自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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太平洋を戦い抜く

第360話 黒い煙

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「北村少佐、待ってください、まだ、まだ何か策があるはずです、私にもう少しだけ時間を頂けませんか?」

「斎藤君、君には世話になったね、そして、桜子を、、、よろしくたのむ、どうか幸せにしてあげてくれ」

 だめだ、北村少佐はもはや出撃以外の選択肢を考えてはいない、そして俺は玲子君にも同意を求めるように彼女の方を向いた。

「お父様、、、、」

 すると、玲子君は北村少佐の胸に、そっと抱きつくと、こう言った。

「どうか、本懐を遂げられますよう、お祈り申し上げます」

 おい、、、何でだよ、君まで北村少佐の出撃に賛成なのか?、何で?

📶『申し訳ありません雄介様、、、お父様は、、北村少佐は、史実では、この戦いで戦死なされているのです。それを変えてしまえば、第3次世界大戦は、再びおかしな時間軸に戻るでしょう、、、、今回の中心座標は、、、北村少佐だったのです」

 そんな、、、そんな事って。

📶『それでは、君は最初から中心座標が北村少佐だと解ってて、娘になっていたってことなのか?、記憶が戻った後も、北村少佐の娘で居続けたのは、その為だったのか?」

 玲子君からの返信は無かった。
 
 北村少佐は、娘である桜子さんに優しい笑顔を向けると、一冊のノートを手渡し、彼女の頭を軽く撫でて、再び軍人の顔に戻った。

「桜子、危険だから離れていなさい」

 艦内通信により、急速に発艦準備が進んで行き、シグナル青が点灯する。

「43甲型2番機、発艦準備よろし、お世話になりました」

 短い別れの言葉に、戦況の緊迫度が現れていた。
 そうしている間も、敵からの砲撃により、艦は右へ左へと激しく揺れている。
 こんな状況で発艦しなければならないなんて!

「北村、、頼んだぞ」

「山本提督、、、日本を、そして海軍を、どうかよろしくお願いします。」

 機内通信は、それを最後に有線が切られ、発艦を知らせるブザーが激しく鳴り響いた。

「お父様!」

 玲子君の叫びが、射出時の激しいカタパルトの摩擦音でかき消された。
 急上昇するジェット戦闘機、甲型は、未だプロペラ機である米軍機との距離を一気に引き離し、垂直上昇へと移行した。
 玲子君は、思わず両手で顔を覆い、愛おしい父の、決死の発艦を直視することが出来なかった。
 そして、5機のP-51ムスタングが北村機に襲いかかる。
 敵艦からも対空機銃が物凄い数で、北村機を襲う。
 そして、薄っすらとではあるが、その後方からマーシャンのタイムマシーンが北村機を追いかけて行く。

「くそ、マーシャンめ、タイムマシーンまで使って抵抗する気か!」

歴戦のパイロットである北村少佐であっても、このP-51とタイムマシーンの追撃では敵艦まで到達は困難だ。
 
「お父様!」
 
 玲子君が再びそう叫んだ直後、北村機から黒い煙が空に軌跡を描き始めた、、、被弾したのだ。

「これでは、北村少佐は無駄死にではないか、なんとかならないのか?」

 俺たちが絶望の表情を浮かべたその時だった。
 北村機の背後にピッタリと回り込んだ1機のP-51が、機銃を発射したその瞬間、タイムマシーン一機が北村機を庇うように二機の間に突っ込んで来た。

「おい、あれは、どっちだ?、シズか?、シズなのか?」

 見ると、さっきまで空中に浮いていたシズの機体がそこには無く、自分の機体を犠牲にして機銃掃射を受けたのが、シズであることを誰もが察した。
 光学偽装が解除されたシズの機体は、同じく黒い煙を吐いて、弱弱しく空中を漂い始めた。

 顔面蒼白になる玲子君、そしてムスキも口に手を当てて震えている。

📶『GF、聞こえますか?、、、GF、私です、シズです」

📶『ああ、聞こえるとも、大丈夫か?、シズ、機体に傷ついていないか?痛くないか?」

📶『えへへ、、、ごめんなさい、GF、ちょっと、、、、あんまり大丈夫じゃないみたい、、、かな」

 おい、何言っているんだシズ、、、、、おい、シズ!
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