決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方

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少年たちは決起する

第48話 東海林 涼子の決意

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「東海林会長、ご相談したいことがあります。」

 鎌倉聖花学院の生徒会室に入ろうとしていた会長の東海林涼子を引き留めたのは、制服姿の橋立麻里と花岡静香の二人であった。
 この時、東海林も同じく制服姿である。
 休日であるにもかかわらず、この三人が校内で、それも制服でというのが、ただならぬ事態を予感させた。

東海林「花岡さん、貴女はたしか上条さんのお友達でいらしたわね?。」

 花岡静香は東海林率いる「徳川幸ファンクラブ」の会員であり、よく知っている間柄であった。

花岡「はい、佳奈、・・上条さんのことで、東海林会長のお考えをお聞きしたくて・・。」

東海林「ええ、現状はよく理解しているつもりです。」

 そう言う東海林を不思議そうに見る二人であった。
 無理もない。この突拍子もない事件の全容を、この二人以外に知り得る人物がいるとは思えないからである。
 なにしろこの事件の当事者、佳奈からのメールで知った二人である。
 情報はどこよりも早いはずであった。

東海林「幸様から先程メールを頂きました、上条さんが大変な事になっている様子ですね。」

 この時二人は、やはり生徒会長という立場上、この佳奈と昭三の逃避行と、その後の事件を快く感じていないものと思っていた。
 しかし、東海林の考えは全く別であった。

東海林「何をしてるんですか二人とも!佳奈さんのメール内容をお教えなさい、そして二人を助ける準備をしなければ。」

 東海林は、幸からのメールで佳奈が親の決めた結婚について悩んでいたこと、それをエスケープした三枝昭三に、心から賛同していたのである。
 先日、国防大学校生徒会となるメンバーが来校した際に感じた、三枝龍二との会話・・・年齢の近い男性が、自分を犠牲にしてでも何かを果たそうとする軍人らしい覚悟に触れ、東海林涼子もまた自らの「正義」という存在に飢えていたのである。
 橋立と花岡の二人は、彼女の発した言葉から、その思いに気付いていた。
 もちろんお慕えする幸様の意志、というところもあってと考えていたが、東海林の正義感は既にその域を越えていたのである。
 1学年の若い女子生徒が、自分の意志をはっきりと示している。
 そして、そのお相手は、あの三枝三兄弟の一人である。
 この日、東海林は自宅でじっとして居られないもどかしさから登校していたのである。
 そして彼女の頭の中には、この絶望的状況に風穴を開ける構想があった。
 自宅を出る前、その構想に必要なメンバーに招集をかけていた、それは決意表明を添えて、一斉送信されていた。

東海林「あら、思ったより早かったんですのね。」

 その招集メンバーの中で最初に登校を果たしたのは、東海林と同級生で、生徒会メンバー達であった。

「会長からのあのメールが送られてきたら、急ぐしかないでしょ!で、具体的な考えを聞こうじゃない!」

 その後も生徒会のメンバーと、各部の部長クラスまで登校を始めた。
 更に橋立と花岡の二人を驚かせたのは、当校の国語教師、三枝 澄まで登校してきたのである。

花岡「三枝先生まで、これだけのメンバーを休日に集めるなんて、一体どんなメールを頂いたんですか?」

澄「あら、花岡さんはてっきりもう、メールを受け取っているかと思いましたよ。」

 そう澄が言い終わる頃、花岡の通信端末にメールを知らせるアラームが鳴る。

花岡「あ、そうですね、メール、今届いたみたいです。」

 そのメールは、校内の生徒会や部活動の主要メンバーにまず届き、それに賛同した生徒が、その後輩やメンバーにチェーンメールされていく方式であった。
 花岡は、ファンクラブのメンバーでもまだ末端であり、メール転送がこの時間となっていたようである。

橋立「ねえ静香、そのメール、私にも転送して!」

 花岡はそのメールを読む前に転送した。そして二人はメール内容に目を通すのである。

「親愛なる鎌倉聖花の皆様、生徒会長の東海林です。たった今、私の手元に前生徒会長の徳川幸先輩からメールを頂きました。そこには、当校の1学年生徒、上条佳奈さんの婚約者についてが書かれていました。本来校風からすれば、鎌倉聖花の生徒は操を守り、将来の夫となられる方に、如何に尽くし良妻賢母として家庭を守るかを目指すことこそ淑女の本懐とされてきました。しかし、彼女の結婚は、親の決めたものであり、お相手の顔すら見たことがないとのことです。彼女は自らその道を否定し、今毅然とした態度で大人たちへ反逆の狼煙を挙げて戦っています。すでに陸軍工科学校の生徒達がこの二人を守るべく、校内に立て籠もり、作戦を開始したとの情報が入りました。私たちは今、何をすべきでしょうか?工科学校の生徒達は、私たちと同じ高校生なのです。彼らがとった行動を、同じ高校生として静観すべきでしょうか。私は皆さんに問います、伝統ある鎌倉聖花学院の生徒が今、どうすべきかを。私は本日、生徒会室に登校し、彼ら陸軍工科学校の生徒達と行動を共にするつもりです。もし賛同される方がいらっしゃれば、生徒会室にお出でなさい。」

「・・・なるほど。これはまた素晴らしい決意表明ですね。」

 橋立真理が呟いた、意外な決意表明と言えた。
 基本的に、徳川幸の件を除けば、本来東海林涼子は典型的な女子高の生徒会長で、清らかな心と体の持ち主であった。
 そんな彼女が、大人社会への疑問と不満を表明するとは誰も考えていなかった。
 それがまたこのメール本文に対し生徒達の関心を一層高めるのである。
 そうしている間に、生徒会室に向け鎌倉聖花学院の制服を着た生徒達が襟元を正し、威風堂々と集まってくる。
 それを見た三枝澄はただ黙って彼女達のとる行動を見守っていた。

「会長、声をかけた生徒一同、概ね揃いました。ご指示を。」

 部活動の部長を代表して、そう言うと、東海林はもはや生徒会室には到底入りきらない生徒達を前に、大講堂へ移動するよう促した。
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