自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

文字の大きさ
上 下
344 / 390
「Y号作戦」の発動

第342話 桜花43型乙

しおりを挟む
「航海長、先ほどの位置から、高速艇が進んだとして、現在地の特定は可能か?」

「はい、恐らくは、、、間もなくウラジオストックに到着します」

「まったく、、、やられたよ、大した奴らだ、こちらの動きを読んでいたのか?」

 愕然とする山本は、艦内の側壁にもたれかかり、そのまま天を仰いだ。
 しかし、軍人としてすべきことはまだある、それが意味することも。

「伝令、甲型搭乗員の2名を呼んできてくれ」

「山本提督、我々はここにいます」

 精悍な顔立ちで山本を真っすぐ見つめる二人のパイロット。
 北村は、ベニオンとのやり取りを聞いていた。
 そして、この状況を打開させることが出来るのは、もはや自分たち2名しかいないことも、察していた。

「ようやくこの時が来ました、我々が出ます」

 山本は、少し間を置いて、「やってくれるか?」と二人に聞いた。
 二人は少し笑顔で「もちろんです」とだけ答えた。

 しかし、山本の発案は、甲型1機による作戦であった。

「よろしいのですか提督、目標の位置は特定出来ています、ウラジオストック港ごと、消滅させてしまうべきです」

「いや、港はまずい、高速艇を甲型2番機で攻撃してしまえば、それは港の破壊を意味する。目標はあくあで高速艇だ」

「しかし、2番機の30mm機銃では、撃沈は無理です、どうされるのですか?」

 山本は、二人の目を見たまま、副長に対して、ある物の搬出作業を命じた。
 そして、それを聞いた早川は、全てを悟り、山本艦長に「ありがとうございます」とだけ伝えた。


 それが全てであった。


 北村は、悔しそうな顔を浮かべながら早川の方を見た。

「北村少佐、先に行っていますから、あとからゆっくり来てください」

 それが、艦長が命じた作戦である以上、北村にはそれに反対することは出来なかった。
 
 山本艦長が副長に命じた「物」とは、特攻機「桜花」43型乙が積載する予定であった800キロ爆弾の弾頭である。
 桜花43型乙は、横須賀第2飛行場で運用される予定であった、特攻作戦専用に作られたジェット単発機である。
 今回使用されている「甲型」と呼ばれるこの航空機も、桜花43型甲と全く同じ機種である。
 その乙用の弾頭は、予備として14潜にも積載されていた。
 早川の1番機から30mm機関砲が外され、800キロ弾頭へと換装が急がれた。
 1番機は、こうして機銃による戦闘が出来ない純粋な「特攻機」へと変化し、当初の目的であった2番機の護衛という名誉は捨て去られた。
 しかし、早川の表情には曇りもなく、ようやく作戦に貢献できるという、充実感に満ちていた。



「おい、マーシャン、話が違うぞ」

 ソビエト輸送船団が、俺の意思によって魚雷攻撃を受けた後、ベニオンは俺たちの乗った小型艇を回収し、輸送船の救助活動を行っていた。
 
「アメリカは、この件に対して、一切手を汚さないつもりか?」

「もちろんです、北村達の行動をサポートするだけでも、アメリカは国際社会から孤立するレベルの事をしているんです」

「なら、どうして俺たちを小型艇で出した?」

「ハハハ、それは、もちろん保険ですよ」

 また保険か。
 こいつら大丈夫なのか?
 マーシャンも、なんだか策略家のような発想だな。

「まあ、GFもこの話を聞けば、納得すると思いますよ」

 なに?、話?。
 マーシャンは俺たちに、先ほどの輸送船から回収出来た陸軍の核物質が、半分だけだったと言う事を明かした。

「では、残りの回収はどうするんだ」

「それは、日本海軍が考えることです」

 そう言って、マーシャンは俺に薄っすらと笑顔を見せるのであった。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちゃぼ茶のショートショート 「フラッシュモブ」

ちゃぼ茶
ミステリー
あなたの人生はあなたのもの、私の人生は私のもの……とは限らない人生も面白い

それは奇妙な町でした

ねこしゃけ日和
ミステリー
 売れない作家である有馬四迷は新作を目新しさが足りないと言われ、ボツにされた。  バイト先のオーナーであるアメリカ人のルドリックさんにそのことを告げるとちょうどいい町があると教えられた。  猫神町は誰もがねこを敬う奇妙な町だった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

『量子の檻 -永遠の観測者-』

葉羽
ミステリー
【あらすじ】 天才高校生の神藤葉羽は、ある日、量子物理学者・霧島誠一教授の不可解な死亡事件に巻き込まれる。完全密室で発見された教授の遺体。そして、研究所に残された謎めいた研究ノート。 幼なじみの望月彩由美とともに真相を追う葉羽だが、事態は予想外の展開を見せ始める。二人の体に浮かび上がる不思議な模様。そして、現実世界に重なる別次元の存在。 やがて明らかになる衝撃的な真実―霧島教授の研究は、人類の存在を脅かす異次元生命体から世界を守るための「量子の檻」プロジェクトだった。 教授の死は自作自演。それは、次世代の守護者を選出するための壮大な実験だったのだ。 葉羽と彩由美は、互いへの想いと強い絆によって、人類と異次元存在の境界を守る「永遠の観測者」として選ばれる。二人の純粋な感情が、最強の量子バリアとなったのだ。 現代物理学の限界に挑戦する本格ミステリーでありながら、壮大なSFファンタジー、そしてピュアな青春ラブストーリーの要素も併せ持つ。「観測」と「愛」をテーマに、科学と感情の境界を探る新しい形の本格推理小説。

未来から来た美女の俺

廣瀬純一
SF
未来から来た美女が未来の自分だった男の話

少年館

華岡光
ミステリー
とあるヨーロッパのある国の田舎街には上中流階級の男性の欲望を満たすための秘密の場所があった。彼等からは"蜜の園"と呼ばれるその場所はおぞましい社性交界の場でもあった。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

処理中です...