り出して、敵の装甲車10両程度の損耗では計算が合わない、どうして被害がその程度なのかを分析せよ」
上条師団長としては、この近接航空支援自体が、大人げない作戦であることは良く解っていた。
しかし、闘将としての闘志が、大人と子供の枠を超えて、やってみたい、という衝動に勝てなかったのだ。
この近接航空支援に対して、龍二ならどう対処してくるのか、この危機的状況を、どんな風に打開するのか、軍人の興味としても、それは見て見たかったのである。
そこへ来ての、この撃破数である。
再び上条師団長は、不可解な違和感に襲われるのである。
この作戦結果には、何か違和感がある、と。
上条師団長は、状況図を見ながら、考えていた。
自身が感じるこの「違和感」について。
それは戦場で感じた、優れた敵軍将校との駆け引きの場面に感じたものと、それは良く似ていた。
他ならぬ上条師団長自身、そのような違和感を感じつつ、その戦場の駆け引きに勝利したからこそ、現在の師団長という地位を得ているのである。
それは激烈を極めた、第3次世界大戦の戦勲に他ならないのである。
その、激戦と同じか、それ以上の違和感を感じる、それはまだ防大1学年の若き指揮官、三枝龍二の異常性を示すものであった。
そして、考えて、考えた挙句、上条師団長は、気付くのである、その状況図の中にこそ、答えはあった。
「、、、、ハハハ、ハハハハハ!、まったく、なんて奴だ!」
師団指揮所の中は、上条師団長の笑い声だけが不気味に響き渡っていた。
だが、師団長は怒っているのでも、呆れているのでもない、感動しているのである。
それは、自分が満を持して充てた作戦を、見事に逆手に取られている事実に気付いたからであった。
龍二は、上条師団長が航空攻撃をすると予想した上で、前進中の車間を通常の倍も取っていたのだ。
これにより、一度の爆撃で損害を受ける車両数は、単純計算で半分になる。
単純な話ではあるが、この方法は、師団側の攻撃を予想していなければ出来ない方法である。
「おい3部長、三枝軍が来るぞ、攻撃機の編隊を旋回させ、15分後に空域に入らせろ、その間に、第3堡塁から、第1堡塁後方目がけて砲撃を開始せよ、10分しかないぞ」
一瞬、師団司令部は、何を指示されたか理解出来ないでいた。
一般的に、航空機が地上を支援する場合、その間、砲撃は出来ない決まりになっている。
それは砲撃によって自軍の航空機を撃墜してしまう恐れがあるため、空域を統制する国際ルールである。
しかし、攻撃機が旋回して、再び空域に入る僅か15分の間に、第3堡塁から砲撃をする、と言う事は、そのルールを犯すことになるのだ。
しかし上条師団長は、このルールを逆手に取って、強引な砲撃と爆撃によって、戦勲を挙げてきた人物なのである。
「よし、徒歩兵部隊、速足にて前進開始」
龍二は、不思議な事を命じた。
指揮所は一瞬、何を言っているのか、解らないでいた。
なぜなら、徒歩兵は、今まさに装甲人員輸送車の中にいるのだから。
「おい、動ける徒歩兵は、全員装甲車の中にいるだろ」
城島が、依然怒った口調で龍二に突っかかってくる。
しかし、龍二は冷静に返すのだ。
「ああ、すまんな、徒歩兵は、、、第1堡塁内で、待機させている」
「はあ?、、、え、?、はあ?」
城島が、何回か聞き直す。
装甲車で行かなければ、敵の砲撃の中を第2堡塁に到達することが出来なくなる、どうしてそれを冒してまで、龍二は徒歩兵を第1堡塁内に拘置したのか。
「お前、、、、まさか、こうなる事を予想していたってのか?」
「あ、、、え、、えええ?」
城島と優が、思わず絶句した。
それは、もはや呆れ顔と言えた。
ほとんどルールブックにも乗っていない、近接航空支援。
これはほとんど禁じ手を言える、ルールのギリギリを攻めた行為だ。
もし、それが行われなかった場合、堡塁内に居る徒歩兵は、装甲車の援護がない状態で突撃しなければならない。
まさか、そこまで読んでの行動とは。
「しかし、敵の空軍が戻ってきたら、徒歩兵はただでは済まないぞ、投爆完了したって、敵の航空機は30機近い大編隊だし、機銃掃射だって出来る、どうするんだ」
「ああ、だから、こちらも禁じ手を使うのさ」
再び一同の顔は、理解が出来ていない表情に陥ってしまうのである。
攻撃機による、猛烈な近接航空支援が始まった。
砲兵の弾丸威力に比べ、空軍が実施する爆撃の威力は凄まじく、実弾であればクレータが出来るほどのレベルだ。
通常の砲弾が30キロだとしたら、空軍の爆弾は500キロや800キロなんてレベルだ。
戦車部隊も、装甲を貫通するなどというレベルではなく、車体ごとひっくり返されるような衝撃となる。
「機甲部隊の中腹に投爆、装甲車の一部が損害を受けました」
「後方の装甲車部隊にも投爆、撃破判定を受けました」
指揮所は騒然となった。
予想を遥かに上回る衝撃力だ。
第1派攻撃は、車列の中腹から後方を狙ったものになった。
「師団長、三枝軍の進撃中の装甲車6両を撃破、恐らく、もう4両程度を中破以上に仕留められたと思います」
師団指揮所は、一斉に沸き立った。
兵士が疲弊していても、近接航空支援であれば、この調子で勝つことが出来る、そう感じられた。
しかし、上条師団長の表情は、依然硬いままであった。
「浮かれるな!、近接航空支援まで繰り出して、敵の装甲車10両程度の損耗では計算が合わない、どうして被害がその程度なのかを分析せよ」
上条師団長としては、この近接航空支援自体が、大人げない作戦であることは良く解っていた。
しかし、闘将としての闘志が、大人と子供の枠を超えて、やってみたい、という衝動に勝てなかったのだ。
この近接航空支援に対して、龍二ならどう対処してくるのか、この危機的状況を、どんな風に打開するのか、軍人の興味としても、それは見て見たかったのである。
そこへ来ての、この撃破数である。
再び上条師団長は、不可解な違和感に襲われるのである。
この作戦結果には、何か違和感がある、と。
上条師団長は、状況図を見ながら、考えていた。
自身が感じるこの「違和感」について。
それは戦場で感じた、優れた敵軍将校との駆け引きの場面に感じたものと、それは良く似ていた。
他ならぬ上条師団長自身、そのような違和感を感じつつ、その戦場の駆け引きに勝利したからこそ、現在の師団長という地位を得ているのである。
それは激烈を極めた、第3次世界大戦の戦勲に他ならないのである。
その、激戦と同じか、それ以上の違和感を感じる、それはまだ防大1学年の若き指揮官、三枝龍二の異常性を示すものであった。
そして、考えて、考えた挙句、上条師団長は、気付くのである、その状況図の中にこそ、答えはあった。
「、、、、ハハハ、ハハハハハ!、まったく、なんて奴だ!」
師団指揮所の中は、上条師団長の笑い声だけが不気味に響き渡っていた。
だが、師団長は怒っているのでも、呆れているのでもない、感動しているのである。
それは、自分が満を持して充てた作戦を、見事に逆手に取られている事実に気付いたからであった。
龍二は、上条師団長が航空攻撃をすると予想した上で、前進中の車間を通常の倍も取っていたのだ。
これにより、一度の爆撃で損害を受ける車両数は、単純計算で半分になる。
単純な話ではあるが、この方法は、師団側の攻撃を予想していなければ出来ない方法である。
「おい3部長、三枝軍が来るぞ、攻撃機の編隊を旋回させ、15分後に空域に入らせろ、その間に、第3堡塁から、第1堡塁後方目がけて砲撃を開始せよ、10分しかないぞ」
一瞬、師団司令部は、何を指示されたか理解出来ないでいた。
一般的に、航空機が地上を支援する場合、その間、砲撃は出来ない決まりになっている。
それは砲撃によって自軍の航空機を撃墜してしまう恐れがあるため、空域を統制する国際ルールである。
しかし、攻撃機が旋回して、再び空域に入る僅か15分の間に、第3堡塁から砲撃をする、と言う事は、そのルールを犯すことになるのだ。
しかし上条師団長は、このルールを逆手に取って、強引な砲撃と爆撃によって、戦勲を挙げてきた人物なのである。
「よし、徒歩兵部隊、速足にて前進開始」
龍二は、不思議な事を命じた。
指揮所は一瞬、何を言っているのか、解らないでいた。
なぜなら、徒歩兵は、今まさに装甲人員輸送車の中にいるのだから。
「おい、動ける徒歩兵は、全員装甲車の中にいるだろ」
城島が、依然怒った口調で龍二に突っかかってくる。
しかし、龍二は冷静に返すのだ。
「ああ、すまんな、徒歩兵は、、、第1堡塁内で、待機させている」
「はあ?、、、え、?、はあ?」
城島が、何回か聞き直す。
装甲車で行かなければ、敵の砲撃の中を第2堡塁に到達することが出来なくなる、どうしてそれを冒してまで、龍二は徒歩兵を第1堡塁内に拘置したのか。
「お前、、、、まさか、こうなる事を予想していたってのか?」
「あ、、、え、、えええ?」
城島と優が、思わず絶句した。
それは、もはや呆れ顔と言えた。
ほとんどルールブックにも乗っていない、近接航空支援。
これはほとんど禁じ手を言える、ルールのギリギリを攻めた行為だ。
もし、それが行われなかった場合、堡塁内に居る徒歩兵は、装甲車の援護がない状態で突撃しなければならない。
まさか、そこまで読んでの行動とは。
「しかし、敵の空軍が戻ってきたら、徒歩兵はただでは済まないぞ、投爆完了したって、敵の航空機は30機近い大編隊だし、機銃掃射だって出来る、どうするんだ」
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