決戦の夜が明ける ~第3堡塁の側壁~

独立国家の作り方

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小原台の1期生

第10話 あの決勝の日を境に

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 龍二達3年生は、あの決勝の日を境に受験モードに突入していた。
 元々サッカーの名門では無かった北勢高校イレブンは、プロへの志望は少なく、進学校らしく学業の地盤も固められていたのである。
 ただし、その進学先には大きな変化が生じていたのである。

「三枝君、勉強はすすんでる?」

 同じサッカー部であり旧知でもある如月優が話しかけてくる。
 龍二は常に成績優秀、スポーツ万能の天才タイプではあるが、兄とは真逆に、周囲に人を寄せ付けない独特の雰囲気を出していた。
 そんな中、気軽に声をかけてくる唯一の存在が如月優である。
 その見た目は色白で、身体の線も細く、どこか弱々しく儚げな姿は、龍二とは対象的である。
 その中性的な見た目と、病気がちな体に反し、運動能力は比較的高く、隠れた女子のファンが多い。
 しかし、このタイプの男性に惹かれる女子は、自分の想いを主張する事がないのが常であり、結果、如月優自信も、自分がモテない男子だと勘違いをしているのである。
 それは三枝龍二も全くの同様であり、この二人のツーショットは、隠れファンの間では話題の的となっていた。
 そんなファンの間に動揺が走ったのは、この二人の進学先が、校内で知れることになった時である。
 その噂は、女子の間を矢の如く速やかに駆け抜けていった。

「ねえ、あの噂聞いた?」
「え、何」
「三枝・如月コンビ、同じ大学受験するらしいよ」
「え、そうなの?、、、っていうかそれ友情?」
「で、どこなの?」
「三枝君のお兄さんと同じ学校だって」
「お兄さんって、、、ドグミス玉砕の?、、ってことは、防衛大学校?」
「なんか、来年から国防大学校って名前に変わるらしいよ」

 ・・・女子のトークにしては内容が渋い気がするものの、横浜在住で、あの三枝兄弟の一大事を目の当たりにしてきた同級生女子にとっては、案外身近なテーマとも言える。
 そして、彼女たちの会話にあったように、防衛省直轄の防衛大学校は、その母体である防衛省自衛隊の「国防総省 国軍」化に伴い、名称が次年度より「国防大学校」へと改称されることが決まっているのである。

 今年度受験生は合格すれば自動的に第1期入校生となる。

 自衛隊の解体と国防軍の新設、これは公にはあのドグミス玉砕による国民世論の変化が大きく影響していると言われているものの、これだけ大きな組織が短い期間で組織改編されることも考えにくく、事実上このドグミス事案を上手に利用されたというところが真相である。
 日本と日本を含む新国連軍加盟国の軍事的実状は、もはや団結してこの条約軍との戦いに準備をしなければならない状況へと追い込まれていたのである。
 そして日本も、もはや軍隊ではない「自衛隊」という枠組みの中で、軍事を運用できる状態は、とっくの昔に破綻していたのである。

 そんな矢先のドグミス玉砕事件である。

 国民は遠い国の戦争だと考えていたこれら現実を、一気にリアルなものへと知るのである。
 
 この時代、この改変に対し異論を唱える日本国民はごく一部となっていた。
 それは、日本に国防軍が存在すると困る事情のある勢力のみであった。

 そんな情勢の最中である、学校内でも話題の二人の進路が、おおよその期待の裏切りよりによって、あの国防大学校というニュースである。
 一番衝撃を受けたのは、同じ大学に進学できるレベルの女子達であった。
 彼女らの中には、本気で二人が進学する大学が判明する時期まで、志望校をギリギリまで選択しない女子もいたのである。

 そんな女子の失望感など、全く知る由もない二人。

 もちろん国防大学校は完全寄宿舎制の大学校ではあるが、女子にも門徒は開かれている。
 しかしそのカリキュラムの厳しさは、一般的な女子には、かなりハードルが高く、卒業後の国防軍将校としての任務まで考えると、到底一般大学と比較して選択肢には入ってこないのである。

 しかしこの情報は、逆に男子、特にサッカー部員には、人生と国際情勢を真剣に考えるきっかけとなっていた。
 あの日に見た二人の三枝、同じ男として「国防」という使命は、赤の他人が行う異質なものという印象が、これまでは強かった。
 そんな世界に、あのサッカー部主将の三枝が自ら進んで挑もうとしている。
 入学すれば、世間は絶対に黙ってはいないだろう。
 実家の剣道の家元を継いだのも、長男である啓一が幹部自衛官であったことを父親が考慮してであったはずである。
 次男の龍二まで兄と同じ道を進むとなれば、剣道の流派はどうなるんだろう、などと多くの男子学生は考えた。
 それは、あの日の激闘を見た日から、北勢高校の学生だけではなく、日本中の男子高校生の胸に強いメッセージとして刺さったままなのである。
 ドグミスで散った守備隊、約100名の自衛官と共に、陸・海・空自衛隊はその永き歴史に幕を閉じた。

 そんな時代に。
 彼らは悩むのである。
 平和と正義と自身の将来を。
 
 そしてその多くは国防大学校を志願することとなる。
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