自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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「Y号作戦」の発動

第335話 Y号対馬沖海戦

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「それにしても、アメリカ軍の奴らはピッタリくっ付いてきますね」

「ああ、そうだな。敗戦国の潜水艦とは言え、これだけの装備の潜水艦を野放しには出来ないんだろうな」

 そう言うと、北村少佐は上を見上げた。
 自分たちの頭上には、駆逐艦ベニオンが張り付いている。

「それにしたって、駆逐艦風情が、まるで旗艦顔《きかんズラ》して、随分偉そうですね」

 北村は苦笑いし、再び頭上を見上げた。
 実際に、駆逐艦「ベニオン」は、事実上の旗艦として行動していた。
 本来「旗艦」であれば、艦長の上の存在、つまり艦隊司令が鎮座しているはずだが、それを今回の作戦ではたかだか「海軍大尉」のマーシャン・ディッカーソンが代役を務めていたのだから。

 そして、北村少佐も、そして山本艦長も、実は薄々それに気付いていた。
 そもそも、マーシャン・ディッカーソンが単なる海軍軍人には見えていなかった。
 どちらかと言えば、情報部の将校なのだろうと当たりを付けていたが、、、実際は未来人である。

 そして、14潜の周囲には、ベニオン以外の艦艇が、かなりの距離を取って随行していることも、14潜には探知されていた。
 それだけに、歴戦の艦長経験のある山本提督には、その艦隊陣形の意味が十分に理解できていた。


 それが、万が一の場合、このY号作戦自体を歴史の闇に葬ろうという意図を。


 しかし、山本提督にとっても、たとえそのような意図があったにせよ、直上でアメリカ艦隊が護衛に付いてくれている以上、自分たちにはまだ利用価値があるのだと、自身に言い聞かせていて。
 結局、戦後の再軍備を進める上で、彼らアメリカ海軍の戦力が無ければ、それは絵空事で終わってしまうのだから。

「艦長、15潜より感あり、「我、予定海域にて浮上して待つ」、とのことです」

 ようやく伊号第15潜水艦が日の目を見る日が来たのである。
 未完成のまま終戦を迎え、海没処分を待っていた不遇の艦体は、こうして国民に知られることなく秘密裏に作戦に従事することになったのである。

「艦長、2杯(隻)しかいませんが、只今より、艦長が艦隊司令です」

 副長がそう言うと、艦内から拍手が沸いた。
 何ら良いニュースの無い艦内において、それは小さな祝いでもあった。
 
 こうして、旧日本海軍の伊号潜水艦は、14号と15号の2隻体制により始動する。

「こちらは伊号第14潜水艦艦長、山本である。只今より本艦は旗艦となり、艦隊の指揮を執る。敵輸送船団は、現在日本海側対馬沖50を航行中である、艦隊は、急ぎこれを補足し、輸送中の目標物を奪取する。本作戦は時間が優先であるため、輸送船団がウラジオストック港へ入る前に接触する必要がある。そのため艦体は浮上状態のまま最大戦速をもって目標海域を目指す。全参加将兵の奮闘に期待する、以上」

 山本提督の無線命令は、いかにも海軍の重鎮といった説得力と安心感をもって全将兵に染み渡った。
 そうして、末端の水兵の中には、目的地も解っていない兵士もあったため、作戦の企図が理解出来たことで、艦内の熱気は上がり始めていたのである。

 こうして、Y号対馬沖海戦が発動したのである。
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