27 / 103
叫 ぶ
第26話 親 友
しおりを挟む
学校長の条件、それは
「三枝学生、生徒会長、兼ねて訓練部学生課学生室長を命ずる。なお、本役職は特定校友会委員会及び部活動、同好会への入部を禁止する。いいね。君は学生の中にあっても、軍隊の中にあっても常に中立であることを要求される。従ってこれは絶対条件だよ、いいね。」
一瞬、祝賀ムードだった会場に、動揺が走った。
それは、龍二を狙っていた各部の上級生達の落胆と動揺である。
その中でも、一番慌てたのは、他ならぬ城島であった。
固まったままの城島、そんな二人を見て、右往左往する優、そして笑いを堪えて静観する幸。
龍二は学校長に、その条件に対し質問をする。
「特定の部、でなければ良いのですね。」
「ああ、中立が条件だよ。」
固まっていた城島の脳裏に、閃きの光が注した、そう、特定でなければいいのである。
「三枝、特定でなければいいんだよな、そういうことでいいんだよな。」
「ああ、そういうことだ」
つまり、今の龍二は、極端な話をすれば、全ての部に入らないか、全ての部に入部することで、その中立を果たすことができるという捉え方であった。
「特定」でなければよいのだから。
この日以来、三枝龍二は弱小部に対する強烈な助っ人として奔走する日々が始まるのである。
臨時集会の会場から隊舎へと帰路に付きながら、城島は龍二にしつこく迫るのである。
「三枝、当然サッカー部は優先してくれるんだよな!」
「ああ、サッカー部は特別に扱う。」
不思議そうな顔をする優が聞く。
「あれ、中立が条件じゃなかったっけ?」
「ああ、中立だが、親友の城島がいる部だからな、少しくらいならいいだろう。」
この意外すぎる発言に城島は一瞬言葉を失った。
「親友」・・・
そんな風に言われたことも無かったが、この好敵手でもある龍二の口から、それが出てきたのである。
まるで告白された少女のように、顔を赤く染めながら明らかに動揺する城島を見て、幸は更に笑いを堪えるのである。
その日以来、城島は相変わらずぶっきらぼうな表情のままではあるが、何故か妙に龍二に差し入れを持ってきたり、おごったりするようになった。
しかし、当の龍二は、なぜ急に城島がおごってくれるようになったのかが全く理解できないでいた。
龍二がそれを問いただすと、城島は少し笑ってこう言うのである。
「だってお前は親友なんだろ。」
と。
春木沢が復学した。
それでもあの日から一週間後のこととなった。
彼は以前と何ら変わりなく、相変わらず剛胆である。
そしてもちろん、真っ先に向かったのは龍二の所へである。
講義中の部屋に、それもまたいつもの如く何も気にすることなく、ズカズカと教場へ入ってこう言った。
「三枝、・・・今回の事で礼は言わんぞ。だが、だがしかし、これは借りとして覚えておく。お前の身に何かあれば、何時でもオレを頼れ。あと出来るだけ早く借りを返したいから、お前の身に何かが起こることを心から祈っている。」
まったく春木沢らしい、それは照れ隠しであった。
そう言うと、その場を立ち去るのである。
唖然として立ち尽くす教授を前に、全く動じることも無く、それは少しの笑顔とともに。
この頃になると、生徒会こと「学生室」という異様な組織の全容が見えてきていた。
それは一般の高校にあるような生徒会とは全く異質なものであった。
学生課の一部署として、部屋が割り当てられているだけではない。
その身分事態が、既に正式な軍人として扱われていた。
階級は「中尉相当」という破格の待遇である。
この学校を卒業して、約9ヶ月は陸軍士官候補生学校での基礎を学び、更に3ヶ月後に晴れて少尉任官というのが一般的である。
中尉ともなると、士官学校卒業から2年経過しなければ昇任せず、結果、龍二は6年分の階級序列を一気に飛び越えたこととなる。
これには学校中が驚きをもって受け止めた。
この制度は、将来の国軍トップをも見据えた特殊人事であり、もちろん前代未聞である。
本来であれば、そんな人事に反発が出たり、異を唱える勢力もあったであろう。
それ故に、学校長はこの制度を発効出来ないでいたのである。
そこへあの、カリスマ的自衛官、三枝啓一の出現、新国立競技場での死闘、そしてその弟の入学、その後の英雄的エピソード、これらは学校としてもまさに渡りに船であった。
もちろん継続的に、このような英雄的人物の出現を期待したものではない。
本来は、卒業後の優秀な人物を士官候補生学校卒業の後、中尉待遇で室長を任せるというコンセプトであったようである。 今回は、テストパターンとしての発令であり、またこれが、この制度の悩みの種とも言えた。
学生室には、龍二を長とし、他の学生に割り当てられた役職が4席、そして事務を担当する事務官と職員、技官が一人づつ配置され、内線とシステム回線まで専属に割り当てられるという徹底ぶりである。
階級は中尉であるものの、役職は科長クラス同等であり、大尉から少佐級の任務と言える。
この「学生室」には、担当助教も割り当てがあり、部下としてではないものの、部活の顧問のような立ち位置であった。
そんな担当助教には、やはり北条曹長が当てられ、生徒会が万一暴走しそうになった場合の「鈴」の役割も含まれていた。
鳴るかどうかは全く別として。
正式な軍人となった龍二には、修学の他、室長会議への参加や、いくつかの公務も任務付与されていた。
まさに学生であり、軍人であり、国防大学校職員でもある。
しかし、この中尉相当官制度の本当の意味を知る者は、この校内には存在していない。
それは今後起こるであろう、世界情勢を睨んだ特殊人事であることは、当の学校長へも知らされていない特別軍事機密に該当するのである。
「三枝学生、生徒会長、兼ねて訓練部学生課学生室長を命ずる。なお、本役職は特定校友会委員会及び部活動、同好会への入部を禁止する。いいね。君は学生の中にあっても、軍隊の中にあっても常に中立であることを要求される。従ってこれは絶対条件だよ、いいね。」
一瞬、祝賀ムードだった会場に、動揺が走った。
それは、龍二を狙っていた各部の上級生達の落胆と動揺である。
その中でも、一番慌てたのは、他ならぬ城島であった。
固まったままの城島、そんな二人を見て、右往左往する優、そして笑いを堪えて静観する幸。
龍二は学校長に、その条件に対し質問をする。
「特定の部、でなければ良いのですね。」
「ああ、中立が条件だよ。」
固まっていた城島の脳裏に、閃きの光が注した、そう、特定でなければいいのである。
「三枝、特定でなければいいんだよな、そういうことでいいんだよな。」
「ああ、そういうことだ」
つまり、今の龍二は、極端な話をすれば、全ての部に入らないか、全ての部に入部することで、その中立を果たすことができるという捉え方であった。
「特定」でなければよいのだから。
この日以来、三枝龍二は弱小部に対する強烈な助っ人として奔走する日々が始まるのである。
臨時集会の会場から隊舎へと帰路に付きながら、城島は龍二にしつこく迫るのである。
「三枝、当然サッカー部は優先してくれるんだよな!」
「ああ、サッカー部は特別に扱う。」
不思議そうな顔をする優が聞く。
「あれ、中立が条件じゃなかったっけ?」
「ああ、中立だが、親友の城島がいる部だからな、少しくらいならいいだろう。」
この意外すぎる発言に城島は一瞬言葉を失った。
「親友」・・・
そんな風に言われたことも無かったが、この好敵手でもある龍二の口から、それが出てきたのである。
まるで告白された少女のように、顔を赤く染めながら明らかに動揺する城島を見て、幸は更に笑いを堪えるのである。
その日以来、城島は相変わらずぶっきらぼうな表情のままではあるが、何故か妙に龍二に差し入れを持ってきたり、おごったりするようになった。
しかし、当の龍二は、なぜ急に城島がおごってくれるようになったのかが全く理解できないでいた。
龍二がそれを問いただすと、城島は少し笑ってこう言うのである。
「だってお前は親友なんだろ。」
と。
春木沢が復学した。
それでもあの日から一週間後のこととなった。
彼は以前と何ら変わりなく、相変わらず剛胆である。
そしてもちろん、真っ先に向かったのは龍二の所へである。
講義中の部屋に、それもまたいつもの如く何も気にすることなく、ズカズカと教場へ入ってこう言った。
「三枝、・・・今回の事で礼は言わんぞ。だが、だがしかし、これは借りとして覚えておく。お前の身に何かあれば、何時でもオレを頼れ。あと出来るだけ早く借りを返したいから、お前の身に何かが起こることを心から祈っている。」
まったく春木沢らしい、それは照れ隠しであった。
そう言うと、その場を立ち去るのである。
唖然として立ち尽くす教授を前に、全く動じることも無く、それは少しの笑顔とともに。
この頃になると、生徒会こと「学生室」という異様な組織の全容が見えてきていた。
それは一般の高校にあるような生徒会とは全く異質なものであった。
学生課の一部署として、部屋が割り当てられているだけではない。
その身分事態が、既に正式な軍人として扱われていた。
階級は「中尉相当」という破格の待遇である。
この学校を卒業して、約9ヶ月は陸軍士官候補生学校での基礎を学び、更に3ヶ月後に晴れて少尉任官というのが一般的である。
中尉ともなると、士官学校卒業から2年経過しなければ昇任せず、結果、龍二は6年分の階級序列を一気に飛び越えたこととなる。
これには学校中が驚きをもって受け止めた。
この制度は、将来の国軍トップをも見据えた特殊人事であり、もちろん前代未聞である。
本来であれば、そんな人事に反発が出たり、異を唱える勢力もあったであろう。
それ故に、学校長はこの制度を発効出来ないでいたのである。
そこへあの、カリスマ的自衛官、三枝啓一の出現、新国立競技場での死闘、そしてその弟の入学、その後の英雄的エピソード、これらは学校としてもまさに渡りに船であった。
もちろん継続的に、このような英雄的人物の出現を期待したものではない。
本来は、卒業後の優秀な人物を士官候補生学校卒業の後、中尉待遇で室長を任せるというコンセプトであったようである。 今回は、テストパターンとしての発令であり、またこれが、この制度の悩みの種とも言えた。
学生室には、龍二を長とし、他の学生に割り当てられた役職が4席、そして事務を担当する事務官と職員、技官が一人づつ配置され、内線とシステム回線まで専属に割り当てられるという徹底ぶりである。
階級は中尉であるものの、役職は科長クラス同等であり、大尉から少佐級の任務と言える。
この「学生室」には、担当助教も割り当てがあり、部下としてではないものの、部活の顧問のような立ち位置であった。
そんな担当助教には、やはり北条曹長が当てられ、生徒会が万一暴走しそうになった場合の「鈴」の役割も含まれていた。
鳴るかどうかは全く別として。
正式な軍人となった龍二には、修学の他、室長会議への参加や、いくつかの公務も任務付与されていた。
まさに学生であり、軍人であり、国防大学校職員でもある。
しかし、この中尉相当官制度の本当の意味を知る者は、この校内には存在していない。
それは今後起こるであろう、世界情勢を睨んだ特殊人事であることは、当の学校長へも知らされていない特別軍事機密に該当するのである。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
もうダメだ。俺の人生詰んでいる。
静馬⭐︎GTR
SF
『私小説』と、『機動兵士』的小説がゴッチャになっている小説です。百話完結だけは、約束できます。
(アメブロ「なつかしゲームブック館」にて投稿されております)
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる