自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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「Y号作戦」の発動

第344話 日本の国を、どうか

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 依然、シズとの連絡は取れないでいた。
 それに心を痛めていたのは、ムスキだった。

「妖精さん、大丈夫かなあ?」

「ああ、きっと大丈夫、今までだって、彼女達は、必ず何とかしてきたんだから」

 そう言えば、ムスキとシズは、俺たちと通信出来るよう、無線機代わりに、しばらく一緒にいた仲だもんな、心配するのも無理はない。
 なんだか親友みたいに仲良しだったし。
 ムスキは、また精神集中して、シズを呼び出していたが、やはり反応はない。
 俺が北村少佐の所へ行ったり、動いている間も、ムスキはシズと時々部屋に招いて会っていたようで、彼女からすれば大親友の音信不通に等しいこの状況は、作戦のそれより大きい出来事のようだった。

 、、、しかし、これを単なる通信妨害と判断して良いのだろうか?。
 
 玲子君があの状況である以上、俺がシズと連携しなければならないのに、これでは、、、、
 まさか、墜落したなんてことは無いよな。

「ねえユウスケ、マーシャンさんに言って、マーシャンさんの母船からコンタクト出来ないのかしら、無事が解るだけでもいいのだけれど、、」

 もっともな意見だな。
 俺は早速、マーシャンに言って、母船からシズの所在などを調べてもらうことにした。

 

『皇国1号甲、1番機、発進準備よろし」

 14潜のカタパルトでは、いよいよ早川中尉の発艦の時が来ていた。
 
「早川、しっかり頼んだぞ」

「はい、、、北村少佐、お世話になりました、、、日本の国を、どうかよろしくお願いします」

 それは、熟練パイロットの、振り絞るような最後の言葉であった。
 感情を殺しつつ、それでも北村にだけは、今の心境を理解してもらいたい、そんな思いであった。
 続いて、艦内有線により、艦長から直接、1番機上の早川中尉へ通信が入る。

「早川、貴様の志は、我々が必ず成就させる、高速艇を、くれぐれも頼んだぞ」

「はい、山本提督も、14潜の皆様も、大変お世話になりました。航海の無事を祈念します。Y号作戦の成就と、海軍の復活を、どうか果たしてください、早川中尉、発艦します。」

 早川がそう言い終わると、通信は切られ、カタパルトの信号は赤から青へと変わった。

「1番機、発進」

 火薬式のカタパルトから、勢い良く射出される早川機。
 プロペラの無い、そして聞き慣れないジェットエンジンの重低音を響かせながら、1番機は空へ舞い上がった。
 安定した飛行に移った早川機は、14潜の上空を大きく一周し、主翼を左右に振って、別れの挨拶をした。
 そして、その一部始終を、ベニオンに乗艦している異世界の3人も見ていた。

「なあ、ユウスケ、どうして早川は自分の死も恐れずに、飛び立つ事が出来るんだ?」

「それが、帝国海軍の軍人なんだ」

 ゼンガが、飛去る早川機を目で追いながら、切ない表情でつぶやいた。

「俺も、沢山敵を倒してきたが、あんなのは初めてだ。この世界の人間は、少しおかしいぞ、ユウスケはそう感じないのか?」

 ゼンガの言葉を聞いて、俺は少し正気に戻った気がした。
 考えてみれば、俺も未来人、特攻隊の出撃を見るのは初めてだし、正直かなりショックを受けた。
 だが、多分ゼンガの言う「おかしい」という感覚は、多分持ち合わせていない。
 目の前で起こっていることは、明らかに異常なことなんだ。
 まるで潜水艦からミサイルが発射されたようにしか見えないこの光景の中には、明らかに人間が搭乗している機体が敵へ向かって発射されたのだ。
 そして、ムスキはこの異常な作戦の真相を、まだ知らせてはいなかった。
 さすがに、爆弾を抱いて体当たりする作戦なんて、女性には聞かせられない。
 多分、トラウマになるだろうし。

 それでも俺たちは、早川機が飛んで行った方角を、ずっと見つめている事しか出来ないでいた。



※ 早川中尉の設定資料 ↓
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