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小原台の1期生
第14話 徳川幸ファンクラブ会長「東海林 涼子」
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結局、鎌倉聖花学院には、龍二、優、城島、幸の4人で行くことになったのである。
国防大学校は原則外出は制服であったため、民間人にはこの4人が凸凹な仲の良いグループに見えたことだろう。
同じ制服に、よく見れば4人とも極端に整った顔立ち。
龍二も無表情ながら、古風で面長な顔立ちは、この制服に大変良く合っていた。
また意外にも、サッカー一筋で来ていた城島も、スポーツマンらしい体つきに日焼けした顔、スポーツ刈がいかにも軍人らしく、言葉を発しなければ立派な軍人に見えるほどである。
「なあ、俺たち、なんだか目立ってないか」
龍二がそう呟くと、あきれ顔で彼らは答えた
「そりゃこの制服、今日の日本では異質だからなあ。地元の人でもやっぱり珍しいんじゃないか」
結局のところ、自分たちの見た目のレベルの高さに気付いているのは4人の中で一人も存在していない。
何とも勿体ないグループなのである。
すれ違う女子高生達などは、交差してかから息を潜め、10mも進んでから
「ねえ、今の見た」
「見た!なんか、すごいの見た」
「え、ドッキリじゃないよね、どこかにカメラとかある?、俳優さん?」
といったやり取りが、その都度行われていることに、この勿体ないグループは全く気付かずに通過してゆくのである。
そんなグループが鎌倉聖花学院に向かっていることは、「徳川 幸ファンクラブ」の情報網が早期にキャッチしていたのである。
「あの、俺やっぱり今日は遠慮するよ」
龍二が急にそんなことを言い出した。
当初は何わがまま言っているんだとみんなは思ったが、何時になくやや赤面し、歯切れの悪い龍二を見て、幸の、それは「女の感」に何か来るものがあったのだ。
そして彼女のサディスティックな部分が、いたずら心と共にムクムクと起き始めていた。
「なんだ~、三枝、おまえひょっとして鎌倉聖花に 想い人でもいるのか~」
本当に言葉を発しなければ美少女なのに、どうしてこの子は口と顔が合っていないんだろうと、優と城島は思った。
しかし、龍二の意外なリアクションに、優と城島は新鮮な驚きをもって、やはり好奇心と悪戯心に火がついていたのである。
「いや、まさかそんな。剣術とサッカーに明け暮れていた俺に、そんな話があるはずもない」
そんな棒読みな回答を聞きつつ、いやいや、やはり戦国武将みたいな、変なやり取りだぞ、と二人は思うのである。
この時、龍二は「三枝 澄」とのことを思い出していた。
試合が終わったあの日のことを。
澄に抱かれながら、ゆっくりとした時間を共有した後、龍二は不覚にも、そのまま澄の胸の中で眠ってしまうのである。
もちろん本人にとっても予想外な展開であった。
しかし、その日に起こった全ての事象を考えてみれば、身体の疲労と、精神的緊張とで限界を越えていたに違いない。
兄のことで、それらが全て後回しとなり、澄の所で安心によりスイッチがオフとなってしまったようである。
しかし、これは澄にとっても最愛の人を亡くした日の夜に、気持ちを紛らわす良い材料でもあった。
本当は悲しみで、胸が押しつぶされそうだった彼女の心は、この大きな弟の訪問により、いくらか癒されたのである。
しかも、龍二は他の人の前では絶対に見せない「油断」した姿を、自分だけには見せてしまうというこの事実がまた、悲しみを共有する仲間として、家族として、思わず愛情を注がずにはいられないのである。
激闘を伺わせる砂混じりの頭を撫でながら、彼女はじっと顔を見つめながら、納得のゆくまで、いつまでもそうしていた。
龍二が次に目を覚ますのは、澄の家の別室のベッドの上である。
澄は既に、職場である鎌倉聖花学院に出勤したあとであり、龍二はばつの悪い顔で家政婦に深く頭を下げると、電話を借り自宅へ電話をかけ、兄の件を父親と話し帰路についた。
本来であれば、一度は澄の元を訪れ、あの日の晩のことにお礼なりお詫びなりするのが礼儀であることは十分承知のことであったが、啓一の葬儀の時を含め、あまりの恥ずかしさに、とても面と向かって会うことが出来ず、とうとう5月になってしまっていた。
そんな最中の鎌倉聖花訪問である。
あらゆる点において龍二にとっては不利な訪問である。
しかし武家の出身である龍二にとって、高校卒業や防大入学のことも直接報告もしていない後ろめたさもあり、きっぱりと断ることができず、珍しく優柔不断な態度をとるのである。
「会長!詰め襟制服の男性4名がこちらに向かっています」
徳川幸ファンクラブの見張り役が、双眼鏡を片手に現生徒会長、東海林 涼子(しょうじ りょうこ)へ報告した。
「男性ですって?幸様のご来訪予定のこんな大事な時に、何だって男なんてこちらに来るんですの?ちょっと貸しなさい」
そう言うと涼子は双眼鏡でその男性陣を確認した。
そして不機嫌そうだった顔は、その縦髪ロールの豊かな髪をなびかせながら、見る見るバラ色に染まってゆくのである。
そして息を吸い込むように小さな悲鳴に似た声を上げ
「・・あれは、あれは幸様、幸様が殿方に・・」
双眼鏡で確認した他の女子学生達も、同様に息を飲むように悲鳴を上げた。
特に東海林 涼子は少し震えながら、再びこう叫ぶのである。
「幸様が、殿方となって再びご降臨なされましたわ!」
ファンクラブ一同が、どっと沸きあがる。
土煙を上げながら歓喜の声を上げ、ただ右往左往して近づく四人を見つめている。
「私の幸様が、幸様が男性に、ああなんて神々しい、神よ、ありがとうございます!私たちの願いを聞き届けていただいて」
そう言うと、キラキラした瞳を輝かせながら、再び幸の方向を見る。
もはや双眼鏡なしでも、幸本人であることが確認出来る距離であった。
この現生徒会長である東海林 涼子と徳川 幸は、一年違いの先輩後輩の仲であり、共に演劇部員である。
幸の凛々しい姿は、女子校にあって男役の似合う校内のスター的存在であった。
対して東海林 涼子の方は、縦髪ロールに少し小さめの身体と顔、なつかしの少女マンガもびっくりな容姿から、幸の男役の相手をする事が多く、彼女もまた幸とは別の意味で校内の人気を集めるカリスマであった。
ただ一つ、この二人での違いは、幸にはファンクラブが存在するが、涼子の人気はその少女的な姿と相反した実行力、統率力、家柄などから来る尊敬であり、ファンクラブが出来ると言う事はなかった。
先ほど見張りの女子が叫んだ「会長」というのは、生徒会長という意味の他、「ファンクラブ会長」という両方の意味があった。
「おお、東海林、どうしたんだ校門なんかで」
幸がそう言うと、先ほどまで慌てていたファンクラブの群衆が、きちんと整列して、幸達一行を迎えていた。
国防大学校は原則外出は制服であったため、民間人にはこの4人が凸凹な仲の良いグループに見えたことだろう。
同じ制服に、よく見れば4人とも極端に整った顔立ち。
龍二も無表情ながら、古風で面長な顔立ちは、この制服に大変良く合っていた。
また意外にも、サッカー一筋で来ていた城島も、スポーツマンらしい体つきに日焼けした顔、スポーツ刈がいかにも軍人らしく、言葉を発しなければ立派な軍人に見えるほどである。
「なあ、俺たち、なんだか目立ってないか」
龍二がそう呟くと、あきれ顔で彼らは答えた
「そりゃこの制服、今日の日本では異質だからなあ。地元の人でもやっぱり珍しいんじゃないか」
結局のところ、自分たちの見た目のレベルの高さに気付いているのは4人の中で一人も存在していない。
何とも勿体ないグループなのである。
すれ違う女子高生達などは、交差してかから息を潜め、10mも進んでから
「ねえ、今の見た」
「見た!なんか、すごいの見た」
「え、ドッキリじゃないよね、どこかにカメラとかある?、俳優さん?」
といったやり取りが、その都度行われていることに、この勿体ないグループは全く気付かずに通過してゆくのである。
そんなグループが鎌倉聖花学院に向かっていることは、「徳川 幸ファンクラブ」の情報網が早期にキャッチしていたのである。
「あの、俺やっぱり今日は遠慮するよ」
龍二が急にそんなことを言い出した。
当初は何わがまま言っているんだとみんなは思ったが、何時になくやや赤面し、歯切れの悪い龍二を見て、幸の、それは「女の感」に何か来るものがあったのだ。
そして彼女のサディスティックな部分が、いたずら心と共にムクムクと起き始めていた。
「なんだ~、三枝、おまえひょっとして鎌倉聖花に 想い人でもいるのか~」
本当に言葉を発しなければ美少女なのに、どうしてこの子は口と顔が合っていないんだろうと、優と城島は思った。
しかし、龍二の意外なリアクションに、優と城島は新鮮な驚きをもって、やはり好奇心と悪戯心に火がついていたのである。
「いや、まさかそんな。剣術とサッカーに明け暮れていた俺に、そんな話があるはずもない」
そんな棒読みな回答を聞きつつ、いやいや、やはり戦国武将みたいな、変なやり取りだぞ、と二人は思うのである。
この時、龍二は「三枝 澄」とのことを思い出していた。
試合が終わったあの日のことを。
澄に抱かれながら、ゆっくりとした時間を共有した後、龍二は不覚にも、そのまま澄の胸の中で眠ってしまうのである。
もちろん本人にとっても予想外な展開であった。
しかし、その日に起こった全ての事象を考えてみれば、身体の疲労と、精神的緊張とで限界を越えていたに違いない。
兄のことで、それらが全て後回しとなり、澄の所で安心によりスイッチがオフとなってしまったようである。
しかし、これは澄にとっても最愛の人を亡くした日の夜に、気持ちを紛らわす良い材料でもあった。
本当は悲しみで、胸が押しつぶされそうだった彼女の心は、この大きな弟の訪問により、いくらか癒されたのである。
しかも、龍二は他の人の前では絶対に見せない「油断」した姿を、自分だけには見せてしまうというこの事実がまた、悲しみを共有する仲間として、家族として、思わず愛情を注がずにはいられないのである。
激闘を伺わせる砂混じりの頭を撫でながら、彼女はじっと顔を見つめながら、納得のゆくまで、いつまでもそうしていた。
龍二が次に目を覚ますのは、澄の家の別室のベッドの上である。
澄は既に、職場である鎌倉聖花学院に出勤したあとであり、龍二はばつの悪い顔で家政婦に深く頭を下げると、電話を借り自宅へ電話をかけ、兄の件を父親と話し帰路についた。
本来であれば、一度は澄の元を訪れ、あの日の晩のことにお礼なりお詫びなりするのが礼儀であることは十分承知のことであったが、啓一の葬儀の時を含め、あまりの恥ずかしさに、とても面と向かって会うことが出来ず、とうとう5月になってしまっていた。
そんな最中の鎌倉聖花訪問である。
あらゆる点において龍二にとっては不利な訪問である。
しかし武家の出身である龍二にとって、高校卒業や防大入学のことも直接報告もしていない後ろめたさもあり、きっぱりと断ることができず、珍しく優柔不断な態度をとるのである。
「会長!詰め襟制服の男性4名がこちらに向かっています」
徳川幸ファンクラブの見張り役が、双眼鏡を片手に現生徒会長、東海林 涼子(しょうじ りょうこ)へ報告した。
「男性ですって?幸様のご来訪予定のこんな大事な時に、何だって男なんてこちらに来るんですの?ちょっと貸しなさい」
そう言うと涼子は双眼鏡でその男性陣を確認した。
そして不機嫌そうだった顔は、その縦髪ロールの豊かな髪をなびかせながら、見る見るバラ色に染まってゆくのである。
そして息を吸い込むように小さな悲鳴に似た声を上げ
「・・あれは、あれは幸様、幸様が殿方に・・」
双眼鏡で確認した他の女子学生達も、同様に息を飲むように悲鳴を上げた。
特に東海林 涼子は少し震えながら、再びこう叫ぶのである。
「幸様が、殿方となって再びご降臨なされましたわ!」
ファンクラブ一同が、どっと沸きあがる。
土煙を上げながら歓喜の声を上げ、ただ右往左往して近づく四人を見つめている。
「私の幸様が、幸様が男性に、ああなんて神々しい、神よ、ありがとうございます!私たちの願いを聞き届けていただいて」
そう言うと、キラキラした瞳を輝かせながら、再び幸の方向を見る。
もはや双眼鏡なしでも、幸本人であることが確認出来る距離であった。
この現生徒会長である東海林 涼子と徳川 幸は、一年違いの先輩後輩の仲であり、共に演劇部員である。
幸の凛々しい姿は、女子校にあって男役の似合う校内のスター的存在であった。
対して東海林 涼子の方は、縦髪ロールに少し小さめの身体と顔、なつかしの少女マンガもびっくりな容姿から、幸の男役の相手をする事が多く、彼女もまた幸とは別の意味で校内の人気を集めるカリスマであった。
ただ一つ、この二人での違いは、幸にはファンクラブが存在するが、涼子の人気はその少女的な姿と相反した実行力、統率力、家柄などから来る尊敬であり、ファンクラブが出来ると言う事はなかった。
先ほど見張りの女子が叫んだ「会長」というのは、生徒会長という意味の他、「ファンクラブ会長」という両方の意味があった。
「おお、東海林、どうしたんだ校門なんかで」
幸がそう言うと、先ほどまで慌てていたファンクラブの群衆が、きちんと整列して、幸達一行を迎えていた。
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