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「雁の穴」降下作戦
第63話 下車展開
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指定された座標までの経路は、各車毎の自主経路であった。
本来であれば、これら兵力分散は各個撃破の対象となり得るため、慣用戦法としては落第点である。
しかし、この指示にも明確な企図があった。
わざと組織的抵抗が出来ていない素振りをして、各装甲車は単独行動を取っていた。
逆に、配属された戦車部隊の姿はなく、先ほどの奇襲攻撃によってその多くが撃破された可能性もあった。
少なくとも、ルール上では敵の第一師団からは、正確な戦車の位置情報、生存率などは、あくまで情報参謀による見積上の数字でしかない。
本来火力の弱い装甲車が、ほとんど単独行動を取るという極めてリスキーな行動を見ると、明らかに、護衛の戦車の損在感は無いに等しいものがあった。
それらは、装甲車に乗車している高校生達にも、そう思えてならなかった。
「みんな、やられちゃったのかなあ」
そんな不安が口から出始めた頃、各装甲車は森林地帯へ進入した。
そのとき、乗車している彼らの耳に、信じ難い一報が入ってきた。
「各人、下車展開し、指定された座標を目指せ」
である。
それは即ち、せっかく装甲で防護された有利な状況をわざわざ捨て去り、重い荷物を背負って徒歩兵としてこれから戦場をさまよう事を指していた。
これには流石の高校生達も、動揺を隠しきれずにいた。
「私たちって、それだけ負けているってことなの?、ちょっとマズくない?」
各号車は、電磁モーターの騒音にも関わらず、それら不満と不安の声が聞き取れるほど動揺していたのだった。
しかし、それを宥めるように、56連隊の下士官達が高校生兵士諸君に話しかける。
「俺たちにとっても、これはかなり意外なことだが、、逆に言えば、それだけ有利な状況を捨ててでも実施するべき戦法があるということなんじゃないかな。」
「そうだな、俺たちの大将を信じようじゃないか」
「安心しろ、ウチの大将は、あの三枝龍二陸軍中尉殿だからな」
古参の56連隊のメンバーは、あっけらかんと高笑いしながら、むしろこの状況を楽しんでいるように思えた。
そんな姿は、またベテランの下士官達の雰囲気を余計に醸し出す。
高校生兵士達にとっては、なんだか妙に落ち着く部分であり、また尊敬の念を抱かせるのである。
それはやがて、自分たちが持っていない、大人の安定感であり、包容力だと言うことに気付く。
人を助け、敵と戦う最前線に身を置くという事の意味、それは即ち、自らは強くならなくてはならない、それは体だけではなく、心も志も含めた強さなのだと言うことが、このような場面ではとても発揮されるのである。
そして、女子生徒達は、なんとなく気付いてしまうのであった、、、それが女性から見て、理想の男性に求める究極の部分であると言うことに。
しかしそれは、まだ何となく、なのである。
何しろ彼女達は、まだ夢見る乙女、真っ最中なのだから。
今、そんな包容力豊かな彼ら下士官達を霞ませるのは、その奥にいる生徒会参謀部の美男美女の存在であった。
少女はまだ、麗しい夢の世界にこそ恋いをしているのである。
そんな中で、今、目の前にいる下士官達が、どうしても気になるのである。
本人が気づかぬ内に、恋という病は確実に彼女達を侵し続けていたのである。
本来であれば、これら兵力分散は各個撃破の対象となり得るため、慣用戦法としては落第点である。
しかし、この指示にも明確な企図があった。
わざと組織的抵抗が出来ていない素振りをして、各装甲車は単独行動を取っていた。
逆に、配属された戦車部隊の姿はなく、先ほどの奇襲攻撃によってその多くが撃破された可能性もあった。
少なくとも、ルール上では敵の第一師団からは、正確な戦車の位置情報、生存率などは、あくまで情報参謀による見積上の数字でしかない。
本来火力の弱い装甲車が、ほとんど単独行動を取るという極めてリスキーな行動を見ると、明らかに、護衛の戦車の損在感は無いに等しいものがあった。
それらは、装甲車に乗車している高校生達にも、そう思えてならなかった。
「みんな、やられちゃったのかなあ」
そんな不安が口から出始めた頃、各装甲車は森林地帯へ進入した。
そのとき、乗車している彼らの耳に、信じ難い一報が入ってきた。
「各人、下車展開し、指定された座標を目指せ」
である。
それは即ち、せっかく装甲で防護された有利な状況をわざわざ捨て去り、重い荷物を背負って徒歩兵としてこれから戦場をさまよう事を指していた。
これには流石の高校生達も、動揺を隠しきれずにいた。
「私たちって、それだけ負けているってことなの?、ちょっとマズくない?」
各号車は、電磁モーターの騒音にも関わらず、それら不満と不安の声が聞き取れるほど動揺していたのだった。
しかし、それを宥めるように、56連隊の下士官達が高校生兵士諸君に話しかける。
「俺たちにとっても、これはかなり意外なことだが、、逆に言えば、それだけ有利な状況を捨ててでも実施するべき戦法があるということなんじゃないかな。」
「そうだな、俺たちの大将を信じようじゃないか」
「安心しろ、ウチの大将は、あの三枝龍二陸軍中尉殿だからな」
古参の56連隊のメンバーは、あっけらかんと高笑いしながら、むしろこの状況を楽しんでいるように思えた。
そんな姿は、またベテランの下士官達の雰囲気を余計に醸し出す。
高校生兵士達にとっては、なんだか妙に落ち着く部分であり、また尊敬の念を抱かせるのである。
それはやがて、自分たちが持っていない、大人の安定感であり、包容力だと言うことに気付く。
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そして、女子生徒達は、なんとなく気付いてしまうのであった、、、それが女性から見て、理想の男性に求める究極の部分であると言うことに。
しかしそれは、まだ何となく、なのである。
何しろ彼女達は、まだ夢見る乙女、真っ最中なのだから。
今、そんな包容力豊かな彼ら下士官達を霞ませるのは、その奥にいる生徒会参謀部の美男美女の存在であった。
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そんな中で、今、目の前にいる下士官達が、どうしても気になるのである。
本人が気づかぬ内に、恋という病は確実に彼女達を侵し続けていたのである。
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