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「Y号作戦」の発動
第340話 魚雷戦用意
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駆逐艦ベニオンの主砲は、依然こちらを向いたままだった。
可哀想なのは、小型艇に同乗したアメリカ海軍の水兵達で、なぜ自分たちが乗っている艇に対して主砲が向けられているのか解らず、困惑の表情を浮かべていた。
そうこうしている内に、臨検部隊の乗船要員は、輸送船の乗員との銃撃戦に押されて、ほぼ壊滅状態になっていた。
「、、、、通信手、発光信号を送れるか?」
「あ、はい、送れます、、、で、何とベニオンに送りますか?」
「いや、ベニオンへではない、、、14潜水艦へだ」
通信手は、少し怪訝な顔をしたが、起こる事がみんな事件のような事ばかりの現状に、従わざるを得ない事を早々に察した。
「よし、発光信号、「14潜は、直ちに潜行し、目標の輸送艦を撃沈せよ」以上だ」
「なんですって?、非武装の輸送船を、それもソビエトの輸送船を攻撃するのですか?」
「ああ、そうだ、急げ、こっちも危なくなるぞ」
通信手は、慌てるように複数回、只今の件を発光信号で送った。
すると、何回か送った後に、14潜側から短く「了解」の発光信号が送られると、臨検部隊の回収を待たずに急速潜行を開始した。
「、、、申し訳ないな、でも、これしか方法はない」
「艦長、米海軍小型艇より発光信号、「直ちに潜行し、目標の輸送艦を撃沈せよ」です」
14潜の内部は、臨検部隊が予想外に反撃を受けた衝撃から、まだ抜け出せてはいなかった。
しかし、山本提督の決断は早かった。
「よし、機関長、急速潜行、魚雷戦用意」
それを聞いた副長も、正気に戻り、潜水艦乗りとしては異様に大きな声で命令を復唱した。
「急速潜行、魚雷戦用意、ヨーソロー」
その号令が、艦内に次々と逓伝されて行くと、潜水艦の内部は久々の戦闘準備に表情が引き締まって行った。
「魚雷発射管、1番、2番注水、発射準備急げ」
「了解、、、、1番2番、発射準備よろし」
終戦から半年、敗戦国とは言え、日本海軍の潜水艦乗りの優秀さは依然健在だ。
通常の潜水艦の、何倍もの速度で攻撃準備が進行する。
「艦長、魚雷発射管、装填完了、いつでも行けます」
それを聞いた山本艦長は、潜水艦を後退させつつ、魚雷発射に必要な安全限界距離に到達するのを、潜望鏡を除きながら待った。
しかし、潜水艦も前進する際には早いものの、後退速度には限界があった。
そんな時だった。
艦内に、爆発音による激しい衝撃が走った。
「なんだ、どうした、各部署は異常の有無を直ちに指揮所へ報告」
副長が言い終わるより早く、山本艦長は、それを遮るように言った。
「副長、大丈夫だ、あれは15潜の魚雷だ。こちらの行動を読んでたな」
そう言うと、山本は少し笑いながら、自艦の対敵距離も起爆アーミング距離を離れた事を確認すると。
「1番、2番、魚雷発射」
艦長の号令を聞いた水雷員達は、直ちに発射ノズルを一杯に引いた。
艦内に、魚雷を発射した小さい衝撃音に続いて、スクリューを回すモーター音が続いた。
「臨検部隊には済まない、、、必ず仇は取るからな」
「艦長、彼らはもう、生きてはいないでしょう、、、本作戦は、最初から非情なものと解って、全員が参加しています、彼らはきっと、解ってくれますから」
山本は、一度小さく頷いただけで、何も答えなかった。
艦長として、彼らの中に生存者がいるか否かを確認してから魚雷戦に移る事は、常識であるが、この作戦は、そもそもが非常識である。
ソビエトに核物質が渡れば、核の均衡は破壊される、戦後の安定の為にも、ここで輸送船に逃げられる訳には行かないのだ。
「まもなく魚雷到達します」
それから数秒、艦内は静寂に包まれた。
そして、激しい爆発音がすると、潜望鏡を除いていた山本艦長が「火柱を二本確認」と叫んだ。
「魚雷発射管、3番、4番、続けて注水、後続の輸送船に照準合わせ」
2番までの戦果を確認した山本は、間髪入れずに次の魚雷を急いだ。
輸送船団は、合計3隻、15潜の撃沈1隻を入れれば、残り1隻、護衛の駆逐艦の無い輸送船団は潜水艦にとって恰好の標的だった。
「艦長、爆雷投下音を確認、輸送船の一部、爆雷可能な船のようです」
「艤装艦か!、護衛もないのはおかしいと思ったが、そう言うことか」
「引き続きロケット爆雷の着水音を確認、方角的に、15潜がやられているようです」
「山本提督、我々が出ます、出させてください」
「待て北村、ロケット爆雷なんぞ装備した輸送船のことだ、対空兵装も必ず積んでいる、ここは自重しろ、甲型が撃墜されることだけは避けなければならない、、、まだ機会はあ必ずあるからな」
北村の後方で、唇を噛みしめる早川がいた。
二人とも、既に飛行服に飛行帽まで被り、いつでも出撃できる準備を整えていた。
二人にとっては、このまま出撃機会を得ること無く、母艦ごと沈んでしまう事が、何より恐ろしいことであった。
可哀想なのは、小型艇に同乗したアメリカ海軍の水兵達で、なぜ自分たちが乗っている艇に対して主砲が向けられているのか解らず、困惑の表情を浮かべていた。
そうこうしている内に、臨検部隊の乗船要員は、輸送船の乗員との銃撃戦に押されて、ほぼ壊滅状態になっていた。
「、、、、通信手、発光信号を送れるか?」
「あ、はい、送れます、、、で、何とベニオンに送りますか?」
「いや、ベニオンへではない、、、14潜水艦へだ」
通信手は、少し怪訝な顔をしたが、起こる事がみんな事件のような事ばかりの現状に、従わざるを得ない事を早々に察した。
「よし、発光信号、「14潜は、直ちに潜行し、目標の輸送艦を撃沈せよ」以上だ」
「なんですって?、非武装の輸送船を、それもソビエトの輸送船を攻撃するのですか?」
「ああ、そうだ、急げ、こっちも危なくなるぞ」
通信手は、慌てるように複数回、只今の件を発光信号で送った。
すると、何回か送った後に、14潜側から短く「了解」の発光信号が送られると、臨検部隊の回収を待たずに急速潜行を開始した。
「、、、申し訳ないな、でも、これしか方法はない」
「艦長、米海軍小型艇より発光信号、「直ちに潜行し、目標の輸送艦を撃沈せよ」です」
14潜の内部は、臨検部隊が予想外に反撃を受けた衝撃から、まだ抜け出せてはいなかった。
しかし、山本提督の決断は早かった。
「よし、機関長、急速潜行、魚雷戦用意」
それを聞いた副長も、正気に戻り、潜水艦乗りとしては異様に大きな声で命令を復唱した。
「急速潜行、魚雷戦用意、ヨーソロー」
その号令が、艦内に次々と逓伝されて行くと、潜水艦の内部は久々の戦闘準備に表情が引き締まって行った。
「魚雷発射管、1番、2番注水、発射準備急げ」
「了解、、、、1番2番、発射準備よろし」
終戦から半年、敗戦国とは言え、日本海軍の潜水艦乗りの優秀さは依然健在だ。
通常の潜水艦の、何倍もの速度で攻撃準備が進行する。
「艦長、魚雷発射管、装填完了、いつでも行けます」
それを聞いた山本艦長は、潜水艦を後退させつつ、魚雷発射に必要な安全限界距離に到達するのを、潜望鏡を除きながら待った。
しかし、潜水艦も前進する際には早いものの、後退速度には限界があった。
そんな時だった。
艦内に、爆発音による激しい衝撃が走った。
「なんだ、どうした、各部署は異常の有無を直ちに指揮所へ報告」
副長が言い終わるより早く、山本艦長は、それを遮るように言った。
「副長、大丈夫だ、あれは15潜の魚雷だ。こちらの行動を読んでたな」
そう言うと、山本は少し笑いながら、自艦の対敵距離も起爆アーミング距離を離れた事を確認すると。
「1番、2番、魚雷発射」
艦長の号令を聞いた水雷員達は、直ちに発射ノズルを一杯に引いた。
艦内に、魚雷を発射した小さい衝撃音に続いて、スクリューを回すモーター音が続いた。
「臨検部隊には済まない、、、必ず仇は取るからな」
「艦長、彼らはもう、生きてはいないでしょう、、、本作戦は、最初から非情なものと解って、全員が参加しています、彼らはきっと、解ってくれますから」
山本は、一度小さく頷いただけで、何も答えなかった。
艦長として、彼らの中に生存者がいるか否かを確認してから魚雷戦に移る事は、常識であるが、この作戦は、そもそもが非常識である。
ソビエトに核物質が渡れば、核の均衡は破壊される、戦後の安定の為にも、ここで輸送船に逃げられる訳には行かないのだ。
「まもなく魚雷到達します」
それから数秒、艦内は静寂に包まれた。
そして、激しい爆発音がすると、潜望鏡を除いていた山本艦長が「火柱を二本確認」と叫んだ。
「魚雷発射管、3番、4番、続けて注水、後続の輸送船に照準合わせ」
2番までの戦果を確認した山本は、間髪入れずに次の魚雷を急いだ。
輸送船団は、合計3隻、15潜の撃沈1隻を入れれば、残り1隻、護衛の駆逐艦の無い輸送船団は潜水艦にとって恰好の標的だった。
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「引き続きロケット爆雷の着水音を確認、方角的に、15潜がやられているようです」
「山本提督、我々が出ます、出させてください」
「待て北村、ロケット爆雷なんぞ装備した輸送船のことだ、対空兵装も必ず積んでいる、ここは自重しろ、甲型が撃墜されることだけは避けなければならない、、、まだ機会はあ必ずあるからな」
北村の後方で、唇を噛みしめる早川がいた。
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