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叫 ぶ

第26話 親 友

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学校長の条件、それは

「三枝学生、生徒会長、兼ねて訓練部学生課学生室長を命ずる。なお、本役職は特定校友会委員会及び部活動、同好会への入部を禁止する。いいね。君は学生の中にあっても、軍隊の中にあっても常に中立であることを要求される。従ってこれは絶対条件だよ、いいね。」

 一瞬、祝賀ムードだった会場に、動揺が走った。
 それは、龍二を狙っていた各部の上級生達の落胆と動揺である。
 その中でも、一番慌てたのは、他ならぬ城島であった。
 固まったままの城島、そんな二人を見て、右往左往する優、そして笑いを堪えて静観する幸。
 龍二は学校長に、その条件に対し質問をする。
 
「特定の部、でなければ良いのですね。」

「ああ、中立が条件だよ。」

 固まっていた城島の脳裏に、閃きの光が注した、そう、特定でなければいいのである。

「三枝、特定でなければいいんだよな、そういうことでいいんだよな。」

「ああ、そういうことだ」

 つまり、今の龍二は、極端な話をすれば、全ての部に入らないか、全ての部に入部することで、その中立を果たすことができるという捉え方であった。

 「特定」でなければよいのだから。

 この日以来、三枝龍二は弱小部に対する強烈な助っ人として奔走する日々が始まるのである。
 臨時集会の会場から隊舎へと帰路に付きながら、城島は龍二にしつこく迫るのである。

「三枝、当然サッカー部は優先してくれるんだよな!」

「ああ、サッカー部は特別に扱う。」

 不思議そうな顔をする優が聞く。

「あれ、中立が条件じゃなかったっけ?」

「ああ、中立だが、親友の城島がいる部だからな、少しくらいならいいだろう。」

 この意外すぎる発言に城島は一瞬言葉を失った。
 
 「親友」・・・
 
 そんな風に言われたことも無かったが、この好敵手でもある龍二の口から、それが出てきたのである。
 まるで告白された少女のように、顔を赤く染めながら明らかに動揺する城島を見て、幸は更に笑いを堪えるのである。
 その日以来、城島は相変わらずぶっきらぼうな表情のままではあるが、何故か妙に龍二に差し入れを持ってきたり、おごったりするようになった。
 しかし、当の龍二は、なぜ急に城島がおごってくれるようになったのかが全く理解できないでいた。
 龍二がそれを問いただすと、城島は少し笑ってこう言うのである。

「だってお前は親友なんだろ。」

 と。






 春木沢が復学した。

 それでもあの日から一週間後のこととなった。
 彼は以前と何ら変わりなく、相変わらず剛胆である。
 そしてもちろん、真っ先に向かったのは龍二の所へである。
 講義中の部屋に、それもまたいつもの如く何も気にすることなく、ズカズカと教場へ入ってこう言った。

「三枝、・・・今回の事で礼は言わんぞ。だが、だがしかし、これは借りとして覚えておく。お前の身に何かあれば、何時でもオレを頼れ。あと出来るだけ早く借りを返したいから、お前の身に何かが起こることを心から祈っている。」

 まったく春木沢らしい、それは照れ隠しであった。
 そう言うと、その場を立ち去るのである。
 唖然として立ち尽くす教授を前に、全く動じることも無く、それは少しの笑顔とともに。
 この頃になると、生徒会こと「学生室」という異様な組織の全容が見えてきていた。
 それは一般の高校にあるような生徒会とは全く異質なものであった。
 学生課の一部署として、部屋が割り当てられているだけではない。
 その身分事態が、既に正式な軍人として扱われていた。
 階級は「中尉相当」という破格の待遇である。
 この学校を卒業して、約9ヶ月は陸軍士官候補生学校での基礎を学び、更に3ヶ月後に晴れて少尉任官というのが一般的である。
 中尉ともなると、士官学校卒業から2年経過しなければ昇任せず、結果、龍二は6年分の階級序列を一気に飛び越えたこととなる。
 これには学校中が驚きをもって受け止めた。
 この制度は、将来の国軍トップをも見据えた特殊人事であり、もちろん前代未聞である。
 本来であれば、そんな人事に反発が出たり、異を唱える勢力もあったであろう。
 それ故に、学校長はこの制度を発効出来ないでいたのである。
 そこへあの、カリスマ的自衛官、三枝啓一の出現、新国立競技場での死闘、そしてその弟の入学、その後の英雄的エピソード、これらは学校としてもまさに渡りに船であった。
 もちろん継続的に、このような英雄的人物の出現を期待したものではない。
 本来は、卒業後の優秀な人物を士官候補生学校卒業の後、中尉待遇で室長を任せるというコンセプトであったようである。 今回は、テストパターンとしての発令であり、またこれが、この制度の悩みの種とも言えた。
 学生室には、龍二を長とし、他の学生に割り当てられた役職が4席、そして事務を担当する事務官と職員、技官が一人づつ配置され、内線とシステム回線まで専属に割り当てられるという徹底ぶりである。
 階級は中尉であるものの、役職は科長クラス同等であり、大尉から少佐級の任務と言える。
 この「学生室」には、担当助教も割り当てがあり、部下としてではないものの、部活の顧問のような立ち位置であった。
 そんな担当助教には、やはり北条曹長が当てられ、生徒会が万一暴走しそうになった場合の「鈴」の役割も含まれていた。
 鳴るかどうかは全く別として。
 
 正式な軍人となった龍二には、修学の他、室長会議への参加や、いくつかの公務も任務付与されていた。
 まさに学生であり、軍人であり、国防大学校職員でもある。
 
 しかし、この中尉相当官制度の本当の意味を知る者は、この校内には存在していない。
 それは今後起こるであろう、世界情勢を睨んだ特殊人事であることは、当の学校長へも知らされていない特別軍事機密に該当するのである。
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