自称「未来人」の彼女は、この時代を指して「戦前」と呼称した

独立国家の作り方

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「Y号作戦」の発動

第327話 見つかってしまったね

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 横須賀軍港の早朝3時40分、2月末の冷たい風が頬を吹き抜けるこの時期は、何か人に優しくない鋭さが感じられた。
 それが、この伊号第14潜水艦の前で整列する乗組員の気持ちを引き締めていた。
 
「艦長臨場、各指揮官のみ敬礼」

 秘密裏に出向する前ではあるが、これが極めて危険な航海であることは誰の目にも明らかであった。
 そのため、最低限の儀式は済ませておきたいという、一同の思いがあった。
 それは、決起集会とでもいうものだろうか、それとも、海軍には出港前に、このように整列しての儀式があるのか、俺には解らなかった。
 そして、暗いながらも、全員の前に現れた山本提督を、真剣な眼差しで見つめる60名の乗組員の表情は、血気に盛んな侍のそれである。
 
「諸君、海軍が解体され早4カ月が過ぎた、この中には既に軍務を離れ、民間人となった者、他の省庁へ異動となった者、それぞれだと思う。そのような中、海軍精神を貫くという一点のためだけに、よくこれだけの精鋭が集まってくれた。私にとっても、これが最後の航海となるよう、この一戦において、旧陸軍KD派を、必ずや壊滅させ、戦後復興に向けた一歩を歩み出す。どうかこの山本に、力を貸してほしい。」

 陸軍と戦っていると思っていたが、「KD派」っていう連中と戦っていたんだな。
 俺は未だ知らない事が多すぎる。

「山本提督、日本製の魚雷は満載にしてありますよ、調達に苦労しましたがね」
 
「ディッカーソン大尉、かたじけない」

 この潜水艦には、旧海軍の規格に合う武器、弾薬で満たされていた。
 マーシャンは、この種の調達に長けていたようだった。
 短い時間で儀式を終えた潜水艦の乗組員たちは、手慣れた様子で潜水艦に乗艦し、出港準備を進めていた。


 同じ頃、北村少佐の邸宅では、また違った別れの儀式があった。

「、、、お父様?」

 海軍航空隊の飛行服に身を包んだ北村少佐は、早朝3時30分、自宅を出ようとしていた。
 緊急を要する時間計画であったため、北村少佐は既に自宅から臨戦態勢を取っていたのだった。

「やあ桜子、見つかってしまったね」

 飛行服の北村少佐は、優しく笑うと、それは「心配要らない」とでも言わんばかりの笑顔であった。

「、、、どうして、、どうしてお父様が、行かねばならないのですか?、、、お母さまが、お可哀想」

 静かに泣き崩れる愛娘を前に、さすがの北村少佐も少し後ろ髪を引かれる思いであったが、飛行隊の全責任は自分にあると、それはどんなに後ろ髪を引かれようが、行く以外の選択肢など無かった。
 同じく海軍の飛行服に身を包んだ早川中尉が、家の前に、米海軍のジープで待機していた。

「それでは桜子、お父さんは行くから、、、お母さんの事、頼んだぞ。斎藤君と幸せにな」

「お父様、それではまるで今生の別れのようですわ、、、どうしてそのような仰り方、なさるのですか?」

 北村少佐は、黙ったまま、両手を肩にかけていた桜子の手を優しく下すと、再び笑って玄関を出た。
 桜子は、玄関先まで出て行ったが、海軍の半長靴にストンと足を入れると、手際よく玄関を飛び出した。
 早朝の住宅街、あまり大騒ぎしてはならないと、北村少佐は待っていた早川中尉とともに、米海軍のジープに乗った。
 早川中尉が、海軍の飛行服に軍帽を被った状態で敬礼をすると、車はそのまま行ってしまった。
 桜子は、その車が去るのを、いつまでも見送る事しかできなかった。


「よかったんですか?、奥様に最後、お会いしなくて」

「なに、これが最後の別れではないさ、また、横須賀に戻ってくるのだから。それより、猪上閣下の所へは、問題ないな?」

「はい、問題ありません。先の爆撃でも、甲型も乙型も、一切被害はありませんでしたから」

 この時早川が言っていた「乙型」と「甲型」とは、これから二人が搭乗する特殊攻撃機を指していた。
 皇国1号兵器と皇国2号兵器、これは海軍の原爆計画「F計画」に使用される専用機であった。
 1号は、当時最新鋭のジェットエンジン「ネ-20」単発式、2号はジェットエンジン双発式の航空機であり、この内、2号兵器については戦後「橘花」として、国産ジェット航空機第1号として日本の航空史に残っているが、この皇国1号兵器は、歴史の闇に葬られ、戦後日本国民には一切知られることは無かった。
 特に「甲型」と呼ばれるこの機体は、潜水艦に搭載できるよう翼の畳み方が独特な方法を取っていた。

「しかし、陸軍は皇国1号乙が、飛行場から飛び立つと考えていたんですね」

「ああ、それが幸いして、爆撃の被害を間逃れたのだから、運が良かったな」

 彼らが言う「乙」とは、地上の発射台から射出されるタイプの機体で、滑走路ではなく、専用のカタパルトを使用するため、非常時には滑走路が無くても飛び立つことが出来た。
 北村と早川は、この甲型の受領を、猪上閣下にお願いしに行くところであった。
 この「皇国1号甲型」は、正に猪上閣下の自宅近くの海岸線に掘られた秘密の掩蔽壕の中に、弾頭とともに隠されていたのだ。
 弾頭、、、それは、魚雷を大きくしたような形であり、起爆方式は広島型原爆と同じ「ガンバレル型」と呼ばれる方式の核弾頭であった。
 そしてこのガンバレル型であることが、日本海軍オリジナルの原爆であることの証でもあった。
 この時代、ガンバレル方式の実用化に成功していたのはナチス・ドイツと日本海軍だけだったのだから。

 それ故に、、、、広島に投下された原子爆弾は、アメリカ製のものではないのである。


※ 横須賀基地 潜水艦ドック等設定資料 ↓
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