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小さな革命

第40話 守りたい人

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龍二「つまり、第1師団長のお嬢さんが、行方不明で捜索願が出されていると。・・・。」

北条「ああ、師団長の一人娘と言えば、要領を得るだろ。悪いことに、都内にテロ予告が出た直後だったからな。国防大学校の一斉情報配信で、教職員全員に情報を求めている。お前達、何か知っているんだろう。」

 その時、幸と優は顔を見合わせて、これはまずいことになっていると思った。

幸「三枝、言いにくいことだけど、さっき話した通り、昭三君と上条さんが同時に行方が解らないという事態は、恐らく一緒にいると考えるのが自然だと思う。」

龍二「・・・そうだな。多分そうだろう。身内の失態で皆を巻き込んですまない。昭三の事だけなら殴ってでも済まされるが、お相手が上条さんで、お父上が上条師団長では・・・、これは切腹ものだな。」

 一同は凍り付いた。
 武家の者として、また今先程まで血生臭い銘刀「正宗」を見てきただけに、龍二のいうことは全く冗談には聞こえなかった。
 幸と優は、血の気の引く思いであった。

城島「おい、冗談言っている場合じゃないだろう、今回のはちょっと相手が悪い。まずは俺たちで捜索してみないか?」

龍二「ああ、我々生徒会はまだしもだが、北条さん、清水大尉を一度送りした方がいいのではありませんか?「しなの」の出航時間は大丈夫ですか?」

清水「ええ、私なら平気、後輩達の危機に、知らん振りできないでしょ!それも三枝弟×2であればなおさら!」

幸「本当にありがとうございます、私たちの為に貴重な上陸時間を頂いて。」

清水「何言ってるのよあなた!、徳川さんも私にとっては無関係ではないわ、あんたバスケ部でしょ、ちゃんと部活行ってる?」

幸「・・・れ?ひょっとして清水さん、バスケ部の・・・」

清水「そうよ、OG!これからもよろしくね、徳川 幸さん!」

幸「はい・・・清水・・先輩・・。」

 幸は、これは手ごわい先輩が身近に出来てしまったと思った。
 そんな時、優が気まずい先輩後輩の会話に割って入る。

優「ところでお二人はどこへ行く所だったんですか?メール速報が流れてからここまで来るの随分早かったですよね。」

北条「ああ、清水大尉にな、横須賀の海が一望出来るロマンチックな場所を案内する所だったんだよ。偶然三枝1尉の実家の近くでな。」

清水「こら!ロマンチックが余計だ。誤解を招くだろ!海軍でも知らない、港湾が一望できる穴場があると北条曹長が言うから、今日は三浦半島を散策してたんだよ。」

 と言い放つ清水の顔は少し赤かった。
 もっとも、すっかり日が暮れて車内は暗く、それに気づいた者はいなかったが。
 龍二達や、その周囲の捜索状況を全く予想していなかった昭三と佳奈は、灯油ランプの明かりと暖かさだけで部室棟での夜を過ごしていた。
 二人は、窓際の壁を背もたれ替わりにして、二人並んで座っていた。
 寒さをしのぐため、ごく自然に、二人は座りながら一つの毛布にくるまって、温めあっていた。
 そんな時、佳奈が少し震えているのが、密着している腕から伝わってきた。

昭三「佳奈さん、寒い?ごめんね、ここには暖房器具が無いから、ほら、もう少しこっちへ来て。」

佳奈「あの、寒いのもあるんですが、実は私、大のお化け嫌いで・・・恥ずかしいのですが、ちょっと怖くて。」

 本当に見た目通りのお嬢さんなんだなと感じつつ、その彼女が、今自分の近い所にいる。
 そんなこと自体に再び感動を覚えるのであった。
 そんな時であった、部室棟の廊下に足音がする。
 突然のことに二人は少し動揺するが、昭三が素早く灯油ランプを消すと、部屋の中は真っ暗になった。
昭三は、強く彼女を引き寄せ、息を潜めた。
部屋が暗くなった分、足音の主が照らす懐中電灯の光が、部屋の中まで入ってくる。
 当直の巡察のようだった。
 一定の火気点検を実施した後、巡察は帰って行くのが確認出来た。
 部屋の中は真っ暗だと思っていたが、この日はほぼ満月であったため、月明かりが意外と明るく部屋の中を照らした。

昭三「佳奈さん、僕に寄り添って。寒くないでしょ、あとはゆっくり目を閉じて、安心して眠ってください。僕が一晩中、佳奈さんを守ってますから。ね、お化けなんて怖くないでしょ。」

佳奈「まあ、本当に。さっきより暗いのに、そう思うと気持ちが楽ですわ。」

 そう言うと、佳奈はゆっくり目を閉じて、昭三が勧める通り眠りについた。
 本当は緊張で心臓が鳴り響いていたのだが、今日一日のことを考えると、急に眠くなっていた。
 昭三はと言えば、会話が途絶えて薄暗い部屋に、佳奈と二人きりの状況を、男子として急に意識しはじめ、それが健全な男女のシチュエーションとしては、とてつもなくハイレベルであることに今頃気付くのであった。
 しかし、純情にして生真面目な昭三は、ここで彼女を守り抜くことを、本気で誠意だと考えていた。
 この時はまだ、佳奈を本気で「お化け」から守らねば、と考えていたのである。
 そんな二人を包むように、肌寒い夜はふけるのであった。
 生徒舎にも消灯が訪れていた。
 あの二人は今頃うまくやっているだろうか、と人事ながらジャズ部のメンバーは妙に興奮して、なかなか寝付けなかった。 普段は女性禁制の空間に、鎌倉聖花学院の少女がいる。同じ敷地に存在することだけでも、生徒達には十分刺激的な事実であった。

「いいなあ、三枝のやつ・・。」

 東郷は呟いた。

「まあ、これからが大変だけどな。」

 経塚もまた眠れず、東郷のつぶやきに答えてしまった。
 その通りなのである。
 本当にこれからの事を考えなければならないのは明日なのである。
 そんなことをぼんやりと考えながら、睡眠と覚醒の間をさまよう生徒達に、突然非常呼集を知らせる警笛と放送が襲いかかるのである。

「非常呼集、非常呼集、所在の全生徒は生徒舎前に集合せよ。自装を可とする。」

 当直のけたたましい声が建物にこだまし、一斉に全校の明かりがつけられた。

東郷「おい、非常呼集って、まさか・・・」
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