上 下
63 / 103
「雁の穴」降下作戦

第62話 師団奇襲攻撃

しおりを挟む
 そして早速事態が動き出す。
 第1堡塁方向から突然要塞砲が激しく発射されたのである。
 敵は、龍二達攻略部隊が作戦を開始した直後の、まだ部隊が一カ所に固まっているこの時期に、できるだけ多くの損耗を強いる作戦であった。

「戦車、装甲車発進!急げ!車列は関係ない、出られる車両を優先してまずはこの場を離れるんだ」

 各車両の車長は大声で叫びながら、急速発進を試みる。
 操縦手は、ギアを低速にしつつアクセルを躊躇なく一番下まで踏み込んだ。
 装甲車両の超電磁モーターは最大出力で車輪を回し、巨大な車輪は少し空回りをしながら無駄に土煙を巻き上げ、一斉に予定の位置へ突進を始めた。
 戦いの火蓋は切って落とされたのである。



 
「C-1地区に敵、味方の所在なし、当初予想したほどの被害では無かったね」

 メインモニターを見つめる生徒会参謀の横で、テキストデータで送信されてくる損耗情報を分析する如月優が龍二に報告する。
 先ほどの第一堡塁からの奇襲攻撃は、とっさの判断により大損害は抑えたものの、装甲車両が軽微な損耗を受けていた。
 これにより、一部の車両は損耗センサーによる自動速度制限がかけられ、部隊全体の進撃速度を抑える結果となってしまった。
 そして出鼻を挫かれた形となった生徒会参謀達は、戦闘が一時的に収束すると、ようやく一息つけるようになったものの、それはそのままため息へと変わっていった。

城島「、、、おいおい、さすがに開始直後の奇襲なんてマナー違反だろ。」

龍二「まあ、それだけ形振りかまわずやってくるってことは、敵も我々を高く評価しているということだろう。安心しろ、多少損耗も出たが、逆にこれは好都合だ。」

 生徒会一同は正直、龍二が負けず嫌いな一面を覗かせただけだと思っていた。
 しかし当の本人は全くそのような気持ちは無く、むしろ本当に敵の奇襲攻撃を歓迎しているようにすら見て取れた。

龍二「これからの作戦を説明する、通信手以外は作戦図の前に集まってくれ」

 龍二は静かに作戦の概要を語り始めた。そしてその作戦を聞くにつれて、生徒会参謀達の表情は再び精気に満ちてくるのである。
 この時、生徒会参謀一同は、つくづく龍二というカリスマと行動を共にしていることを誇りに思えた。
 そして「天才」の存在をあらためて痛感するのである。

城島「、、、ってことは、さっきの編成完結式の、ゆっくりとした流れは、まさかこの作戦のための、、、。」

 龍二は珍しく、少しニヤリとしながら、うなずいた。
 そう、作戦は既にあの式典の時には始まっていたのである。
 そんなこととは知らず、敵側、第一師団指揮所は、初戦の奇襲作戦を成功と見積もり、幸先の良い戦いに、早くも盛り上がりつつあった。

「しかし、作戦参謀、学生相手に少々大人げないのではありませんか?」

 情報参謀である第2部長が作戦参謀である第3部長に笑顔で話しかけた。

3部長「いやいや、たとえ学生とはいえ武器を手にし、挑んでくる以上、全力でやらねば失礼にあたる。ましてやあの三枝中尉は、三枝啓一1尉の弟だからね。油断すればこちらが寝首を切られ兼ねんよ。」

 作戦参謀の言うとおり、油断は大敵であった、が、この時点で本当の意味での油断が何であるかを理解している者は司令部には皆無であった。
 錯雑した地形を一気に走破した各装甲車は、一端散会した後、地形の低い場所に停まり待機していた。

麻里「ああん、もうオシリが痛い!これじゃあ荷物を持って歩いていた訓練の方がマシじゃない。」

 麻里がそう言うのも無理はない、正直ほとんどの学生側はいきなり乗車して、訳も解らず走り出した装甲車の中で、数十分の間、ひたすら激しくシェイクされ続けたのである。
 短い訓練期間の中で、乗車突撃訓練をしている余裕はなく、事実上いきなりの実戦参加に等しい状態であった。
 それまではなんとなく佳奈を助けたい、ロマンティックな恋いの成就を願う多数派の中で、辛い訓練も激しい祭りのような高揚感で過ごせていたが、実弾こそ飛び交わないものの、生々しい戦場の空気を肺の奥まで吸わされた不快感と不安感は同時に押し寄せていた。
 そして停車した車内に広がる極端な静寂と、情報の入って来ない僅かな時間が、それら不安を助長させるものとなっていた。

 「やっぱり私たち、とんでもないとこ来ちゃったんじゃないかなあ」

 静香も怯えながらそう言うと、女子学生で唯一東海林涼子だけは毅然とこう答えた。

「三枝様なら大丈夫ですわ。この状況ですら作戦の可能性が高いと思っています。」

 引率の三枝澄も同じ考えであった。
 龍二は昔から多くは語らないものの、必ず突破口を幾つか持っている、そんな男の子だった。
 かつて兄 啓一が感じていた、彼の剣筋には何かある、という理由の一つがそのようなところから来ているのであろう。
 そんな時、無線機を通じ、次の集合ポイントへ集結する時期が示されたのである。

「ほらね、大丈夫でしょ!」

 不安な表情を見せる女子生徒達を励ますように、三枝澄は笑顔とともに彼女らを元気づけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性転換ウイルス

廣瀬純一
SF
感染すると性転換するウイルスの話

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...