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「Y号作戦」の発動
第326話 明朝0400
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「北村少佐、それでは別班、神戸を向け前進します」
別班とは、今も極秘裏に進められている伊号第15潜水艦の乗組員を指していた。
彼らは陸軍に怪しまれないよう、私服で各々神戸を目指し、現地で合流し出航する予定である。
そして、既に日米合同による試験航海を終えた伊号第14潜水艦の乗組員達は、軍服姿で乗船し、出発の時を待っていた。
北村少佐は、引き続き陸軍の襲撃に備えて、この横須賀地方復員局の警備に当たっていた。
本来、敷地の外周は、米軍が警備していたが、その伊号第14潜水艦を中心とした一区画は、旧海軍側が担当していた。
そんな時だった、北村少佐の元に、一本の電話がかかってきた。
「はい、、、はい、、え?、、、爆撃?、、はい、、、解りました、閣下にもお気をつけ下さるようお伝えください」
何か深刻な内容のようで、神妙な面もちになった北村少佐は、警備に必要な最低限の人間以外を緊急に集合させた。
俺もその集合に急行した。
「どうしたんですか、北村少佐」
俺は慌てて北村少佐に駆け寄ると、事態の確認を急いだ。
「斉藤君も来てくれたんだね、丁度良い、たった今、猪上閣下のご息女から電話が入り、横須賀第2飛行場が空襲を受けたとの事だ」
ん?、空襲?、もう戦争は終わったんだろ?何でまた米軍が空襲なんてするんだ?
「陸軍は、爆撃機を保有しているんですか?」
若い旧海軍の下士官が驚いたように駆け寄る。
爆撃機?、陸軍の?、ん?、何で?
北村少佐は、神妙な面持ちで黙り込んだ。
「、、、、たった今、別班を神戸に送ったばかりだ、、、、」
「彼らとの通信手段は無いんですか?」
「定時連絡の電話だけだ、移動も個々バラバラに前進中だ」
どうやら、旧陸軍の側は、海軍が保有している戦力の状況を、既に知っているようだった。
それだけに、北村少佐は迷っていた。
それは、別班が神戸に到着して伊号第15潜水艦が戦力化するまで、数日を要する。
横須賀に停泊中の、伊号第14潜水艦のように、つい昨日まで航行していた潜水艦とは訳が違う。
しかし、陸軍に後れを取って、停泊中の第14潜まで撃沈されては、もはや海軍主導の再軍備は絶望的となる。
そのためにも、決断は急がれた。
「早川、全部署に電報だ、「Y号は明朝0400決行」と」
どうやら、彼らYシャツには、それだけで全て解る手筈になっていたようだった。
そして、北村少佐は、直接電話をかけようとしていた。
先の会議にも参加していた、戦艦「武蔵」の歴代艦長を務めた山本少将へだった。
俺はその前に、どうしても北村少佐に聞いておきたかったことがあった。
「北村少佐、あなたが戦場に行ってしまったら、奥さんと娘さんはどうなるんですか?」
「斎藤君、君も軍人なら解るだろ、私だけではない、全員が同じ思い、同じ事情を持ってこの戦いに臨むのだ、妻はきっと解ってくれる」
「しかし、桜子さんは?、彼女はまだ、記憶も戻っていないんですよ」
「斎藤君、、、、だからこそ、君の元へ嫁がせたかったんだよ」
そうか、北村少佐は、最初からこうなることを覚悟して、俺の元へ玲子君を穏便に帰そうとしてくれていたんだな。
本物の男は、、、語らないんだな。
北村少佐は、俺にそう言い終えると、電話機の前に座り、山本提督へ電話をしたのだった。
「、、、はい、明朝決行致します、提督には、将官のお立場でありながら、艦長をお願いすることになり、申し訳ありません」
艦長?、山本提督って、たしか終戦時階級が少将だったよな。
そんな人物までもが潜水艦の艦長をするなんて、よほど大切な戦いなんだろう。
明日の朝、戦後史を覆すような一大決戦が始まるのだ。
別班とは、今も極秘裏に進められている伊号第15潜水艦の乗組員を指していた。
彼らは陸軍に怪しまれないよう、私服で各々神戸を目指し、現地で合流し出航する予定である。
そして、既に日米合同による試験航海を終えた伊号第14潜水艦の乗組員達は、軍服姿で乗船し、出発の時を待っていた。
北村少佐は、引き続き陸軍の襲撃に備えて、この横須賀地方復員局の警備に当たっていた。
本来、敷地の外周は、米軍が警備していたが、その伊号第14潜水艦を中心とした一区画は、旧海軍側が担当していた。
そんな時だった、北村少佐の元に、一本の電話がかかってきた。
「はい、、、はい、、え?、、、爆撃?、、はい、、、解りました、閣下にもお気をつけ下さるようお伝えください」
何か深刻な内容のようで、神妙な面もちになった北村少佐は、警備に必要な最低限の人間以外を緊急に集合させた。
俺もその集合に急行した。
「どうしたんですか、北村少佐」
俺は慌てて北村少佐に駆け寄ると、事態の確認を急いだ。
「斉藤君も来てくれたんだね、丁度良い、たった今、猪上閣下のご息女から電話が入り、横須賀第2飛行場が空襲を受けたとの事だ」
ん?、空襲?、もう戦争は終わったんだろ?何でまた米軍が空襲なんてするんだ?
「陸軍は、爆撃機を保有しているんですか?」
若い旧海軍の下士官が驚いたように駆け寄る。
爆撃機?、陸軍の?、ん?、何で?
北村少佐は、神妙な面持ちで黙り込んだ。
「、、、、たった今、別班を神戸に送ったばかりだ、、、、」
「彼らとの通信手段は無いんですか?」
「定時連絡の電話だけだ、移動も個々バラバラに前進中だ」
どうやら、旧陸軍の側は、海軍が保有している戦力の状況を、既に知っているようだった。
それだけに、北村少佐は迷っていた。
それは、別班が神戸に到着して伊号第15潜水艦が戦力化するまで、数日を要する。
横須賀に停泊中の、伊号第14潜水艦のように、つい昨日まで航行していた潜水艦とは訳が違う。
しかし、陸軍に後れを取って、停泊中の第14潜まで撃沈されては、もはや海軍主導の再軍備は絶望的となる。
そのためにも、決断は急がれた。
「早川、全部署に電報だ、「Y号は明朝0400決行」と」
どうやら、彼らYシャツには、それだけで全て解る手筈になっていたようだった。
そして、北村少佐は、直接電話をかけようとしていた。
先の会議にも参加していた、戦艦「武蔵」の歴代艦長を務めた山本少将へだった。
俺はその前に、どうしても北村少佐に聞いておきたかったことがあった。
「北村少佐、あなたが戦場に行ってしまったら、奥さんと娘さんはどうなるんですか?」
「斎藤君、君も軍人なら解るだろ、私だけではない、全員が同じ思い、同じ事情を持ってこの戦いに臨むのだ、妻はきっと解ってくれる」
「しかし、桜子さんは?、彼女はまだ、記憶も戻っていないんですよ」
「斎藤君、、、、だからこそ、君の元へ嫁がせたかったんだよ」
そうか、北村少佐は、最初からこうなることを覚悟して、俺の元へ玲子君を穏便に帰そうとしてくれていたんだな。
本物の男は、、、語らないんだな。
北村少佐は、俺にそう言い終えると、電話機の前に座り、山本提督へ電話をしたのだった。
「、、、はい、明朝決行致します、提督には、将官のお立場でありながら、艦長をお願いすることになり、申し訳ありません」
艦長?、山本提督って、たしか終戦時階級が少将だったよな。
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