決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方

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小さな革命

第33話 花岡 静香

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 佳奈は、先日病院で会った時の事を思い出す。

佳奈「えー、お兄さんはこの間病室で会ったけど、だいぶタイプが違うかなあ」

花岡「ふむふむ、とりあえず、あの鋭い眼差しではないと。もうちょっとお子さまな感じ?」

佳奈「ん~、正直、三枝さんが軍人さんじゃなくて、陸軍工科学校の生徒だって知ったのもこのお手紙を頂いてからなの。てっきり年上だと思ってたから、まさか同い年なんて思わないよ。」

 そう、この段階でようやくお互いが高校生の同い年であることを知るのである。橋立麻里も興味津々で聞く。

橋立「でも、高等工科学校の生徒って格好いいよね!私、凛々しい男子、好きだな~。私も絶対に行くからね!」

佳奈「え、大丈夫かなあ、正式な案内を頂いたの、私だし、学校、大丈夫かな?」

橋立「あれれ、いいのかな佳奈ちゃん、それではあの男子校に、君は一人で行く気かな~?」

 佳奈はそう言われ、一人で行く自分を想像したら、一体どんな表情で行けばいいのだろう、などと考え、急に一人で行くことが怖くなってきた。

「(橋立)麻里ちゃん、(花岡)静香ちゃん、・・・お願い、当日一緒に付き合って、、。」

「親友の頼みでは仕方がないなあ、もちろんオーケーだよ、佳奈」

 そんなこんなで、佳奈と二人の友人は陸軍工科学校の学校祭へ向かうのであった。





 そして学校祭の当日、橋立麻里 花岡静香の二人は、佳奈の姿を見て仰天した。

「佳奈、まさかあんた、本気なの?」

 花岡静香が驚きの声を上げる。
 それはある程度予想されたことかもしれない、しかし15歳の女子高生が、まさか男子校の学園祭にそのまま制服で現れるとは思ってもいなかったのである。
 それは橋立と花岡の二人は、前夜からどんな服装で行くべきか、とてつもなく悩み、時間を費やしていたから、なおのことと言えた。
 また、学校側にあまり公に知られたくないという考えも働き、お嬢様学校の雰囲気とは少し違ったカジュアルな服装を選んでいた。
 そう、それだけに、である。

「だって、学校に幸様から直接手渡しだったんだよ!公的なものかと思ったのよ!、もう、教えてよ私服で来るなら!」

 そう怒る佳奈を横目に、橋立と花岡は、これは案外佳奈が正解だったのではと思うのである。
 なにしろ地元では有名な鎌倉聖花の制服、それは目立つのである。
 当然、血に飢えた工科学校の生徒達もざわめいていた、が、ここがまた普通の男子校とは異なる点でもある。
 基本、ここの生徒はシャイをこじらせ、女子を直接見ることが出来ないのである。
 ましてや鎌倉聖花など、手の届かない彼方の女子達である。
 三人が通り過ぎるまで、全く興味の無い、というポーカーフェイスでいるのだが、通過したとたん
 「今、見たか、あれ鎌倉聖花学院だったよな!」
 「だよな、おい、部活のメンバーに緊急召集かけたほうがいいんじゃないか?後で揉めるぞ!」
 といった具合に、裏方では大騒ぎである。
 そんなこととは知らず、昭三達ジャズ喫茶のメンバー達は、ある大問題に直面していた。

「おい、どうするんだよ、今更替えなんて用意していないぞ!」

 そうなのである。この時ピアノ担当のメンバーが突然の体調不良により営内から出られないでいたのである。

「おいおい、そりゃマズいだろ、俺たちセッションし始めてからまだ1年も経ってないんだから、曲のレパートリー少ないし、ピアノ無しでいける曲、無いだろオレたち!」

 昭三も真っ青になっていた。
 チケットは一部販売も開始され、楽しみにしている人たちもいる。
 何てタイミング悪いんだろうと、このところの不運を呪うのであった。
 そんな時、廊下の奥が何だかざわめいている。

「ん、なんだ?廊下を誰か有名人でも通っているのか?モーゼの十戒みたいに人が避けて行くぞ」

 経塚がそういう仲間と一緒に、廊下をみると、そこには上条佳奈と橋立麻里、花岡静香の三人がこちらに向かって歩いて来る。


「おい、おいおい、あれって鎌倉聖花学院の制服だよな、うわー、かっわいい!何なんだあの可愛い生き物は!おれ緊張しちゃうよ。って、あの子達、こっちに向かってないか?」

 経塚がそう言うと、そのまま教室に向かって叫んだ
 
「ひ、非常呼集、前方20、鎌倉聖花学院生徒接近中、全員配置に付け!」

 それを聞いたクラスメイト達は、一斉に配置に付こうとしたが、そもそも配置などないのだから、この場合はただ右往左往して慌てただけであった。
 そんな中、徳川幸がジャズ喫茶に入って佳奈達を案内したのである。
 そう、徳川幸は女性にカウントされていなかったのである。

「あのう、ジャズ喫茶はここでいいんでしょうか?」

 いつもの調子で佳奈が訪ねると、一番先頭にいた経塚が答えた

「はい、あの今はまだ準備中ですので、少々お待ちを。どなたかのご紹介でしょうか?」

佳奈「はい、徳川幸様を通じて、三枝さんからご招待を頂きまして。」

幸「そんでもって、私がここまで引っ張ってきたってわけ!」

 その時、クラスの全員が、昭三を一斉に見ると、でかした! という表情と合図を送った。
 正にグッジョブ!顔の火照りを慌てて取ると、昭三は廊下にいる佳奈に顔を出した。

「あの、本日はまことにありがとうございます。」

 それを聞いた橋立が、少し笑いながら、何だかデパートの店員みたい、と漏らすと、双方から少し笑いが起こった。

「初めまして、私たち、佳奈の友達でクラスメイトの橋立と花岡です。この子、ちょっとほっとけないので、保護者代わりに付いてきました。でも何だかこのジャズ喫茶、始まる気配が無いですね。」

 そこへ経塚が、困った表情でこう話す

「そうなんです、実はせっかく来て頂いたのに、残念ながらピアニストが急病でして。本日はちょっと諦めてもらうしかないですねー。」

 そんな話をした経塚を、三人はキョトンとした表情で見ていた、そう、ピアニストならここにもいるのである。

花岡「あの、もしだめじゃなければですけど、かなり凄腕のピアニストを、私、知ってますけど。」

経塚「え、!本当ですか?、出会って間もないのに不躾だとは承知の上で、是非その方をご紹介頂ければなんですが!」

 すると橋立と花岡は、真ん中にいる佳奈を挟むように視線を向けた。そしてその場にいた全員がそれを悟ったのである。

「ひょっとして、そのピアニストって上条さん?」

 複雑な表情を浮かべながら、昭三が指さしながらそう問うと、恥ずかしそうにうつむいたまま、コクりと首を縦にする佳奈であった。

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