上 下
87 / 103
第2堡塁の衝撃

第86話 空軍の通信だな

しおりを挟む
 上条師団長の目の前に、美味しそうな子羊の群れが自ら進んで来たように感じられた。
 それは、決定的な将棋の一手に近い感触だった。

 上条師団長は確信した、、、、龍二は誤った一手を撃って来た。


 それが、一般的な部隊による機甲戦力の推進であれば、むしろ褒められたものだっただろう。
 しかし、この異色な戦いにあって、三枝龍二の取った行動は、師団が準備した最強の一手によって全滅の憂いに置かれたのである。


「三枝司令、少しおかしな通信を傍受しました、、、、どうしますか?」

「どうしたの経塚君、何か変な事でもあった?」

 優が、経塚が傍受した通信に興味を示した。
 これまでの戦いに圧倒され、発言の機会を失って来た経塚だったが、それは聞きなれない通信であった。

「経塚生徒、構わないから音声をスピーカーに回してくれ」

 龍二がそう言うと、指揮所内に、英語の音声が流れ始めた。

「、、、、あれ、これは空軍の通信だな、一般回線だ、よく傍受出来たな」

 英語が得意な城島が、その音声を聞いてすぐに空軍の無線であることを察した。
 その内容には、投爆地点の座標や、空域統制に関する情報が含まれていたからである。

 龍二はその時、すぐさま敵第2堡塁からの砲撃情報を優に当たらせた。
 そして、龍二は少し笑ったのである。

「さすが、上条師団長だな、もう見破られたか」

 指揮所にいた、生徒会参謀部一同は、少し不思議そうな顔をした。
 なぜなら、解らないからだ。
 ようやく自分たちにも理解可能な範囲で作戦が動き出したと喜んでいた矢先、再び混沌とした思考の駆け引きが開始されたのである。

「え、なに、どうゆうことなの?」

 とうとう幸が痺れを切らして聞いてきた。

「上条師団長は、ただ者ではない、ということだよ」

 いやいや、龍二も十分にただ者ではない、とツッコミを入れたくなる一同であったが、益々よく解らない。

「おい、もう少し解るように説明してくれ、なんだか三枝と上条師団長の間で、テレパシーで通じているみたいで気持ちが悪いぞ」

 城島がそう言うのも無理はない、、、、あの龍二が、作戦指揮中に、笑ったのである。 


「、、、、そうだな、すまない、だが、もう来るぞ、上条師団長の一手が、、、。優、レーダーに、敵攻撃機の機影が、そろそろ現れるはずだ、見ててくれ」

 優は、まさか、と感じていた、先ほどの空軍の無線が入ったとはいえ、それは同盟国軍のものと感じていたからに他ならない。
 しかし、それが米軍などの同盟国軍のものの発したものではない事を、この指揮所で気付いていた者が他にもいた。


 城島である。


「おいおい、それマジか?、だとしたら、かなりの勢力でくるぞ!」

 城島は、本場の英語を幼少期から聞いていたため、ネイティブの英語と日本人の英語は、雑音の多い無線を介してであっても、それは見破る事が出来た。
 それ故に、一番最初に龍二の発言を、理解出来たのである。

「おい、それが本当なら、ルール違反じゃないのか?、いずれにせよ、味方部隊は第1堡塁と第2堡塁の中間地点まで進んでいるぞ、それも一本道を、長い隊列を組んでな!、おい、戦車部隊に連絡、速やかに第1堡塁に戻れと!」

 城島の言う事は最もである。

 しかし、その行動を、またもや龍二は制止するのである。

 憤慨する城島と、龍二の間に、不穏な空気が流れる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

性転換タイムマシーン

廣瀬純一
SF
バグで性転換してしまうタイムマシーンの話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

ずっと女の子になりたかった 男の娘の私

ムーワ
BL
幼少期からどことなく男の服装をして学校に通っているのに違和感を感じていた主人公のヒデキ。 ヒデキは同級生の女の子が履いているスカートが自分でも履きたくて仕方がなかったが、母親はいつもズボンばかりでスカートは買ってくれなかった。 そんなヒデキの幼少期から大人になるまでの成長を描いたLGBT(ジェンダーレス作品)です。

処理中です...