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「雁の穴」降下作戦

第66話 3小隊、その降下は目視か?

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 レーダーに映し出された機影は6機編隊であった。
 速度から見て戦闘機ではない、恐らく輸送機と護衛機の編隊と考えられた。

「まもなく肉眼で確認出来るエリアに侵入します。」

 指揮所に緊張が走る、それは、レーダーに映された時点で、何らかの敵情報であるからである。

「でも、何で航空機なんてレーダーに映るんだろう」

 優が疑問を投げかけると、龍二は静かに答えた。

「実施規定の別紙第3のページを読めば解るよ」

 優と周囲の参謀達は、言われた通りそのページを開けてみた、するとそこには

「、、、あ、確かにそれっぽい事が書いてはあるような、、、」

 優が見つけたその文字は、ただ作戦支援は陸海空の別を問わない、とだけ書かれていた。
 しかし、同時にこれは、この時代の戦術想定には必ず書かれている定型文と言えた。
 この時代の戦術は、軍種を越えた作戦を前提とせよ、というのが謳い文句であった。
 それは先の大戦、第三次世界大戦で得られた教訓でもあった。
 それだけに、この文字は定型として見落とされていたのである。
 もちろん、それは龍二だけには理解出来ていた、作戦支援は陸海空の別を問わない、と言う文章は「当たり前」と書かれていることと同義である。
 龍二は、あの第一師団長であれば、それを定型文としてではなく、作戦として十分に使用すると考えていたのえある。

「航空機、まもなく作戦地域上空へ到達」

指揮所がこの緊急事態に対し、慌て始める。

「指揮所、こちら第3小隊、敵航空機から空挺部隊《くうていぶたい》の降下を確認、現在全力降下中ぜんりょくこうかちゅう

 空挺降下。
 それは、陸軍の空挺部隊による降下作戦を意味する。
 陸上戦闘にあって、空挺作戦、ヘリボーン(ヘリコプターによる降着)作戦は、地形の起伏に依らず、自由な場所に部隊を運ぶことが出来る究極の部隊機動と言える。
 しかし、航空機が撃墜される可能性もあり、目的機上空に至るまでは困難が多い反面、一度空挺降下されてしまうと、部隊の背後に敵が迫るため、非常に脅威なのである。
 城島が、たまりかねて進言する

「おい、さすがに対処行動を命じないと」

 その混乱の中にあって、龍二は依然冷静であった。

「3小隊、その空挺降下は目視か?」

「こちら3小隊、目視」

 一同は気付いたのであった、敵にはこのように陸海空の別なく本気で支援を以来出来るということに。

「おい、どうするんだよ、この地域に空挺降下されたら、今下車展開している高校生たちとモロに鉢合わせだぞ」

 すると龍二は、

「それは目視なんだな。」

 とだけ質問すると、城島は「目視だ」と繰り返す。

「それならば、一切の問題なし、引き続き予定通りの行動を継続せよ」

 と一蹴してしまうのである。
 これには一同も怒りがこみ上げてきた。

「おい、これでは単なる無策じゃないのか、作戦があると思えばこそ今まで黙ってきたが、さすがにこのままでは第一堡塁に到達する前に敵に包囲されるぞ。」

 実際に、敵が降下した地点は、現在下車展開した地点から僅かに後方地域である。
 そのため、もし敵が一部の部隊を要塞正面に展開してきた場合、包囲が形成され、明日の朝までに混戦状態から局地包囲殲滅作戦が成立してしまうのである。

「大丈夫だ、ここで一番大事なことは、この降下作戦に動じず、行動し続けることだ。絶対に進軍を停止してはならない。」

 龍二の強い意志が指揮所内に伝わるものの、何か納得のゆかない、何かが引っかかったような感触がその場には満ちていた。
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