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「Y号作戦」の発動

第328話 極秘の地下壕

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 長井の第2滑走路には、既に複数名の搭乗員と整備員、滑走路管理要員が揃っていた。
 北村少佐と早川中尉を乗せたジープは、猪上閣下の自宅へ向かう前に、彼らの状況を確認していた。
 この第2滑走路の周囲には、多くの航空機用掩蔽壕が畑として偽装されており、専用の車両を使って、これら皇国1号兵器は既に何機も発射台の基部に揃えられていた。
 そして、残るは弾頭部分のみである。

 その弾頭こと、「ガンバレル型核弾頭」の隠し場所である猪上閣下の自宅地下に、彼らは向かった。
 
「猪上閣下、早朝より大変失礼致します」

 北村以下30名の搭乗員と整備員は、自宅前のスペースに整列し、猪上閣下に対し敬礼をした。

「よさんか北村、私はもう現役ではない、、、、それより、どうしてもやるのか?」

「はい、閣下、我々はこの日のために戦時中より耐えてきました。今がその時かと」

「、、、、なあ北村よ、この兵器は使うのが目的ではないのだな?」

「はい、使用は考えていません、新生海軍の象徴として、駆け引きに使用出来る事でしょう」

 猪上大将は、とても複雑な表情を見せていた。
 それは、広島に投下された原子爆弾が、どうやら自身の足元に隠匿されているF組の核弾頭とほぼ同型のものであったからである。
 当然、猪上も広島の惨状は見知っていた。
 あの兵器は、これからの世界の構図を大きく変えてしまうものになるだろう。 
 そして、現時点でそれを保有しているのは、アメリカと旧陸軍KD派と、旧海軍のY号のみである。
 それは今後、世界の列強と互角に交渉が出来る切り札が自軍にあることを示していた。
 それ故に、猪上はかなり迷ってもいたのだ、あのアメリカを、本当に信じて大丈夫なのか、結局今回のY号作戦自体、アメリカ軍に利用されているのではないかと。
 しかし、計画は既に発動してしまったのだ。
 ここから引き返す訳には行かない。
 日本の戦後は、これで良い方向に変わる、猪上は今、そう信じるしかなかった。


「これは、、、晴子さん、おはようございます」

 北村少佐一行を待っていたのは、猪上の一人娘の晴子であった。
 先日訪問した時よりも、些か痩せたようにも見える。
 猪上邸の地下へは、晴子が案内してくれた。
 つまり、晴子はこの作戦の概要を、既に知っていることになる。
 北村は、晴子にまでそのような試練を与えてしまったことを悔いた。
 彼女達のような若い日本女性たちを守ってあげたい、そんな想いが北村達にはあった。
 横須賀だけではない、日本中の女性がこの苦しい時代を耐えている。
 そんな些細な幸福すら守ってやることが出来なかった軍人とは、こうも惨めなものなのだろうかと、北村は心が痛んだ。

 予備役編入されたとは言え、元海軍大将の自宅、密かに地下施設があろうなどとは誰も思わない、それこそが猪上大将の狙いでもあった。
 長く続く地下への階段、海軍が終戦までの期間に、密に作ったこの地下道は、急拵えにしてはしっかりとした作りになっていた。

 全員が地下に到着すると、そこには既に小型の揚陸艇に積載されていた一発の核弾頭があった。

「大きいですね、これで本当に空に上がれますか?」

「一応、終戦前に同様の重さで試験飛行はしてある、かなり重いがな」

 この時点で、潜水艦からの発射実験は未だ出来ていなかった。
 海軍も、終戦前には航空機が搭載できる潜水艦は作戦に使用していて実験どころでは無かったからだ。

「この大発(揚陸艇)、エンジン大丈夫ですかね」

「隠匿兵器だからな、試運転も出来ていない、かなり整備した状態で隠匿したから、大丈夫だとは思うのだが」

 そうは言っても、終戦から半年が経過したこの時期、海岸の掩蔽壕に入っていた発動機がかかるかは心配であった。
 この計画は、こんな些細な事情でも頓挫しかねない。 
 2.5tもあるこの弾頭を、30人で運び出すことは出来ない、もちろん今来た地下道を弾頭を持って上がることなど絶対に出来ないのだから。

「飛行隊長、ダメです、大発の発動機、かかりません」

 全員の表情が一瞬で青ざめた。
 何故なら、伊号第14潜水艦は、既にこちらに向かって前進中なのだから。
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