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第25話 臨時集会
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そしてこの後、学校側との激しい動乱が予想されていたが、それはまた意外な方向へと進むのである。
それは、その臨時集会の現場に訪れた「学校長」の口から述べられたのである。
「君たちの仲間を思う気持ちに触れる事が出来た。今日は良い収穫だ。北条君、君も彼らに力を貸してあげてほしい。」
会場にいた全学生が唖然とした。
普段、学校長が現場までこれほどフランクに訪問すること事態が珍しいことでもあったが、この秘密集会に対し、もっと激昂するものと考えていただけに、このときの学校長の発言は、学生たちをざわめかせた。
しかし、その真意は次ぎの発言により多くの者に理解された。
学校長は静かに講堂の後方より階段を下り、ステージ上へと進んだ。
そしてマイクを使い、丁寧な言葉で学生たちに語り始めるのである。
「私は兼ねてから考えていた制度を、あえて今、実行に移す時期が来たと考えている。国防大学校は、これまで以上に団結と組織化を強化しなくてはならない。将来の、この国を背負って立てる人物を育成しなければならない。しかし、それにはとてつもない覚悟が必要となる。多くの者はこの学校を受験するにあたり相当の覚悟をしていると思う。しかし今三枝学生が述べたように、本気で仲間を思い、そのために何かを犠牲にする事が出来る人間は少ないだろう。三枝学生、君は北条君がこの場に訪れなければ、この混乱をどう鎮めようとしていたのかな?」
学校長の、全てを見透かしたようなこの言葉に、城島と北条は少し焦った表情をしていた。
しかし、この男はそんな状況を、何とも思っていないように堂々とこう言うのである。
「私は、私の現在取り得る全ての責任を擲ってでも、春木沢先輩を救うつもりです。丁度学校長も居られることですから、ここで私の決意を表明いたします。春木沢先輩の処分をお考えであれば、私の学生としての身分を学校長へお預けしますので、それと引き替えに、処分を取り下げて頂きたいと考えております。」
ああ、ついに言ってしまった、と城島と北条は思った。
そんな二人に気付いていながら、学校長はにこやかな表情を変化させることは無かった。
そして学校長は、満を持してこう話すのである。
「三枝学生、君が私に話したことに、嘘偽りは一切無いことを誓えるか?」
「はい、決意は固く、清々しささえ感じています。」
そこへ城島が割って入る。
「待ってください学校長、三枝は少々自暴自棄になっているのだと思われます。もう少し待ってもらえませんか?」
優しかった学校長の表情が少し険しくなり、城島に問いただす。
「それでは君は、三枝学生の決意に緩みや歪みを感じるのか?君は友人を信じられないというのかね。」
「そんなことはありません、同期として、友人として、三枝を全面的に支持します。そして、三枝の処分があるなら、私も首謀者の一人として同様の処分を望むところです。」
今度は龍二が割って入る。
「城島、よせ、お前こそ自暴自棄だぞ。俺に気兼ねなんてするな。」
「俺は、お前がいる国防大学校に用があって入学したんだ、お前が居なかったらここには用がねえよ。」
・・・友人がいる、親友と呼べる男がここにいる。
全校生徒がいるそのステージ上で、こんなにも歯の浮きそうなことを、躊躇も無く言える城島という男に、龍二は少し感動すら覚えるのである。
そして龍二は、ここにも自分と同じような人間がいるということを理解し、それ以上の発言を避けた。
その替わりに、学校長が納得をしたようにこう告げた。
「なるほど、君たちの決意は固い、そして友情も固い。そこまで言うなら、私から一つ提案がある。三枝学生、私が提唱する学生室構想を成功させること。そして初代学生室長は三枝学生、君が就任すること。これが春木沢学生を復学させる条件だ。役員人事は君に一任するが、まあ、この辺のメンバーになるんだろうね。」
そういうと学校長は再びにこやかな表情に戻った。
「しかし、国防大学校には学生の自主性を尊重するための校友会が既に存在しますが、この学生室というのは校友会ではだめですか?そして4学年の先輩が、学生会長をされていますが。」
「そうだね、その通りだよ。これは通常の学生主体の活動ではない。学内における一つの部署と同等の位置づけとなる。訓練部学生課や最先任上級曹長室のように、一つの部屋を設けた部署となる。生徒会と部課室を併せ持ち、その間を取り仕切る役割だね。この部署の室長となるんだよ君が。この話を聞いている諸君等に問う。三枝学生より自らこそが相応しいと考える者は、この場で申し出るように。」
しかし控えめな日本人の集合体であるこの会場内に、そのように割って入れる者が居るはずもない。
あえて言うなら、徳川幸や雷条であれば、また名乗り出たかもしれない。
しかしその場に居合わせた学生の大半は、この恥ずかしい友情劇と、学校長からもたらされた学生室の内容に、心から同意できるものであった。
そんな静寂の中、唯一挙手をして立ち上がり発言したのは、現学校友会長であった。
「私は、賛同します。時局が新たな時代を迎える中、三枝学生の兄は毅然と自分の意志を世界に示し、世論を変える事が出来た。我々一般学生がおおよそ想像もつかない発想とリーダーシップを、この三枝学生の中にも私は感じることが出来ました。」
そして校友会長は反転し振り返ると、今度は全校学生に対しこう述べた。
「これより、何か異議のある者あらば、校友会長の名にかけて、その学生を卑怯者として扱う。各学生隊長はこれに賛同願いたい。今異議のあるものの発言を学校長が求められて何も発言がなく、後から文句を言い出す人間に、国軍将校たる資格はない。従って、これは全学生の総意として学校長へ進言する。学校長、本件に同意します。」
そう言い終えると、会場から拍手がわき起こった。
もはや、この制度発足に対し、三枝龍二を初代室長となることに、反感を持つ学生は皆無となっていた。
そしてまた、この校友会長も、今後遺恨を残さず、龍二に存分に活躍出来る基盤を作り出したのである。
城島も照れながら龍二に囁いた。
「やったな三枝、これで色々あったけど、全部チャラだな。まあ俺はお前を許したわけではないがな。」
そう、実はこの時、城島はまだ龍二と少々距離を置いていたのである。
春木沢との一騎打ちの時を含め、この日まで、龍二はまだ特定の部活への入部が出来ない状態は継続していた。
それは剣道にせよサッカーにせよ、あまりに有名人な彼を欲する部は他にも多岐にわたり、もはや飽和状態ですらあった。 そして、春木沢の決闘騒動以降、状況は正に降着状態と言ってよかった。
そんな煮え切らない学校と龍二の状態に、早々にサッカー部へ入部し、頭角を表す城島や雷条、そしてかつての仲間たちを横目に、ただ距離が開いていくような現状に、不満が爆発した格好となっていた。
そんな中のことであり、城島はこの騒動が収集すれば、当然龍二がサッカー部へ進むものと考えていたのである。しかし学校長は、龍二の室長就任には一つ条件を課していたのである。
それは、その臨時集会の現場に訪れた「学校長」の口から述べられたのである。
「君たちの仲間を思う気持ちに触れる事が出来た。今日は良い収穫だ。北条君、君も彼らに力を貸してあげてほしい。」
会場にいた全学生が唖然とした。
普段、学校長が現場までこれほどフランクに訪問すること事態が珍しいことでもあったが、この秘密集会に対し、もっと激昂するものと考えていただけに、このときの学校長の発言は、学生たちをざわめかせた。
しかし、その真意は次ぎの発言により多くの者に理解された。
学校長は静かに講堂の後方より階段を下り、ステージ上へと進んだ。
そしてマイクを使い、丁寧な言葉で学生たちに語り始めるのである。
「私は兼ねてから考えていた制度を、あえて今、実行に移す時期が来たと考えている。国防大学校は、これまで以上に団結と組織化を強化しなくてはならない。将来の、この国を背負って立てる人物を育成しなければならない。しかし、それにはとてつもない覚悟が必要となる。多くの者はこの学校を受験するにあたり相当の覚悟をしていると思う。しかし今三枝学生が述べたように、本気で仲間を思い、そのために何かを犠牲にする事が出来る人間は少ないだろう。三枝学生、君は北条君がこの場に訪れなければ、この混乱をどう鎮めようとしていたのかな?」
学校長の、全てを見透かしたようなこの言葉に、城島と北条は少し焦った表情をしていた。
しかし、この男はそんな状況を、何とも思っていないように堂々とこう言うのである。
「私は、私の現在取り得る全ての責任を擲ってでも、春木沢先輩を救うつもりです。丁度学校長も居られることですから、ここで私の決意を表明いたします。春木沢先輩の処分をお考えであれば、私の学生としての身分を学校長へお預けしますので、それと引き替えに、処分を取り下げて頂きたいと考えております。」
ああ、ついに言ってしまった、と城島と北条は思った。
そんな二人に気付いていながら、学校長はにこやかな表情を変化させることは無かった。
そして学校長は、満を持してこう話すのである。
「三枝学生、君が私に話したことに、嘘偽りは一切無いことを誓えるか?」
「はい、決意は固く、清々しささえ感じています。」
そこへ城島が割って入る。
「待ってください学校長、三枝は少々自暴自棄になっているのだと思われます。もう少し待ってもらえませんか?」
優しかった学校長の表情が少し険しくなり、城島に問いただす。
「それでは君は、三枝学生の決意に緩みや歪みを感じるのか?君は友人を信じられないというのかね。」
「そんなことはありません、同期として、友人として、三枝を全面的に支持します。そして、三枝の処分があるなら、私も首謀者の一人として同様の処分を望むところです。」
今度は龍二が割って入る。
「城島、よせ、お前こそ自暴自棄だぞ。俺に気兼ねなんてするな。」
「俺は、お前がいる国防大学校に用があって入学したんだ、お前が居なかったらここには用がねえよ。」
・・・友人がいる、親友と呼べる男がここにいる。
全校生徒がいるそのステージ上で、こんなにも歯の浮きそうなことを、躊躇も無く言える城島という男に、龍二は少し感動すら覚えるのである。
そして龍二は、ここにも自分と同じような人間がいるということを理解し、それ以上の発言を避けた。
その替わりに、学校長が納得をしたようにこう告げた。
「なるほど、君たちの決意は固い、そして友情も固い。そこまで言うなら、私から一つ提案がある。三枝学生、私が提唱する学生室構想を成功させること。そして初代学生室長は三枝学生、君が就任すること。これが春木沢学生を復学させる条件だ。役員人事は君に一任するが、まあ、この辺のメンバーになるんだろうね。」
そういうと学校長は再びにこやかな表情に戻った。
「しかし、国防大学校には学生の自主性を尊重するための校友会が既に存在しますが、この学生室というのは校友会ではだめですか?そして4学年の先輩が、学生会長をされていますが。」
「そうだね、その通りだよ。これは通常の学生主体の活動ではない。学内における一つの部署と同等の位置づけとなる。訓練部学生課や最先任上級曹長室のように、一つの部屋を設けた部署となる。生徒会と部課室を併せ持ち、その間を取り仕切る役割だね。この部署の室長となるんだよ君が。この話を聞いている諸君等に問う。三枝学生より自らこそが相応しいと考える者は、この場で申し出るように。」
しかし控えめな日本人の集合体であるこの会場内に、そのように割って入れる者が居るはずもない。
あえて言うなら、徳川幸や雷条であれば、また名乗り出たかもしれない。
しかしその場に居合わせた学生の大半は、この恥ずかしい友情劇と、学校長からもたらされた学生室の内容に、心から同意できるものであった。
そんな静寂の中、唯一挙手をして立ち上がり発言したのは、現学校友会長であった。
「私は、賛同します。時局が新たな時代を迎える中、三枝学生の兄は毅然と自分の意志を世界に示し、世論を変える事が出来た。我々一般学生がおおよそ想像もつかない発想とリーダーシップを、この三枝学生の中にも私は感じることが出来ました。」
そして校友会長は反転し振り返ると、今度は全校学生に対しこう述べた。
「これより、何か異議のある者あらば、校友会長の名にかけて、その学生を卑怯者として扱う。各学生隊長はこれに賛同願いたい。今異議のあるものの発言を学校長が求められて何も発言がなく、後から文句を言い出す人間に、国軍将校たる資格はない。従って、これは全学生の総意として学校長へ進言する。学校長、本件に同意します。」
そう言い終えると、会場から拍手がわき起こった。
もはや、この制度発足に対し、三枝龍二を初代室長となることに、反感を持つ学生は皆無となっていた。
そしてまた、この校友会長も、今後遺恨を残さず、龍二に存分に活躍出来る基盤を作り出したのである。
城島も照れながら龍二に囁いた。
「やったな三枝、これで色々あったけど、全部チャラだな。まあ俺はお前を許したわけではないがな。」
そう、実はこの時、城島はまだ龍二と少々距離を置いていたのである。
春木沢との一騎打ちの時を含め、この日まで、龍二はまだ特定の部活への入部が出来ない状態は継続していた。
それは剣道にせよサッカーにせよ、あまりに有名人な彼を欲する部は他にも多岐にわたり、もはや飽和状態ですらあった。 そして、春木沢の決闘騒動以降、状況は正に降着状態と言ってよかった。
そんな煮え切らない学校と龍二の状態に、早々にサッカー部へ入部し、頭角を表す城島や雷条、そしてかつての仲間たちを横目に、ただ距離が開いていくような現状に、不満が爆発した格好となっていた。
そんな中のことであり、城島はこの騒動が収集すれば、当然龍二がサッカー部へ進むものと考えていたのである。しかし学校長は、龍二の室長就任には一つ条件を課していたのである。
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