65 / 103
「雁の穴」降下作戦
第64話 半日分の食料
しおりを挟む
「おい、こんな手前で下車させて、本当に大丈夫か?」
城島が、少し不安そうに話した。
サッカー万能少年だった城島からすれば、今回参加している高校生兵士諸君は、いかにも運動神経が劣っているように感じられた。
それは、城島の抜きん出た運動能力からすれば当たり前かもしれない。
「三枝君には、何か考えがあるんじゃないかな、さっきの作戦も、正直正攻法では考えにくい部分が多いよね、だから今回のこの距離感も、何か考えがあるんだと思うんだ」
優が言う通り、龍二には考えがあった。
それは凡人から見れば他愛のないこだわりかもしれない。
しかし、そこが三枝家次男の非凡さ故である。
そんな二人の会話に入るでもなく、龍二は優の耳元にそっと囁く
「ご明察、、、。」
優は少し照れながら、やっぱり何か考えがあっての行動なのだと感じた。
「下車地点に到達したならば、各人は最低限、一日分の水と食料、携行可能な弾薬類をもって下車せよ。特に女子については、食事も半分に減らし、装備を軽くするように。」
龍二が無線を通じて、各車両部隊にそのような指示を出した。
「おい、ちょっと待て、半日分の食料では流石に女子高生であっても持たないぞ」
城島が龍二を制するようにそう言うと、幸もそれに続くように
「ちょっと、女子もそれなりにお腹空くんだから、特に行動訓練中は、やっぱり、、、ねえ。」
可愛い後輩達の空腹が気になり、流石の龍二の言葉にも苦言を呈す。
「大丈夫だ、夕食までには戦場を一端整理できる。」
龍二が珍しく強がっているのかと一同は一瞬感じたが、それが彼の本気であることを次の瞬間に悟ると、その場の空気は一変した。
先ほどの作戦が、それほどまでに効果があるのか、またはよほどの自信があるのか、一同は見極め予ていたのである。
この頃、第一師団司令部では、日暮れと同時に三枝軍の総攻撃を待ち受けるべく、それはまるで蟻の入れる隙間も無いほどに防御準備を徹底していた。
本来、戦闘力が同数同士の場合、待ち伏せをして防御した方が圧倒的に有利である。
この時代にあっても、陸戦における攻撃、防御の優越は未だ防御に圧倒的な利があるのである。
今回は当初から、三枝軍側が攻撃であることから、高校生兵士と現役56連隊の参加を了承し、第一師団との戦力比は3対1の妥当なもののように見えた。
これは、作戦上の最低限のマナーと言えた。
それは大人と子供の戦いにおいて、さすがに戦力比が1対1では大人げない、という配慮もあった事だろう。
しかし、そこは第一師団司令部参謀、抜け目はないのである。
第一師団の作戦は、まず少ない兵力の劣性を補うべく、徹底的に地形を利用し、要塞砲と鉄壁の防御を有効に活用しつつ、三枝軍が行うであろう、夜陰《やいん》に乗じた浸透作戦《しんとうさくせん》を逆手にとろうと言う構想であった。
場合によっては、防御の最大の利点である、要塞陣地防御の陣地戦を捨てて、陣前突撃《じんぜんとつげき》も考えていた。
それは、三枝軍の裏をかく作戦と言えた。
よもや、防御陣地の利点を捨てて、陣前に突進してくるとは思っていないであろう、と言うギリギリの作戦立案であったが、今回の師団司令部の肝いり作戦でもあた。
また、戦力比が3対1であれば、その他のオプションとして海軍、空軍に近接航空支援《きんせつこうくうしえん》、艦砲射撃《かんぽうしゃげき》、艦対地《かんたいち》ミサイル攻撃などは限定的ではあるものの、作戦内として個別に依頼をかけることは可能とされていた。
もちろん、この調整は相手から断られた場合には無効となるため、陸海空三軍の合同組織である国防大学校が、調整に有利に思えるが、実際には防衛大学校時代のコネクションを使うことで、第一師団側が、調整能力は明らかに抜きん出ていた。
この時代の陸海空三軍は、共同作戦を取らなければ戦闘することは困難であり、指揮幕僚課程《しきばくりょうかてい》においては、最も重要視される項目でもあった。
第一師団は、まさにこの部分にも目を付けていた。
他軍種(陸海空の軍種をまたぐ)との調整能力が著しく乏しい三枝中尉率いる学生連合部隊にとって、それは最も急所であると、第一師団は考えていたのである。
そして、戦術面でも秀才として知られる三枝1尉、その弟である三枝中尉もまた、同様に作戦立案《さくせんりつあん》、戦術能力、作戦遂行能力《さくせんすいこうのうりょく》が、兄のそれに近い能力を保持していると師団司令部では考えていたのである。
、、、実際それは正しい現状認識と言えるだろう、、、いや、ある意味正しく、また正しくないのかもしれない。
三枝龍二のそれは、兄啓示のものとはまた異質なものである、兄が作戦面において秀才であるならば、三枝龍二は天才と評価すべきであった。
逆に、これは国防省内では一部で囁かれていることではあるが、兄啓一の方は、作戦面において秀才であっても、物理学の世界では天才と呼ばれていたのである。
城島が、少し不安そうに話した。
サッカー万能少年だった城島からすれば、今回参加している高校生兵士諸君は、いかにも運動神経が劣っているように感じられた。
それは、城島の抜きん出た運動能力からすれば当たり前かもしれない。
「三枝君には、何か考えがあるんじゃないかな、さっきの作戦も、正直正攻法では考えにくい部分が多いよね、だから今回のこの距離感も、何か考えがあるんだと思うんだ」
優が言う通り、龍二には考えがあった。
それは凡人から見れば他愛のないこだわりかもしれない。
しかし、そこが三枝家次男の非凡さ故である。
そんな二人の会話に入るでもなく、龍二は優の耳元にそっと囁く
「ご明察、、、。」
優は少し照れながら、やっぱり何か考えがあっての行動なのだと感じた。
「下車地点に到達したならば、各人は最低限、一日分の水と食料、携行可能な弾薬類をもって下車せよ。特に女子については、食事も半分に減らし、装備を軽くするように。」
龍二が無線を通じて、各車両部隊にそのような指示を出した。
「おい、ちょっと待て、半日分の食料では流石に女子高生であっても持たないぞ」
城島が龍二を制するようにそう言うと、幸もそれに続くように
「ちょっと、女子もそれなりにお腹空くんだから、特に行動訓練中は、やっぱり、、、ねえ。」
可愛い後輩達の空腹が気になり、流石の龍二の言葉にも苦言を呈す。
「大丈夫だ、夕食までには戦場を一端整理できる。」
龍二が珍しく強がっているのかと一同は一瞬感じたが、それが彼の本気であることを次の瞬間に悟ると、その場の空気は一変した。
先ほどの作戦が、それほどまでに効果があるのか、またはよほどの自信があるのか、一同は見極め予ていたのである。
この頃、第一師団司令部では、日暮れと同時に三枝軍の総攻撃を待ち受けるべく、それはまるで蟻の入れる隙間も無いほどに防御準備を徹底していた。
本来、戦闘力が同数同士の場合、待ち伏せをして防御した方が圧倒的に有利である。
この時代にあっても、陸戦における攻撃、防御の優越は未だ防御に圧倒的な利があるのである。
今回は当初から、三枝軍側が攻撃であることから、高校生兵士と現役56連隊の参加を了承し、第一師団との戦力比は3対1の妥当なもののように見えた。
これは、作戦上の最低限のマナーと言えた。
それは大人と子供の戦いにおいて、さすがに戦力比が1対1では大人げない、という配慮もあった事だろう。
しかし、そこは第一師団司令部参謀、抜け目はないのである。
第一師団の作戦は、まず少ない兵力の劣性を補うべく、徹底的に地形を利用し、要塞砲と鉄壁の防御を有効に活用しつつ、三枝軍が行うであろう、夜陰《やいん》に乗じた浸透作戦《しんとうさくせん》を逆手にとろうと言う構想であった。
場合によっては、防御の最大の利点である、要塞陣地防御の陣地戦を捨てて、陣前突撃《じんぜんとつげき》も考えていた。
それは、三枝軍の裏をかく作戦と言えた。
よもや、防御陣地の利点を捨てて、陣前に突進してくるとは思っていないであろう、と言うギリギリの作戦立案であったが、今回の師団司令部の肝いり作戦でもあた。
また、戦力比が3対1であれば、その他のオプションとして海軍、空軍に近接航空支援《きんせつこうくうしえん》、艦砲射撃《かんぽうしゃげき》、艦対地《かんたいち》ミサイル攻撃などは限定的ではあるものの、作戦内として個別に依頼をかけることは可能とされていた。
もちろん、この調整は相手から断られた場合には無効となるため、陸海空三軍の合同組織である国防大学校が、調整に有利に思えるが、実際には防衛大学校時代のコネクションを使うことで、第一師団側が、調整能力は明らかに抜きん出ていた。
この時代の陸海空三軍は、共同作戦を取らなければ戦闘することは困難であり、指揮幕僚課程《しきばくりょうかてい》においては、最も重要視される項目でもあった。
第一師団は、まさにこの部分にも目を付けていた。
他軍種(陸海空の軍種をまたぐ)との調整能力が著しく乏しい三枝中尉率いる学生連合部隊にとって、それは最も急所であると、第一師団は考えていたのである。
そして、戦術面でも秀才として知られる三枝1尉、その弟である三枝中尉もまた、同様に作戦立案《さくせんりつあん》、戦術能力、作戦遂行能力《さくせんすいこうのうりょく》が、兄のそれに近い能力を保持していると師団司令部では考えていたのである。
、、、実際それは正しい現状認識と言えるだろう、、、いや、ある意味正しく、また正しくないのかもしれない。
三枝龍二のそれは、兄啓示のものとはまた異質なものである、兄が作戦面において秀才であるならば、三枝龍二は天才と評価すべきであった。
逆に、これは国防省内では一部で囁かれていることではあるが、兄啓一の方は、作戦面において秀才であっても、物理学の世界では天才と呼ばれていたのである。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる