84 / 103
第1堡塁の戦い
第83話 危険な香り
しおりを挟む
「わたくし、国防大学校を受験しますわ」
座り込んでいた静香と麻里の前で、何故か決意表明をしたのは、生徒会長の東海林 涼子であった。
誰でも良かったのかもしれない、彼女は今回、人生で初めて戦闘員を経験し、戦場を知ったのだ。
そして、甘美な勝利を味わってしまった。
しかし、彼女の心理はそれほど単純なものではなかった、初めて防大生の三枝龍二たちと出会った時の、龍二に対する言いしれぬ迫力、まるで内側に虎が潜んでいるような危険な香り、そして強さの正体が、ようやく理解しかけたように感じられたのだ。
もちろん完全解明などほど遠いものがあったが、彼女は知りたくなったのだ、その先にあるものを、龍二が持つ、軍人特有の覚悟のようなものの正体を。
東海林もまた、頭脳明晰であるが戦術に適正のある「戦術脳」の人物であった。
もちろんこの時点で彼女はそれに気付いていない。
そして、三枝龍二の戦い方を、本当の意味で評価出来る人間は、かなりの「戦術脳」の持ち主であるといえる。
東海林の一生を決定付けたこの日の戦いは、実は東海林だけではなく、学生同盟軍の多くに共通することでもあった。
東海林は、この日の衝動を、誰かに見届けてほしかったのだ、決意表明という形式をもって。
そして、東海林は真っ先に、自分と同じ匂いを花岡静香に感じ取っていた。
彼女は恐らく、自分と同じものを感じている、それは彼女を見ていて直ぐに理解出来た。
昼間の突撃場面でも、最も果敢に前進していた女性兵士は東海林と花岡静香である。
東海林はこの時、少し期待していたのかもしれない。
お嬢様学校にあって、自身と同じ考え、行動原理をもって、静香も国防大学校を志すのではないかと。
しかし、花岡静香はまだ、この日起こったことを、自分の中で処理しきれていないのであった。
そのため、東海林の決意とまだ噛み合わないのであった。
22時を回った頃、彼ら彼女らの長い一日は終わろうとしていた。
しかし、作戦軸で考えれば、夜は結節ではない。
とんでもなく深夜に感じられたが、疲労のため、座ったまま眠りこんでしまう学生が続出した。
その中で、工科学校の生徒は、交代で外周警戒につき、師団の襲撃に備える準備を自発的に行っていた。
本来であれば、他の一般学生も警戒に参加しなければ、工科学校の生徒に負担がかかるところであるが、工科学校の生徒たちは、苦もなく自らそれを引き受けて、同士たる他校の学生を就寝させていた。
それは鎌倉聖花の女学生の一部も、朦朧とした中で、実は理解していたのである。
特に、賛同した運動部の部長クラスの女学生は、そのストイックな姿に心を打たれ、密かな涙を流す者さえいた。
辛い時にこそ、人間の真の姿が見える、それは運動部に所属しているものの共通認識なのだろう、それ故に、今夜は彼らの厚意に甘んじようと考え、疲れた体を要塞の片隅に埋めるのであった。
座り込んでいた静香と麻里の前で、何故か決意表明をしたのは、生徒会長の東海林 涼子であった。
誰でも良かったのかもしれない、彼女は今回、人生で初めて戦闘員を経験し、戦場を知ったのだ。
そして、甘美な勝利を味わってしまった。
しかし、彼女の心理はそれほど単純なものではなかった、初めて防大生の三枝龍二たちと出会った時の、龍二に対する言いしれぬ迫力、まるで内側に虎が潜んでいるような危険な香り、そして強さの正体が、ようやく理解しかけたように感じられたのだ。
もちろん完全解明などほど遠いものがあったが、彼女は知りたくなったのだ、その先にあるものを、龍二が持つ、軍人特有の覚悟のようなものの正体を。
東海林もまた、頭脳明晰であるが戦術に適正のある「戦術脳」の人物であった。
もちろんこの時点で彼女はそれに気付いていない。
そして、三枝龍二の戦い方を、本当の意味で評価出来る人間は、かなりの「戦術脳」の持ち主であるといえる。
東海林の一生を決定付けたこの日の戦いは、実は東海林だけではなく、学生同盟軍の多くに共通することでもあった。
東海林は、この日の衝動を、誰かに見届けてほしかったのだ、決意表明という形式をもって。
そして、東海林は真っ先に、自分と同じ匂いを花岡静香に感じ取っていた。
彼女は恐らく、自分と同じものを感じている、それは彼女を見ていて直ぐに理解出来た。
昼間の突撃場面でも、最も果敢に前進していた女性兵士は東海林と花岡静香である。
東海林はこの時、少し期待していたのかもしれない。
お嬢様学校にあって、自身と同じ考え、行動原理をもって、静香も国防大学校を志すのではないかと。
しかし、花岡静香はまだ、この日起こったことを、自分の中で処理しきれていないのであった。
そのため、東海林の決意とまだ噛み合わないのであった。
22時を回った頃、彼ら彼女らの長い一日は終わろうとしていた。
しかし、作戦軸で考えれば、夜は結節ではない。
とんでもなく深夜に感じられたが、疲労のため、座ったまま眠りこんでしまう学生が続出した。
その中で、工科学校の生徒は、交代で外周警戒につき、師団の襲撃に備える準備を自発的に行っていた。
本来であれば、他の一般学生も警戒に参加しなければ、工科学校の生徒に負担がかかるところであるが、工科学校の生徒たちは、苦もなく自らそれを引き受けて、同士たる他校の学生を就寝させていた。
それは鎌倉聖花の女学生の一部も、朦朧とした中で、実は理解していたのである。
特に、賛同した運動部の部長クラスの女学生は、そのストイックな姿に心を打たれ、密かな涙を流す者さえいた。
辛い時にこそ、人間の真の姿が見える、それは運動部に所属しているものの共通認識なのだろう、それ故に、今夜は彼らの厚意に甘んじようと考え、疲れた体を要塞の片隅に埋めるのであった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
惑星保護区
ラムダムランプ
SF
この物語について
旧人類と別宇宙から来た種族との出来事にまつわる話です。
概要
かつて地球に住んでいた旧人類と別宇宙から来た種族がトラブルを引き起こし、その事が発端となり、地球が宇宙の中で【保護区】(地球で言う自然保護区)に制定され
制定後は、他の星の種族は勿論、あらゆる別宇宙の種族は地球や現人類に対し、安易に接触、交流、知能や技術供与する事を固く禁じられた。
現人類に対して、未だ地球以外の種族が接触して来ないのは、この為である。
初めて書きますので読みにくいと思いますが、何卒宜しくお願い致します。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
強制ハーレムな世界で元囚人の彼は今日もマイペースです。
きゅりおす
SF
ハーレム主人公は元囚人?!ハーレム風SFアクション開幕!
突如として男性の殆どが消滅する事件が発生。
そんな人口ピラミッド崩壊な世界で女子生徒が待ち望んでいる中、現れる男子生徒、ハーレムの予感(?)
異色すぎる主人公が周りを巻き込みこの世界を駆ける!
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
INNER NAUTS(インナーノーツ) 〜精神と異界の航海者〜
SunYoh
SF
ーー22世紀半ばーー
魂の源とされる精神世界「インナースペース」……その次元から無尽蔵のエネルギーを得ることを可能にした代償に、さまざまな災害や心身への未知の脅威が発生していた。
「インナーノーツ」は、時空を超越する船<アマテラス>を駆り、脅威の解消に「インナースペース」へ挑む。
<第一章 「誘い」>
粗筋
余剰次元活動艇<アマテラス>の最終試験となった有人起動試験は、原因不明のトラブルに見舞われ、中断を余儀なくされたが、同じ頃、「インナーノーツ」が所属する研究機関で保護していた少女「亜夢」にもまた異変が起こっていた……5年もの間、眠り続けていた彼女の深層無意識の中で何かが目覚めようとしている。
「インナースペース」のエネルギーを解放する特異な能力を秘めた亜夢の目覚めは、即ち、「インナースペース」のみならず、物質世界である「現象界(この世)」にも甚大な被害をもたらす可能性がある。
ーー亜夢が目覚める前に、この脅威を解消するーー
「インナーノーツ」は、この使命を胸に<アマテラス>を駆り、未知なる世界「インナースペース」へと旅立つ!
そこで彼らを待ち受けていたものとは……
※この物語はフィクションです。実際の国や団体などとは関係ありません。
※SFジャンルですが殆ど空想科学です。
※セルフレイティングに関して、若干抵触する可能性がある表現が含まれます。
※「小説家になろう」、「ノベルアップ+」でも連載中
※スピリチュアル系の内容を含みますが、特定の宗教団体等とは一切関係無く、布教、勧誘等を目的とした作品ではありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる